〈破戒の魔王〉・カミュとの契約を果たそうとした瞬間、シエルの声が聞こえた。
「馬鹿クロイ!!」
「…シエルか?」
後ろを振り向くと、普段見ているシエルの姿があった。カミュはシエルを見るなり、僕から離れた。
「ッチ。良いところだったのによ」
「君さ。なんでも巻き込まれるの体質なのかい? 別にいいけどさ。でも、他の魔王と契約なんてシャレになんないから。しかも、ゲス野郎にも捕まりそうになるなんて……。あたしが来なければ、クロイは死んだと当然。身体を乗っ取られて、一生こいつに利用されるだけだよ」
シエルは僕の左手を握ってきた。しかし、その手はかすかに震えていた。
「シエル……」
「クロイ。こいつについて行ったらダメだ。あたしの傍からいなくならないで。お願いだから」
初めて、シエルがこんなに弱々しいところを見たのは。
「すまなかった。シエルの気持ち、何も考えていなかった」
「……いいんだ。こうして、クロイが目の前にいる。それだけでいい」
「そうか」
僕はシエルの手を握り返し、頭を撫でた。
「生きていたのかよ。〈失望の魔王〉……シエル・ブランウェン」
カミュの口から、シエルが〈失望の魔王〉だという事が知らされた。僕は動揺は一切見せずに、シエルの手を握ったまま、カミュウに向き合った。
「驚かない…のかい?」
澄んだ声で、僕に問いかけてくるシエル。静かに頷くと、少し安心したのか、口元が綻んだのが見えた。
「シエルは、シエルだからな。例え〈失望の魔王〉であっても、僕はシエルの味方でいる」
「クロイ……」
「ッチ。スノーバーグを滅ぼしかけたあの時、小娘を庇って、俺に心臓を握りつぶしたはずなんだけど?」
(心臓を!? でも、シエルは生きている)
シエルを横目で見ると、さっきまでとは違う余裕の笑みを見せていた。
「あー、あれかい? 死んだことがない君にはわからないか」
「んだと?」
「〈魔王〉になった者は、〈不老不死〉になるのさ。それを今まで知らなかったのかい? 馬鹿だねぇ~」
呆れた顔をするシエルに、カミュは苛立っていた。
「そうなのか?」
「そうだとも! 後であたしの話を最後まで聞いてくれるかい?」
「勿論だ。ルキアたちも含めて話を聞こう」
「フフッ。クロイを見つけて、本当に良かったさ。さて、まずは、この精神世界から出ることに専念しようか!」
(精神世界から出る方法を見つけなければな)
「クロイ・シリルだけ置いていなくなれよ! 〈失望の魔王〉如きがっ!!」
カミュは声を荒げ、右手から鎖を出し、シエルに向けてはなった。迷いなく腰から〈エクスカリバー〉を鞘から引き抜き、鎖を斬った。
「なっ!?」
「僕は、
〈エクスカリバー〉を胸の前に構え、その手にシエルの手が重なると、剣が光り輝き、自分とシエルの魔力が剣に流れたことを示した。それを見たカミュは、自身の身体から鎖と、地面から黒い手を出し、全力で僕たちをこの精神世界から逃がさないようにとしてきた。
「〈失望の魔王〉の権能を忘れたのかい? アタシよりも弱い。いや、〈魔王〉の中で一番弱いくせに」
シエルはカミュに悪意のある言葉を吐き捨て、自分に全て攻撃が当たるようにしたのか、カミュの攻撃と黒い手がシエルの方に向かって攻撃を食らったが、ダメージを受けずに無傷で、僕の横に立っていた。
「権能・〈
「回数制限はあるけど、
「このクソガキがッ!!」
カミュは今度こそ僕に狙いを定め、鎖を飛ばしてきた。
だが、〈エクスカリバー〉に魔力が溜まったのを確認した僕は、彼に向けて詠唱を唱え、シエルと
「───数多を駆け抜ける竜の息吹。それぞれの願いと夢を叶えるために、我らに手を貸し給え! 〈エクスカリバーン・オリジン〉!!」
星のように流れる光の波動が、鎖ごとカミュの胸を貫通した。口から大量に血を吐き出し、その場に膝を崩しながら胸を押さえるカミュ。
「カハッ!!」
「あたしは、クロイと一心同体なのさ。だからこうして、魔力を受け渡すこともできるのさ。もう二度と、
「絶対に、クロイ・シリルをッ! 手に入れるッ!! 絶対にだッ!!」
カミュは、僕に手を伸ばしながら、言い捨てると共に、精神世界が崩れ始めた。
「ここからやっと出れる」
「そうだとも。クロイ、あたしの話を元の世界に帰ってから、ちゃんと聞いてくれるのだよね?」
「あぁ。約束だもんな」
「フフッ。これで、色々と楽になれる。
シエルの言葉を最後に、僕は意識を手放したのだった。