「できれば、もう少し事情を聞きたかったんですけど」
走り去るゴミ箱を深追いする事はせず、私達は当初の目的を果たすべく、軽食を取っている。
とは言えさすがに腰を落ち着けてゆっくり食事をとるつもりにはなれず、持ち帰り専門店という形式の店でこの世界の甘味であるというクレープなるものを買った。
柔らかな黄色の皮の中に何やらとても甘い白くてふわふわしたものと果物が包まれている。すぐにでも崩れそうな柔らかさは持っていて不安になるが、勧められたとおりに美味しいのは確かだ。
「ゆっくりしてて良いの?」
確かではあるが、休憩できる長椅子に座って人通りを眺めながら甘味を楽しんでいる余裕があるのかは良くわからなかった。
「帰ったら、報告をしたり、追跡の必要性を相談したり、色々ありますよ」
スズカの顔は少し疲れているようにも見えた。どうやらこれで中々忙しいらしい。
「それに、もしかしたらあのゴミ箱さん、まだこの近くにいるかもしれませんし」
意味ありげな雰囲気で、スズカは首を動かす。
同様に私もあたりを確認してみるけれど、その理由は私には良くわからなかった。
歩いているのは様々な年齢の人々。小さな動物を連れた姿もある。街の流れは平穏で、先ほどのような事件が入り込む余地は無いように思える。
「ふぅん。さっきみたいなこと、良くあるの?」
甘味を口に含む合間に問う。
スズカの戦い慣れている様子は、この平穏な街並みと比して違和感のようなものがあった。
「あまり頻繁という程ではありませんけど。様々な世界の人が事故みたいな形で来られるので、どうしても問題は起きてしまうんですよ」
スズカの反応はやはり疲れている。
今日の動きというよりも、どうやらこの世界の状況そのものに疲労を感じているような印象だ。
「多分ですけど、さっきのゴミ箱さんは私達が把握できなかった方なんですよ」
説明される。
私は偶然というべきか、サーチス目掛けてこの世界に来たためにセイバーズに素早く検知され、彼らに保護してもらう事ができた。
「私達も、できるだけ取りこぼしがないように異世界から来る人達に接触したいのですが」
この、地球とスズカ達が呼ぶ世界は巨大な球形で100を超える大小の国が5つの大陸と幾つもの島々でに存在している。
それだけの巨大な世界のうち、私達がいるのは南北に長い日本という島国、その中でも47に区分けされた中のひとつ、だというからセイバーズが各地に点在しているにしても把握が遅れる地域があるのも仕方ないだろう。
「どこに出現するか分からない、というのと。この世界の人と上手く付き合うことができなかった方、共存を拒んでしまう方とは、どうしてもトラブルが起きてしまいますし。そういう人々が新たな来訪者の方を取り込んでしまう場合もあるんです」
それもわかる。私の世界がそもそも幾つもの種族が共存を拒み、戦い合っていた世界なのだ。一つの世界の中でも諍いが起きるのだから、複数の世界の人々が出会ってみんな仲良し、というのはきっと不可能だと思う。
「そういう、相容れない人とつるんでるかもしれない、ということ?」
問にスズカは頷く。
何者かがあのゴミ箱の後ろに居て、何かをもくろんで居るなら、次の悪事をこの近辺で考えているかもしれない、とスズカは危惧しているのだ。
「ここも、平和じゃ無いのね」
「残念ですが」
どこも大変だ、とため息交じりに呟くと、スズカも同じようにため息をついていた。