ああ死んだ。
嘘でしょ、千歳ダンジョンからは奇跡の生還を果たしておいて学校の格技場で死ぬの?
いや奇跡の生還といっても、乃本が助けてくれただけなんだけど。
まさかそこからわりとすぐに死ぬの?
お礼も兼ねて無理矢理試験を通したのに?
こんなにあっさり――――。
そんな思考の中、落下する鉄骨が容赦なく私を潰そうとした。
その時。
「だあぁ――――っ! あっぶねぇ……! 大丈夫か? 大丈夫だな、大丈夫だ。よし、一旦離れろ。あいつは俺が何とかする」
飛び込むように私を抱えて転がり、鉄骨を避けた乃本は私を抱えながらそう言う。
また助けられちゃった。
「あ、ありが……」
私が言い終わる前に、乃本は私を離して駆け出す。
え、ちょ……あんな超大型モンスターに……。
「こおおぉおぉぉ――――――ぉおらぁあああぁああぁあ――――――――――ッ‼ 縮めえええーーーッ‼」
乃本は大きな声で、巨大な竜へと叱りつける。
「なんだ……? まだ何もしとらんぞ、主様」
巨大な竜は頭を下げて、乃本に返すが。
「うるせえ――っ! おまえ多分ここ税金で建てられた建物だぞ⁉ 壊すな馬鹿たれ! 国防費は有限なんだよ‼」
乃本はさらに大きな声で説教を続ける。
確かにこの攻略者学校は国立で、しかも国防目的なので多分国防費から捻出された施設だとは思うけど……そこなの?
「……だが私を試す気なのだろう? 私がちゃんと暴れたら何がどうやったってこの街が消し飛ぶぞ、このくらい安いもんじゃないのか」
ヴィオラはそう言いながら縮んで、八十センチくらいの背丈に戻る。
質量とかどうなってんのよ……、まあモンスターに道理を求めるのもおかしいけど限度はあるでしょ。
「第二形態のままか第三……は駄目か、第四形態とかでいいだろ。サイズ的に建物壊さねーんだから、何で一番デカいのになんだよ。ダンジョンじゃねーんだぞ」
乃本は呆れたように、ヴィオラへと説き続ける。
「その場合は一秒で小娘の首が飛んでいたぞ、第一形態が一番手加減出来る。それとも……もしかして、主様が相手してくれるのか⁉」
ヴィオラも呆れたように返しつつ、突然嬉々として乃本へと飛びつく。
「するか馬鹿たれ! 壊しちゃったのを謝るんだよ!」
乃本は飛びついたヴィオラを剥がしながら返す。
「あやま……っ、この私がか⁉ 謝罪……? 嫌だ! 謝りたくない! 無理だ!」
「じゃーあ、とりあえず大人しくしてろ! 俺が謝る!」
驚愕するヴィオラに乃本がそう命じて。
「大変申し訳ございませんでした。損壊に関しての瓦礫撤去や補修に関しては全面協力いたします。どうか穏便に……」
私に向けて深々と頭を下げ、丁寧にそう言った。
「おい許せよ小娘、さもなくば殺すぞ」
「さもなくば殺すな」
対照的に偉そうにふんぞり返りながら私を睨みつけ脅し、乃本は頭を下げたまま端的に返す。
「い、いや私にこの件を処理する権限はないから……。まあ試験中の事故って報告はしておくけど……」
まだ心臓が落ち着かない私は、平静を装いながら謝罪に答える。
Aランク攻略者であると同時に私は攻略者学校の生徒、攻略隊管轄の建物ならともかくこの格技場は学校管轄だから許すもなにも私も後で学校側に謝罪しなきゃならないんだけども。
というか格技場は戦闘ペット訓練を想定しているから、多少は壊れることも想定しているし補修もしやすくなってるから多少の破損……多少……多少かなぁ……これ。
「そりゃ有難い……あ、そういやさっきなんか言おうとしてなかったか?」
頭を上げながら乃本が私に尋ねてきたので。
「……べっ、べべ別に、感謝なんかしてないんだからね! 勘違いしないでよねっ!」
私は慌ててはぐらかす。
……ん? 何でまた慌ててるんだろ? 私は。
一日に二回も命を救われ、感謝は尽きないはずなのに。
顔が熱い、なんか無性に恥ずかしい。
なんか素直に感謝したくない。
改まって感謝を伝えたくない。
なんだろこれ……まだ心臓が落ち着かない。
流石にもう落ち着いていいと思うんだけど。
まあ一旦それは置いといて。
この後、私と乃本は第二格技場破壊について学校側に謝罪。
そして私は乃本百一の戦闘ペット、ヴィオラの有用性について報告。
保護対象である男性が、危険を伴う攻略者になるという懸念を上回る実力と有用性が認められ。
乃本百一は晴れて、攻略者学校へ入学? 編入? を果たして。
Eランク攻略者となった。