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8「vsサーキス一味」③

(ふざけんな……っ なんで俺が倒れて、F級のアイツが立ってやがんだよ!?)


 腹にラフィの拳がめり込まれ、そのダメージで地面にくずおれたサーキスの頭は、困惑と怒りに支配されていた。彼のプライドはさっきからズタズタに傷つけられている。長年底辺と見下し続けていた相手にいい様に言われ、反撃までされている。

 サーキスのプライドが、このままで良いわけがないと強く刺激し、彼は自身の「パッシブスキル」を発動するのだった。


 (俺のパッシブスキル―――「乱暴者」。攻撃力が向上する代わりに知力が低下しちまう、攻撃一辺倒のスキルだが………問題ねぇ!

 相手はF級底辺の雑魚なはずなんだ!A級昇格が約束されたこの俺が、F級如きにやられるはずがねぇんだ!!)


 思考が攻撃寄りへと豹変したサーキスは、大筒を構えて本気の戦闘態勢に入った―――




***


 サーキスが武器の大筒を構えた。雰囲気も何だか攻撃的で危険な怒りを帯びてるように見える。もしかして「パッシブスキル」でも発動した?

 ちなみにパッシブスキルとは、アクティブスキルとは違い本人の意思とは無関係に発動されるかつ体力等の消耗も無いスキルで、様々な効果と恩恵がもたらされる。常時発動するものもあれば、特定の条件を満たないと発動されないものもある。

 このパッシブスキルの発現についてだけど、そもそも一生発現しない者もいれば、生まれながらに発現している者もいて、謎が多い種類のスキルとされている。

 そして発現したところで、その強弱も運次第。すっごくしょぼいものがあれば、滅茶苦茶凄いものもある。


 パッシブスキルは基本一人につき一つしか発現していないとされている。しかし稀に二つ持つ者も存在していて、そういう人がS級の傭兵だったり王国騎士団のトップ騎士になったりする。

 以上を踏まえた上で、僕のパッシブスキルについて語らせてもらうけど―――


 「教えておいてやるよ。僕にはパッシブスキルが存在するって」

 「は………?」


 サーキスだけでなくその仲間たちも一同に固まった。静寂を破ったのはサーキスの嘲りだった。


 「ぎゃはははははーーーっ!何を言ってやがんだお前はよぉ!?寝言か?それとも妄言か!?これまで一つのパッシブスキルも発現してなかったお前が、三つ持ちだぁ?

 いいか、俺みたいな優秀な傭兵でも、パッシブスキルは一つしか持ってねえんだよ!S級の傭兵やミラ・リリベルみてぇなバケモン騎士でも、持ってるのは二つまでだ!それがよりにもよってお前みてぇな雑魚カスが三つ持ちだと?のぼせ上がるのも大概にしろや!!」


 ドォン!


 怒声とともにサーキスは大筒の引き金をひいて、特大の砲弾を発射してきた。大きいだけじゃない、弾速もかなりの速度だ。避ける暇が無い!


 「死ねぇええええええっ!!」



 僕はその場で静止すると腰を少し落とし、同時に右手に精神を集中させる。すると右手から膨大な魔力が発生し、手だけでなく腕全体に纏わりつく。


 「あ、あれはアクティブスキル“魔力エンチャント”!?生身に魔力を纏わせてやがる!?」


 グレイクが驚愕の声を上げる中、僕は地面を強く蹴って、飛んでくる砲弾にこちらから迫り、魔力を纏わせた右腕を全力で振るった―――!


 バガァン! サーキスの特大砲弾は、僕の拳で粉々に砕けて、軽い爆発を起こして消え去った。


 「う、うそだろ………っ 俺の砲撃を、素手……で―――っ」


 愕然とするサーキスたちに、僕は自慢げにこう告げてやる。


 「僕に発現したパッシブスキル、その1――“不撓不屈ふとうふくつ” 自身をさらにパワーアップしてくれる。発動条件は、瀕死に陥った時や致死に至るレベルの攻撃を受けた時。

 さっきお前は僕を短剣で致命傷を与えた。だから僕の力がこんなにも大きく跳ね上がったんだ」

「う、うるせぇえええええええ!!“火蜂ファイアバレット”」


 僕の話の途中でサーキスはまたも砲撃を……かと思いきや、今度は手のひらから真っ赤な火の弾を大量に飛ばしてきた。さっきの砲弾よりも速く、僕の体に次々命中する。両腕を交差させてどうにかガードする。


 「わけのわからぇことほざくな!だったら今度は二度と復活できねーよう、跡形残らず消し飛ばしてやるよ!!」


 魔術攻撃を中断したサーキスが大筒を再び構える。砲口が赫灼に輝き、魔力が集中していく。今日、討伐任務の際に森の中で一度見たことがある。奴は砲弾に火の魔術を込めて、絶大な威力の砲撃を可能とさせる。

 それを可能にさせているのが特別製の大筒と、奴のアクティブスキルである「砲術」だ。


 それより魔術攻撃を中止してくれたお陰で、こちらも自由に動ける!僕は両手を地面に突っ込むとメリメリと地面を引っ張って、地盤をくりぬいて大きな壁を屹立させた。


 「はっ!そんなもんで、上級の魔物を消し飛ばしてみせた俺の最強の一撃が、防げるかよぉ!!今度こそ死ねやぁ!!――――“赫灼砲レッドバースト”」


 ドゥウッッ!!赤熱色の魔力を帯びた巨大な砲弾が、こっちに飛んでくる。そして地盤の壁を容易くぶち抜いて、地面に激突して大爆発を起こした。


 「ぎゃっははははははあ!?これだとお前の無様な死に顔が見れねーじゃねーかあ?残念だったぜぇ!」

 「そうでもないと思うよ?」

 「―――え?」


 僕はサーキスの真横に立ち、そう言葉をかけてやった。


 「な、何でそこにいやがんだよ……っ」

 「砲弾を避けて、ここまで移動してきただけだけど」


 あの地盤の盾は防御ではなく、僕の動向を隠す目くらましを目的としたもの。こいつが引き金をひく前から僕は既にここ目がけて走っていたのだ。


 「こんな初歩的な戦術にも気付けないなんて、相当知能が落ちてんだね。カワイソー」

 「ま、待て―――――――」


 ブン――ドギャア! 渾身の廻し蹴りが、サーキスの肋骨部分に直撃した。サーキスは弾丸の如く、仲間たちのところまで吹っ飛んでいった。


 「パッシブスキルその2――“報復精神ほうふくせいしん” 発動条件は、相手の攻撃を受けた時のみ。攻撃を受けた後に繰り出した自分の攻撃の威力が倍になる」


 仲間たちに体を支えられ、首をだらんとしているサーキスと彼らに、僕はまた自慢げに語るのだった。


 「そして三つ目のパッシブスキル―――不死者イモータル。発動条件は無条件で、スキル詳細は――、だ」


 僕の言葉に、全員がギョッとした顔でこっちを見た。


 「このパッシブスキルのお陰で、僕は殺されても死なない不死身の人間になったのさ!」


 聞き違いであることを否定するように、僕はもう一度はっきり、自分が不死の存在であると告げてやった!





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