「あんた自身が相当動けるのはわかってる、でもダンジョン攻略に重要なのは戦闘ペットの有用性! 実弾兵装などが枯渇した今、モンスターへの対抗手段はモンスターでなきゃ足りえない!」
私は試験の際に伝える決まり文句を宣う。
まあ全然、攻略者自身のフィジカルもめちゃくちゃ重要なんだけどね。
でも攻略者自身は、学校で鍛えていくことはできるけど戦闘ペット自体の有用性には運が絡む。
もちろんそれを活かすも殺すも攻略者の技量や精神力次第ではある。
つまり、どっも大事。どちらかが秀でてるだけじゃ攻略者は務まらない。
「この試験であんたの戦闘ペットの有用性を判断させてもらう!」
私は格技場の真ん中に立つ乃本に、そう伝える。
「……だ、そうだ。おまえの力が見たいってよ」
「? すまん、脆弱な虫けらの鳴き声過ぎて全く聞いておらんかったが……。まさか……この私を試すつもりなのか? なんだ? 神かなんかなのか? あの小娘は」
乃本と戦闘ペットはそんな緊張感のない会話をする。
脆弱な虫けらの鳴き声って……なんの語彙力なのよ。
少なくとも知能指数はかなり高いみたい、モンスター脅威ランクが壊災級以上のモンスターは人語を解することがある。
うし太郎も壊災級だから、私の言葉を理解しての意思の疎通は行える。でも身体の構造というか骨格や声帯の関係でうし太郎は喋れない。というか頭が牛だからね、うし太郎が喋れたら世の中の牛は頑張れば喋れることになっちゃうし。
知能指数は高いがサイズは一メートルもない、八十センチくらいかな。パワーは期待できない、何かしらの特殊能力があるのか……なければ『変わったお友達』でしかない。
「で? あんたの戦闘ペット、名前は?」
緊張感のない乃本に私は尋ねる。
これから攻略者として登録するのなら戦闘ペットの名前は必須記入項目だ。
実際名前は大事だ。
うし太郎みたいにかっこよくて強くて可愛い名前を付けると、呼ぶ度にいい仕事をした感でモチベーションが上がる。
小さなことだけど、精神性が強さに反映する戦闘ペットにはそういう小さいことも大事になってくる。
「名前…………名前? え、あるのか?」
乃本は少し考えて戦闘ペットへと尋ねる。
「そんな個体識別記号が、この私にあるわけないだろう。この世界にある区別は『私』と『主様』と『それ以外』だけだ」
戦闘ペットは淡々と、乃本へと返す。
「あー……さっきの花壇の真ん中で咲いてた黒いのはなんて花だ?」
乃本は少し考えて、私に問いかける。
花壇……? えーっと何咲いてたっけデイジーにガーデンシクラメン……アリッサムとパンジーいや……。
「えっと、多分
私はぼんやりとした記憶を頼りに答える。
ヴィオラ、まあビオラと表記されたりもするかな。
すごい詳しい訳でもないけど、たしかほとんどパンジーと同じとかなんとか。
私の頭の中めいっぱいギリギリにあった知識、よく出てきた。やっぱり私はかしこい。
「そうか、なら今日からおまえはヴィオラだ」
私の答えを聞いて、乃本はあっさりと名付ける。
「……ちんけな草花ごときと同じなのか?」
不満げに戦闘ペット、もといヴィオラは返すが。
「あの花壇で一番綺麗な花だったからな」
乃本はこれまたあっけらかんと答える。
うん、なんかとりあえず決まったみたいだし。
「おっけ、ヴィオラね。じゃあ試験を――――」
私がそう言って、試験を開始しようとしたところで。
「おい気安く呼ぶなよ小娘、それは私が主様から貰った私の名前だ……っ」
ヴィオラは凄まじい怒気を放ちながら、そう言って。
空気を震わせながら、ぐんぐんと大きくなっていく。
形状変化? なるほどそういう能力――――――え?
私が観察し考察している中でも、ぐんぐん大きくなっていき。
格技場のバレーボールの公式試合が余裕で出来るくらいに高い天井に頭がぶつかる。
お、大き過ぎる……。
これ全長二十メーターはあるでしょ。
建物で言ったら六階建てのビル相当のサイズ……お台場にある大昔のロボットアニメの立像くらいの大きさだ。
「――狭いわあッ‼」
ヴィオラはそのまま頭で天井を振り払うように破壊しながら叫び。
崩れた天井や鉄骨が落ちてくる。
「うし太郎! 防御――――」
私は咄嗟にうし太郎へと指示を出すが。
間に合うわけもない。