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第6話 良い才能を持ってました

「凄いです!」

「なんか体が勝手に動きます」

「これならすぐGランクになれますよ!」


 僕はアンナさんと一緒に昨日と同じく街の外へ来ていた。


 今日は冒険者ギルドでモンスター素材の納品依頼を受けたため、アンナさんが1人で倒せるくらいの弱めのモンスターを狩りに来たのだが、僕が試しに戦ってみると短剣1つで最初からすぐ狩れてしまったのだ。


「本当にルイ様は武器を扱ったことがないのですか?」

「たぶん?」

「正直今回は私が倒して、ルイ様には少しずつモンスターとの戦いに慣れてもらうつもりでしたが、これなら早めにこの街を出られますね」


 何やら大事そうな話を今された気がする。


「この街を出るんですか?」

「はい。ルイ様はもう貴族に未練がないと思いますが、新しくこの街に来る貴族の方はルイ様のことを気にすると思いますので」


 ブロフォント家がなくなったため、この街には新しく他の貴族が来るらしいが、僕がこの街に居るとちょっと良くないらしい。


「新しい貴族の方が僕のことを気にするんですか?」

「何か大きな失敗をしたわけでもなく、ただご両親がなくなっただけで貴族の位を剥奪されたからこそ、ルイ様が貴族に対して恨みを持っているのではないかと気になってしまうのです」


 確かに少し前までこの街で貴族として暮らしていた息子が居ると、新しくこの街にやってくる貴族の人は僕が恨みを持ってそうで怖いのか。

 あとは貴族なんだから僕の面倒を見てくれとか言ってくる可能性まで考えているらしい。


「確かにアンナさんの言っていることは分かりました。それならいつここを出ていくんですか?」

「早くて3日後とかですかね。本当は1週間後くらいにしようと思っていましたが、ルイ様の戦闘能力が素晴らしいので、Gランクになれるのが予定より早くなりそうです」


 アンナさんの中ではGランクになったらこの街を出ていこうと決めていたらしい。


「分かりました。ちなみにここを離れてどこを目指すんですか?」

「第1候補はルイ様が学園へ通う予定だった連合国の街になりますが、どうでしょう?」

「僕は分からないのでアンナさんに任せます」

「そうでした。はい! 私がルイ様を導きます!」


 この後も僕がモンスターを倒して、アンナさんに納品依頼のアイテムを集めてもらう。


「これで終わりです」

「分かりました」


 納品依頼分のモンスター素材が集まったらしいので、僕は短剣を鞘に戻しアンナさんの横に立って歩く。


「これであと何回か今と同じような依頼を受ければ、Gランクになれると思います」

「じゃあ頑張ってモンスターを倒しますね」

「怪我だけは気をつけてください」

「はい」


 アンナさんは僕に金属製の防具を着せたい気持ちと、体の動きを阻害する防具は着せられないという気持ちの勝負で、結局革の装備を僕は着ることになったのだが、動きやすくて防御力もあるこの装備を選んでくれて本当に良かった。


