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第9話:ゴモラの街の領主

◆ ◆ ◆


 ベヒーモスを爆散させた後、孔明たちはルナたちと合流する。ルナとともにいたレイがぺこぺこと頭を下げて感謝を述べてきた。


「助かりました~~~。これでベヒーモスへの生贄にならずに済みました~~~」

「えっ!? そんな話でしたっけ!?」

「あれ……言ってませんでしたっけ? おかしいなぁ?」


 レイはすっとぼけている。苦々しくレイを睨むが、当人は「それでは!」と言って、この場から去っていこうとする。


 レイの襟首をつかみ、無理矢理こちらへと振り向かせ、さらには羽扇の先っぽを彼の鼻の穴に押し込んでやった。


「ふがぁ! 何をするんですかぁ!」

「私を上手いこと利用しましたね?」

「そ、そんなことありませ~~~ん」

「では、ベヒーモス討伐の報奨金をお願いします。それと領主に会うための手続きを今日中に済ませておいてくださいっ!」

「そ、それは……」

「できないんですか? 孔明ビー……」

「うわぁ! やめてください! わかりましたっ! 明日、お昼過ぎに領主様の館へ来てくださいーーー!」


 紆余曲折はあったが、領主の館に行くための切符を手に入れた。こうなれば、このレイという木っ端役人は用済みだ。彼を自由にし、さらにはドンッと尻を蹴飛ばしてやった。


 レイはよろめきながら、この場から逃げるように去っていった。孔明は「ふむっ」と満足げに鼻を鳴らす。


◆ ◆ ◆


 ルナとヨーコを伴って、ゴモラの街の宿屋へと向かい、そこで1泊する。次の日の午前はせっかく占い館を開業したので、そこで占い師の仕事をこなしつつ、時間を潰す。


 客入りは上々だったが、昼になったので、閉店し、軽く昼食を済ませた後、領主の館へと向かう。館の入り口では木っ端役人のレイが立って待っていた。


「ようこそいらっしゃいました。領主のショー・リュウ様がお待ちです。さあ、どうぞ、中へ」


 レイの案内で領主の館の中へと入った。王都の隣街ということだけはあり、それにふさわしい高価な調度品が飾られていた。


 孔明たちはそれを横目にしながら、レイの後を黙ってついていった。応接間に案内されるや否や、孔明は足がズンッともう一段、埋まる感触を得た。毛が長い絨毯が敷かれており「おやおや……」と興味深い声を出してしまう。


 後ろに続くルナは歩きにくいのか、足元を気にしている。その姿が可愛らしくて、つい「ふふっ……」と微笑んでしまった。


 応接室に通された後、腹が出た中年の男がこちらに近づいてきた。さらには握手を求められた。


 凡庸な領主とひと目でわかるデブ体型であり、さらには彼の顔は汗と皮脂でギラギラと汚い輝きを発していた。


「これはこれは……よくおいでくださいました。私の名はショー・リュウ。このゴモラの街の領主を務めさせていただいております」


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名前:ショー・リュウ

統率:12

武力:19

政治:83

知力:62

義理:89

野望:11

無双ゲージ:0本

列伝:ゴモラの街の領主。育毛剤が欠かせない。以下略

備考:諸葛亮孔明難

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 ショー・リュウは自己紹介した後、こちらの右手を両手でがっしりと力強く包み込んできた。「うっ……」と生理的嫌悪を感じたために、つい、それを表情として出してしまった。


