203X年。
ある日、日本中でダンジョン内のモンスターが地上に溢れ出して近隣の住民たちを襲い始めた。
この災害は迷宮災害と呼ばれた。
政府は即座に緊急事態宣言を発令。
自衛隊によるダンジョン入口の爆破や封鎖が行われたが効果はなかった。
そこで、極秘に設立されていた特殊部隊。
迷宮作戦群による、ダンジョン破壊作戦が実行された。
迷宮作戦群はダンジョン災害や未知の現象に対抗するための特殊部隊。
隊員の中には戦闘ペットを所持する者もいる。
そして俺、乃本百一も所属している。
俺はこの時点で十八歳の二等陸士。作戦群への参加なんて本来は絶対に有り得ない。
まあ、
俺は日本の為に命を使うために生まれてきた。
訓練と修練と演習、ただひたすらに国防の為だけに生きてきた。
そういう家に生まれて、たまたま命を使うべき時代だった。
珍しい話ではあるが語るほどのことはない。
俺は千歳近郊のダンジョンへと潜った。
これは捕らえた攻略者の証言の中に「最下層のボスを倒したらダンジョンが消えた」というものがあった。
故に迷宮作戦群の任務は、千歳ダンジョンボス討伐による消失現象の再現。
迷宮作戦群は順調にダンジョンを進んだが。
五十階層を過ぎても最下層には辿り着かなかった。千歳ダンジョンは想像以上に広大だった。
六十階層にて一度地上に戻り装備や糧食の補給や作戦の見直しを行うべきだという話になり迷宮作戦群は撤退を選択した。
撤退開始直後に、大型モンスターに遭遇。
一つ目の巨人が現れた。
重傷者二名、死者一名。
死者が出たところで、ボス討伐で利用するはずだった84ミリ無反動砲を使用。
撤退を強行しようとしたが、一つ目は健在。
深手を負った一つ目は苛烈に暴れた衝撃によって、地面が割れた。
俺は地割れに巻き込まれて下層へと落下した。
落下後、気を失っている間に俺が落下した亀裂は閉じて閉まっていた。
ダンジョンには自動修繕反応と呼ばれる、ダンジョン内の損傷などを自己修復する習性がある。
仕方がないので俺はこの階層の探索を始めたが。
結論からいうと、俺は迷った。
食糧が尽き、モンスターを食った。何回か当たって死にかけた。
それでも生きて仲間たちと合流する為に、俺はモンスターの血肉を啜って生き延びた。
やがて迷い続けて、
俺の身体は変化していた。
怪我の治りが異常に早くなっていた。
そして回復力に関係あるのかはわからないが、十年前から肉体的に年をとっていなかった。
迷い続けて。最下層に辿り着いた。
上がる気だったのに十年をかけて一番下まで来てしまった。
「……なんだ貴様は? この黒竜王に挑みに来たのか? ははは、わざわざこの二百五十六階層まで……楽しませておくれ」
一目でボスだと分かる真っ黒で巨大な竜が、俺に向けてそう言ってから。
本当に少しずつ、戦い方やらの攻略法やら有効な戦法戦術戦略を組み立てて。
ようやっと勝ったわけなんだが。
「なんで消失が起こらねえんだ」
俺はダンジョン内を歩きながら呟く。
「私が生きているからな、殺してみるか? そうすれば簡単に帰れるぞ、
隣を歩く黒髪グラマラス美人……黒竜王第五形態は俺の呟きに飄々と返す。
あの勝利の際に、黒竜王は人型になった。
どういう現象なのかは知らないが、俺……というか迷宮作戦群の任務は迷宮災害の鎮圧。
つまりは災害対策、そして災害対策の基本は人命最優先だ。
この黒竜王は間違いなくモンスターであると同時に、日本語を解し知性を持った人の姿の人間である。
この場合の人権はどう考えるのかは、国会や裁判所で考えることであり一兵士でしかない俺には判断がつかない。
人として認められる可能性があるのなら、一旦保護対象だ。
「というか、その
俺はずっと思っていた疑問を投げかける。
「はは、そのままの意味さ。私に勝ち、心を通わせた。そこに主従関係が生まれただけだ」
笑みを浮かべ、黒竜王はそう返す。
共鳴現象ってやつか……? 発動条件はいまいち判明していないので理屈とかはわからんけど、不思議と悪い気はしていない……他にも色々とモンスターを打倒してきたが、三十年起こらなかった共鳴現象がここで起こったってことか。
つまり黒竜王は俺の戦闘ペットってやつになったのか……。