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第2話

「……どう思うかな? あれ」


 待ちかねたように、面接官の一人が誰ともなく訊ねる。〝ほうよなあ〟〝どうじゃろ〟と、皆一斉に口を開いた。早く仲間内で話したくてしょうがなかったようだ。


「まあ、元々そこそこ知名度があるアイドルなんやろう? 本来ならよう来てくれた、ゆうようなもんよな」


「それ絡みで取材なりなんなり来るかもしれんしな。そん時に斧馬のことにもちょこっとでも触れてもろうたら、それだけでも価値があらい」


「でもあの娘、アイドルの時にたびたび暴力事件起こしとるゆう話やけんなあ……」


「そこよ」


「それ気んならいな。具体的にどんな塩梅なんやろ?」


「面接で聞きゃあよかったのに」


「本人目の前にしたらどうもな……」


「後からなら何でも言えらい。あんたが聞いてもよかったんやけん」


「ネットではどがいぞ?」


「うーん……今スマホで検索しよったんやけど……具体的なことはどこにも書いてないんよなあ……ニュースっちゅうか記事みたいな形ではないわい。掲示板とかツイッターみたいなんで噂や憶測がちょこちょこ出てくるぐらいで」


「前に見た時もそんな感じやったもんな」


「ネットいうのはそういうもんよ」


「まあアイドルいうんも競争の激しい世界やろうしなあ。そんぐらいのことは日常茶飯事なんかもしれんな」


「大袈裟に伝わってしもうとるゆうんもありがちな話よ」


「だいたいその、暴力事件いう話は誰が言い出したん?」


「ほら、あの山名のとこの娘よ。今度応募してきたんが元アイドルらしいゆうんで、あの娘に聞いてみよ、いう話んなって……」


「ああ、そうか。あの娘がえらいアイドル好きやゆう話で」


「そうそう。知っとるんやないか、ゆう話んなったんよな」


「あんとき凄かったで。普段からは想像もできん勢いであの娘、喋りまくったけんな」


雅樂うたちゃんかあ……そういや、雅樂ちゃん『空き家リノベーション係』よな? 武音さん来ることんなったら、雅樂ちゃんの担当んなるんやない?」


「おお! ほんとや!」


「あん娘もようやく天職を見つけた、ゆうことんなるかもな。ハハハ……」


「あんたそれは言い過ぎで」


「いやいや悪気はないんよ。小さい頃からよう知っとる娘やし、氏素性もしっかりしとる娘やけんな」


「……まあ、もう決まりでええんやない? なんか色々ハマっとる気もするやないか」


「ほうやな。ご縁があった、ゆうことで」


「やけどなあ……わしはどうもひっかかるんよなあ……」


「なにがな?」


「なんで斧馬を選んだんかはっきりせん、いうとこよ」


「どうでもええいうたら、どうでもええことないか?」


「しかしなあ……元アイドルがおたすけし隊に! いうたら、そりゃ注目度は上がるやろうけど……言うたらなんやけど客寄せパンダみたいなとこあるやんか」


「別にそれはそれでええんやない?」


「パンダはパンダでたくましゅう生きとるんや、それの何が悪い、ゆう話よ」


「いや、やからよ。いざ注目された、ゆう時にあの娘がなんで斧馬を選んだんかはっきり説明できんかったら……」


「ああ、あんたの言いたいことわかった。わしらが裏でこちょこちょやって来てもろうた、って疑われんか、いうことやな?」


「そんな事実はないんやから堂々としとりゃええ。仮にそうでも別に法律に違反しとるわけやなし」


「でも外聞が悪いわい。これで失敗でもしたら余計※めんどしかろう?」


「いやいやあんた、逆の立場でも考えてみんと」


「どういう意味?」


「あの娘の立場んなってみたら、ゆうこと。みんながあんたみたいに考えたらあの娘、どこのおたすけし隊でも採用されんで」


「ああ、そうか……」


「まあ、なんとのう気にいった、いうこともあらい。そこはあんまり深う考えんでええやろう」


「あんたさっきからそんなんばっかりゆうて」


「わしらは不正は一切しとらんし、機会は平等や。わしらは武音さんが斧馬を選んだ、ゆうチャンスを生かす方向に考えたほうがええ」


「チャンスんなりゃええが……」


「まあまあ、前向きに前向きにな」


「そういや、武音さんはなんかのイベントで来た時に斧馬が好きんなった、みたいなことゆうとったが、どんなイベントぞな? わし覚えないんやけど」


「そらあんた、興味がないからで。そういうんは若いもんが行くようなもんやろ」


「いや、でも一応市政に携わる立場やけん……」


「……今スマホで調べてみたんやけど、多分あれ斧馬のことやで」


「えっ? 隣の隣やないか」


「まあ、〝この近くに来た時〟とはいうとった」


「近く言や近くやけど……」


「……」

「……」

「……」


「……まぁ、こっちにも遊びかなんかで来たんかもしれんな」


「この辺遊ぶようなとこないけど……」


「自然があるやないか自然が! ジオパーク!」


「歴史もある。古代ロマンも……」


「まぁまぁ……。しかし、そう言うたらもう一方のほうのおたすけし隊の娘もなんで斧馬に来たんかはようわからんで」


「あれ? あんたも知らんの?」


「あのなんか暗い娘か? そういや面接もしとらんし、ようわからんよな」


「この前いきなり〝挨拶に来た〟って市役所に来た時にはびっくりしたな」


「市長に聞いてみんと」


「市長も知らん言いよるで」


「なんやそれ」


「こないだのカラオケん時に聞いてみたんやけど、わしもようわからんゆうて」


「わからんですむかい。なんのための市長ぞゆう話よ」


「あれ、なんかようわからんところからねじこまれた、みたいな話やなかった? 俺はそう聞いたんやけど」


「あの娘こそ市長のコネや思うとったが。違うんか」


「わしは知らん。まあどっちみちようわからんのやろ? そもそも市長も知らんのやから……」


「まあええわい。わからんならわからんでひとまず置いとこうや」


「ほうやな。良さそうな人が一人来てくれた、ゆうだけでもええとしよ」


「うん。やるだけやりました、ゆう風にはせんようにせんとな」


 長い歓談が終わり、ようやく面接官たちは席を立った。


「……まあ、こがいなもんはなるようにしかならんわい」




※恥ずかしいの意

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