「絶対に油断は駄目です!」

「分かってます。アンナさんの言うことを僕は聞きますから」


 僕の戦闘が上手くなると、その分喜ぶと同時に心配もしてくれる。

 上達しても心配されるなら僕としてはどうすれば良いんだという感じだが、アンナさんに気にかけてもらえるのは嬉しい。


「(僕、またアンナさんを意識してるな)」

「ルイ様、行きますよ」

「あ、はい」


 この関係を長く続けるためにも、僕はまたアンナさんへのこの気持ちを抑え込むのだった。




「だから、俺らだけで絶対にいけるって」

「いえ、冒険者ギルドとしてこの依頼をあなた達だけで受注させるわけにはいきません」

「ランクは足りてるだろ?」

「おーい新人、Gランクでイキってることを恥ずかしく思えよ、なぁ?」

「間違いねぇ」

「頑張れ新じ〜ん」


 冒険者ギルドへ帰ってくると、依頼を受けようとしている若い男3人のパーティーが、酒場の方にいる冒険者達から色々言われていた。


「ルイ様、私は納品してきますね」

「あ、お願いします」


 このような状況は普通なのか、僕を残してアンナさんは行ってしまった。


「お、そこに居る新人と一緒にやれば良いんじゃねぇか?」

「そうだそうだ、おーい、お前こいつらと一緒に依頼受けてやってくれよ」

「確か女と組んでたよな。合わせて5人なら行けるだろ?」


 少し酔ったベテランの雰囲気を漂わせている冒険者達が、僕とアンナさんを男3人組のパーティーと組ませようとしてくる。


「クソッ、勝手に決めやがって」

「でも、周りの奴らの言う通りだ。今は我慢しよう」

「そうだぜ。すぐあいつらなんか追い越してやろう」


 なんか段々と外堀が埋められてる気がする。


「おいお前、俺達と組め」

「えっと、状況が良くわからないですけど、僕は昨日冒険者になったばかりで」

「関係ねえよ、この依頼は俺達でやる。依頼中はどっかで時間潰してろ」

「駄目ですよ。ちゃんと依頼には全員で行ってもらわないと。それが出来ないならこの依頼を受注させるわけにはいきません」

「あぁぁああクッッソ! お前もついて来い! ついてくるだけだ!」

「あの、とりあえず待ってください」


 こんなこと僕1人で決めるわけにはいかない。


「ルイ様! どうされましたか?」

「はっ、どっかのお坊ちゃんかよ。店が潰れて冒険者でもしないと生きていけなくなったか?」

「元々期待してなかったが、それなら話が早い。俺たちの受注する依頼に協力してくれ。金は渡せないが、冒険者ギルドの評価は上がる。お互いにいい話だろ?」

「なんですかそれ? 私達は2人で依頼を受けるので断らせていただきます! ルイ様行きましょう!」

「そ、そういうことなんで頑張ってください」


 アンナさんに続いて僕もその場から離れようとするが、


「あいつら断られてやがるぜ!」

「しかもお坊ちゃんとその使用人にだぜ!」

「新人の恥かいてるところを見て飲む酒はうめぇ〜!」


 僕とアンナさんは誘いを断っただけだが、酒場の方にいる冒険者達のせいで、僕達がこの3人組に恥をかかせたみたいになってしまった。


「待てよ! ついてくるだけでいいって言ってるだろ!」

「私はそもそも依頼内容を聞かされてないですし、そんな態度を取る方と一緒に行動したくありません」

「こんっのアマ!「やめとけ!」」


 アンナさんに襲いかかってこようとした冒険者を、仲間の1人が抑えている。


 その間にアンナさんは冒険者ギルドの職員さんのところまで行き、大きな声で抗議を始めた。


「職員さん、このような状況になって私達が外で襲われたらどう責任を取ってくれるんですか?」

「え、わ、わたし?」

「酒場の冒険者達からおもちゃにされているこの3人も可哀想だと思いますが、私達は本当に無関係です。ただ納品依頼を終わらせに来ただけで、この3人に私達は恨まれてしまいました」

「い、いえ、冒険者であればこのくらいは普通だと」

「じゃあ先程仲間の方が止めなければ私達は襲われていたわけですが、冒険者ギルドは見て見ぬふりをするのですね。私達は昨日冒険者ギルドへ登録したばかりですが、ギルド内でも冒険者ギルド職員は困っている冒険者を助けないと、そういうことですね」

「あ、あの、そういうわけでは……」


 アンナさんは最初3人組パーティーに怒ったと思ったら、次は冒険者ギルドの依頼受付にいた職員さんに怒っている。


「お酒を飲まれて酔っている冒険者の方々と、私達に依頼の協力をお願いしてきた方々はおそらくお知り合いなんでしょうけど、私達はそのどちらとも全く面識のない他人です。それなのにあのような絡まれ方をして、ルイ様が明らかに困っていたのは分かっていましたよね? 基本的に冒険者同士の喧嘩には介入しないとしても、一方の立場が明らかに弱く困っていていたとしても助けようとしない、それが冒険者ギルドのやり方なのですね」

