一方ベンチの裏に隠れ、その様子をスマホで撮影していた学生達は、小学生のような弾んだ雰囲気を醸し出していた。
「すごいよ~! ガイコツが再生するとこ、ちゃんと撮れた~?」
「あったりまえだよ! そっちもしっかり撮れよ!」
峻も口調はこんな感じだが、顔面からは笑みが絶えることがない。
「お前、幽霊見たかったんだろ? あれでいいの?」
「え~? 古墳から出てきた骨なんだから幽霊枠でいいでしょ~? 死者の想いみたいなのも感じるしさ~」
「お前のこだわり、よくわかんねえな」
しゃべりながら、峻は少しずつ身体を横にずらし移動する。冬絹とは違うアングルで撮影したいのだ。
冬絹は純粋に自分の撮りたいものが撮れているので喜んでいるが峻は違う。
今度こそこの動画を、収益に繋がる形でYOUTUBEにアップロードしたいのである。
「おい、俺ちょっと後ろの方から撮ってくるから。こっち頼む。編集してカッコイイ感じにしようぜ」
「後ろの方って?」
「あの、上に立ってる黒い奴にちょっと近づこうと思って」
何となく声を潜め、峻は丘の上の薬子を指し示した。
「え~! ズルいよ~! そっち僕がやるよ」
「バカ。危ねえぞ」
「そんなの峻君だって同じでしょ~?」
冬絹はフグのように口を尖らせて文句を言う。
「いや、だからそれはお前……」
峻が反論のために口を開けた瞬間、二人の背後の藪がガサッと音を立てた。〝ヒッ〟と声にならない声を上げ、二人はしりもちをつく。
「同じですわ……」
音の方を見てみると、見るからに憔悴した一人の女が立っていた。全身白装束、頬は生気を失い薄青く、虚ろな瞳で古墳を見つめている。
「うわあっ! ごっごごごごごめんなさい! ぼ、ぼ、僕はただ霊的なモノが撮影が出来ればそれで満足なんです! 決して死んだ人をバカにする気はなくって……」
「お、お、俺もただ金儲けがしたいだけで……。いや、あの、儲かったら半分くらいはどっかに寄付するんで……いや、三分の一……四分の一、気持ちだけでも……」
二人とも古墳の霊が祟っていると思い、必死に命乞いしているのだが、白装束の女はまるで聞こえていないようだった。
「あれは……忘れもせぬ十年前のこと」
誰に向けている言葉なのか不明瞭だが、女は自らの頭に手をやり、何事か呟いている。峻と冬絹は、吸い込まれるように耳を傾けた。
「次世代アイドル発掘・育成計画・PROJECT〝S・O・R・A〟公開オーディション最終審査会場『西東京
「えっ?」
「な、なんですか?」
「ストサム結成以前、一姫様はまだおらず……一人の審査員の無礼な言動に激怒した乙女様は荒れ狂い、会場を阿鼻叫喚の地獄の底に叩き落としたのです……」
「えっ? 警備員とかは?」
「もちろんおりましたが、まるで問題にならず……すぐに戦闘不能になっておりましたわ」
思わず発せられた質問に、女は律儀に答える。
「わたくし運良くその伝説の現場に居合わせたのですが、今の雰囲気はあの時そっくりです。それは凄かったんですのよ? 獣のような威圧感で周囲に恐怖を撒き散らし、群がる人々を、ちぎっては投げちぎっては投げ……わたくしその時何かとても尊いモノの一旦に触れたような気がしまして、一瞬でファンになってしまいました。そう、喩えるならまるで恋に落ちたような、とでも申しましょうか……」
「な、なんの話してるんですか?」
「ね、ねえ、この人待宵屋敷にいた人じゃない?」
冬絹がようやく、女が雅樂だと気が付いた。暗い夜の山でこんな状況の時によく気づいたというべきであろう。
「あ、市役所の人か!」
どういう状況かわからず、峻と冬絹は邪魔にならないよう、とりあえず少し距離を取った。待宵屋敷でのこともあるし、もしかしたら市が関わっている儀式か何かかと思ったのだ。
二人ともカメラは回し続けていたのは、さすがの根性である。