あたしは鷲塩サツキ。ごく普通には程遠い身体をしている高校生。
あたしの背中にはカラスの羽のような黒い羽が生まれつき付いている。
ついでに言うとこの羽は見せかけではなく、実際空を飛べる。
「だから、今からでもシートベルトから抜け出して逃げてやる~!」
あたしは今、法定速度なんて知らないよ走法による、暴走車に六花のお兄さんの提案で乗車していた。
「てことは、鷲塩と六花が二俣の事愛してる感じなのか。二俣ならぬ二股じゃねえかあの女誑しめ」
「メイにはあのパチンカスどこがいいのか分からないけどね」
何故メイと一樹のお兄さんはこの状況下で会話できてるのだろう? ていうか話題の内容、もしかしてあたし達に関係すること?
もっともあたしはこの車から抜け出すことに必死だから、会話に割り込めないのだけど。
ちなみに狐崎と六花は気絶していた。狐崎はともかく六花がやられるなんて……
「浪人、留年、停学のコンプリートを達成した二俣でもフィジカルはいいからなぁ。プロのヒモニート出来る逸材だぁ」
◇
「最近ね。メイの姉が色気を出すようになったんだよね」
「それって、誰かと付き合ってるんじゃないか?」
「まさか、いまの今まで初恋が無いと豪語しているお姉ちゃんがそんなことないと思うけど」
話題は変わり、今度は五十嵐の姉について語り合っている様だ。
「んなぁ。もしメイの義兄に当たる人が碌な奴じゃなかったら。ギコギコしてガリガリしてプチプチしたあとネムネメにする」
「物騒なこと言うねぇ君。やるなよ?」
(いつのまにか五十嵐の眼がどす黒くなっていた。こりゃ、五十嵐の姉の彼氏さんこれから大変そうだぁ。俺の彼女にこんな妹がいなくてよかったぁ)
◇苗字とか共通点から察して、いい加減気づいてほしい。
「そういえば五十嵐は恋愛に興味ないのか?」
「んなぁ。無いかなぁ。メイの王子候補は中々見つからないんだ」
「ハハっ、君も俺の彼女みたいなこと言うんだなぁ。流行ってんのそれ?」
「えっ? メイ以外でそんなこと言う人なんていないよ。メイだって、メイのお姉ちゃんの受け織りだし」
「へぇ、そうなんだ。てことは、君のお姉ちゃんは相当なロマンチストなんだな」
(後で五月に『五月と同じような考えの人がいたよ』って言おう。世界は広いんだなぁ)
与太話はそこら辺に早く止まってほしい。それか警察にしょっ引かれてほしい。
◇帰宅後
「五月、君と同じ思想を持った人を見つけたぞ! いやあ、世界って広いんだなぁ」
「はぁ……? 王子様候補の件ですか? あんまりほじくり返さないでください。あれは私にとって黒歴史なのです」
「そうなんだ……人って成長するんだなぁ」