「いえ、あの、わたしも止めようと」

「止めようとなんてしてませんでしたよ。私が来た時ルイ様は1人でこの状況をどうしようか悩んでおられました。あなたはそんな新人冒険者を「そこまでにしてやってくれ」」


 アンナさんがずっと職員さんに話し続けていたら、昨日冒険者登録をしてくれた職員さんが来た。


「俺みたいな冒険者あがりは仲裁できるが、最初から受付と事務作業だけでここに入った奴には何もできねぇよ」

「ですがそれを理由にして目の前で起きている問題を無視するのはどうなのですか?」

「あぁ、お前さんの言う通りだから、もう許してやってくれ。あとそこの奴らも新人を煽って暇つぶしするのやめろ。そんなに暇なら俺が遊んでやろうか?」

「……あっちで飲み直すぞ」

「だな」

「もう今日は話しかけねぇよ」


 職員さんがそう言うと、さっきまで酔って叫んで楽しそうだった冒険者達も離れていった。


「これで機嫌直してくれよ、な?」

「……分かりました。私も少し言い過ぎたようです。ルイ様、次からは私と一緒に依頼達成窓口に行きましょう」

「分かりました」


「……女に守られてやがる」

「ダセェぜ」

「(おい、今そんなこと言うな!)」


 若い男3人組の内2人の声がこっちまで聞こえてきたが、その通りなので僕は何も思わなかった。思わなかったが、隣にはそうじゃない人が居た。


「何て言いましたか?」

「ダセェって言ったんだよ。お前じゃねぇ、お前の横にいる奴がだけどな」

「ルイ様に謝りなさい。何も知らないくせに、他人へそのようなことを言えるあなたには、謝ることができるとは思いませんけど」

「あぁ、知らなくてもダセェことは分かる。依頼を断ってくれて良かった良かった。こんなのと一緒に行ったら俺達にまでビビりが移ってたかもしれねぇからな。ハハハッ」

「もう行こう。依頼はまた今度他の奴誘って受ければ良い」

「だな。じゃあビビりくんまたね」

「僕はもうあなた達に会いたくないですけど、さようなら」

「ビビりくんでコイツ反応しやがった!」

「こりゃプライドの無ぇ新人が入ってきたぜ!」

「おい、行くぞ」


 僕は今にも飛び掛かりそうだったアンナさんの腕を掴んで、あの3人組が冒険者ギルドから出ていくのを待った。


「ふぅ、アンナさんありがとうございました」

「……なんでルイ様は私を止めたんですか」

「いや、僕達は早くこの街を出ていこうとしてるのに、今問題を起こすのは良くないと思って」

「そうですけど! 冒険者にはプライドも大事です!」

「じゃあ今回だけ我慢しましょう。次の街では僕も気をつけますから」

「……ルイ様がそう言うなら」


 なんとかアンナさんの怒りは収まったらしい。


「お前らも大変だな」

「最初にあの職員さんが止めてくれたらこうはなってませんでした」

「あんまり言わんでやってくれ」


 また言い合いが始まりそうなので、僕は話題を変える。


「でも何の依頼を受けたがってたんですか?」

「どうせモンスターの討伐依頼だ。確か15体位の草原ウルフを狩る依頼が出てたはずだしな。あれは報酬がなかなか良かった気がする」

「そうなんですね」


 それで僕達を人数合わせに呼んでたのか。


「ルイ様行きましょう。早く次の依頼を達成してこの街から出ます」

「じゃあ、職員さんありがとうございました」

「気ぃつけろよ」


 こうして冒険者ギルドで少し揉めてしまったが、何の被害もなく冒険者ギルドを出ることが出来たのだった。




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