 だが、領主のショーはそれに気付かないかのように振舞ってきた。「さあさあ」とばかりにソファーに座るように促してきた。


 ルナとともに恐る恐る、革張りのソファーにお尻をつけた。するとだ、それが革張りとは思えないほどにお尻が沈んでいく。さすがの孔明もこれには驚くしかなかった。


 こんなふかふかのソファーに座ったことは前世で体験したことはなかった。ソファーの柔らかさに驚いていると、領主のショーがにへらと口元を緩ませた。


 ショーの表情を見るに、こちらに警戒心を抱いていることが丸わかりだ。身体の前で合わせている手が止まることを知らないかのようにせわしなく動いている。


 こちらに緊張感が伝わらないようにと努力しているのであろう。だが、落ち着きのない仕草だらけだ、ショーは。


 さらにはハンカチをポケットから取り出し、止まらない顔の汗を拭き始めた。


「えーーー、この度は草原の王者と呼ばれるベヒーモスを狩っていただき、ありがとうございます。これは少ないですが……」

「うわっ! 本当に少ない! あっ、声に出ちゃいました」


 ショーに対して失礼な言い方であった。だが、声が出てしまうほどに報奨金が少なかった。木製の皿の上に銀貨が5枚だけ置かれていた。


 たったの5000ゴリアテだ。宿屋のスイートルームに1泊しかできない報奨金だ。ジト目でショーを見つめてやった。


 ショーは申し訳なさそうな顔をしつつ、さらに噴き出た汗をハンカチで拭っている。よほどの訳ありだということが彼の仕草から知ることができた。


「この際、報奨金の少なさについて言及しません。それよりも、何故、山のように大きいサイズのベヒーモスの討伐で、銀貨5枚しか出せないのか? その理由が聞きたいです」

「はい……恥ずかしながら。このゴモラの街の様子をご覧になられたでしょう。人々から活気が失われているのが」

「そうですね。不景気なんだなーってのが伝わってきます」

「そうなのです……王からこの街を預かっているというのに、耕地にはベヒーモス。港の周りにはクラーケン。農作物も水運業も上手くいかなくなっているのです」

「ふむ……」


 孔明はものありげに羽扇で口元を隠してみせた。涼し気な態度でありながら、冷めた視線でショーを見つめてやった。彼はどんどん縮こまっていく。


 ゴモラの街に活気がない理由はこれだけではないことは簡単に予想できた。だが、この話の続きを言ってくれそうもない。


「仕方ありません。目から孔明ビーム!」

「うぎゃぁ!」


 ちょうど、こちらに頭頂部が見えるほどにショーが縮こまっていたので、彼の頭頂部にある薄い髪の毛をビームで焼いてみた。河童のように頭頂部の髪の毛が失くなってしまった。


「お似合いですよ」


 にっこりとほほ笑みながら、そう言ってやった。すると、河童頭のショーが「ひぃ!」と可愛らしく鳴いた。嗜虐心をくすぐってくれる。


 もう一発、目から孔明ビームを放とうとしたら、左肩に乗っていたヨーコにぺしーんと平手打ちされた。


 そうされたことで、こちらの顔が横に向いてしまい、ショーの隣に立っていたレイの上半身に当たってしまった。


 彼の着ている役人服の一部が焼け落ちた。それによって、左乳首が丸だしになった。


「あの……とばっちりすぎるのですが」

「すみません。バランスを取りましょう。目から孔明ビーム!」

「いやん! 何をするんですかぁ!」


 孔明の策略通り、レイは両方の乳首が丸だしになるイカした姿となった。「ほっ……」と安堵の息を吐く。


 レイがこちらを苦々しく睨んできたが、白羽扇を盾にして、彼の視線をブロックした。


「答えにくいのであれば、私が言い当てましょう。ずばりっ! この不景気の状態で、さらには重税を課していますね!」

「何故、それを!? どうやって知り得たのですか!?」

「ふふっ……幾度も愚かな君主や領主を見聞きしてきましたので」

「ぐぅ……私が悪いわけじゃないんです! こうなっているのは全部、王位継承権争いのせいなのです!」

(あーーー、どこの世界でもそういうのって変わらないですね……。しかし、王位継承権争いに巻き込まれるとは。これまたツキが無い領主様ですね)


 呆れたとばかりに体重をソファーにどっしりと預けた。この革張りソファーだけは、どこまでも優しく自分を優しく抱きかかえてくれた。


 領主のショー・リュウが抱えている問題は山積みなのであろう。それに一歩足を踏み入れた。


(これはきっと運命なんでしょうねぇ……)


 孔明はため息をつくしかなかった。

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