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3・努力委員長、認めたくない

01クラスの委員長

 私、里里さとり里々りりは攻略者学校の生徒でございます。


 攻略者学校とは、読んで字のごとくダンジョン攻略を行う攻略者を育てる政府公認の教育機関でございます。


 十五歳から試験を受けて規定の体力や学力を持つ者が、日々ダンジョン攻略の為の訓練や勉強を行っております。


 攻略者ランクによっては在学中も、攻略隊と共にダンジョン攻略を行ったり実施訓練も行います。ダンジョンに関する座学、モンスター討伐知識、攻略作戦の立ち回りを学びます。


 あと学食の海鮮丼が異常に美味しいです。

 たまに海鮮丼目的の生徒ではない攻略者の方を食堂で見かけることもあります。


 私は札幌生まれ札幌育ちなので、よくわかりませんが。他の地域では考えられないほど、海産物が美味しいようです。


 攻略者学校で私たちは日々学び、ダンジョン攻略を行っています。


 そんな日々の中で、本日は変化がありました。


「男の人用の制服ってあったんだ!」


「寮で暮らしてるの?」


「札幌の前はどこにいたの?」


「戦闘ペット凄いんでしょ!」


「女の子と付き合ったことある?」


 教室の一角でクラスメイトたちから質問攻めを受けるのは。


 本日編入してきた編入生、もとももかず氏。

 世にも珍しい、攻略者です。


 もちろんこの学校で唯一の男子生徒であり、札幌規模でもかなり珍しい。実際私も初めて男性を見ました。


 みなさんそんな珍しさから、興味津々で浮き足立っているようです。


「制服は昔の学生服が残っていたらしい。昨日から寮に入居した。編入以前のことは秘匿させてもらう。戦闘ペットについても詳細は秘匿させてもらう。交際経験はない」


 乃本氏はクラスメイトからの矢継ぎ早な質問を答えたり答えなかったりしていく。


 どうやら編入試験にて、戦闘ペットの凄まじい有用性を見せたとのこと。

 本来、男性が攻略者になることは有り得ない。

 政府の保護下に置かれ、女体化症候群への抗体の有無などを調べてワクチン開発研究に協力をしたり。人口回復のために人工授精へと用いる精子提供などを行わなくてはならない。


 この女性社会において、男性は貴重で絶対的な保護対象。


 それがひっくり返るほどに、乃本氏の戦闘ペットは有用だと判断された……ってことらしい。


 編入ということは別の居住区にある攻略者学校で戦闘ペットを得たってことなんでしょうが……その辺は語りたくないようです。まあそれほど興味もないのですが。


「え? それってもしかして……マジックバッグ?」


 ある生徒が乃本氏の持ち物を指して問う。


「そういう名前なのか、これ。ダンジョン内で発見して回収したものだ。見た目から想像出来ない内容量の不思議便利カバンだ」


 乃本氏は答えながら革製の小さな腰巻鞄に、底から突き抜けるくらい腕を深く入れてみせる。


「中に入れたものが腐らないってのがとんでもなく重宝する……ほら光るブドウみたいなやつ。種もないから食いやすいぞ、甘ったるいが」


 鞄から取り出した綺麗な果物を見せて、一粒口へと運びながら乃本氏は回答する。


 マジックバッグ……、稀にダンジョン内で回収出来るレアアイテムです。かなり高価で取引されていますし、攻略隊全体でも所持しているのは高ランクの攻略者だけ……何故乃本氏がそんなものを。


「えー! すごーい!」


「なにこれかわいー!」


「マジックバッグは超レアアイテムだよ! 羨ましー!」


 マジックバッグと果物に、クラスメイトたちが色めき立ったところで。


「……主様にごちゃごちゃと懐いてんじゃあないぞ小娘どもが、食い殺すぞ……っ‼」


 突然、乃本氏の戦闘ペットがそう言って。


 教室の中で巨大化を始める。


「――っ! おやめなさい‼ ここは教室ですのよ!」


 私は即座に戦闘ペットの前に立ち、制止を命ずる。


「ほらヴィオラ……落ち着け」


「ふむ、主様がそう言うなら仕方があるまい」


 私に遅れて乃本氏が戦闘ペットを窘めると、戦闘ペットは了承して元の可愛らしい小さな竜の姿へと戻った。


「私は里里里々、このクラスの委員長です」


「どうも俺は乃本百一、編入生だ」


 私の自己紹介に対して、乃本氏は自己紹介で返す。


「私は認めませんわ」


 私は単刀直入に、思いを述べる。


「強力な戦闘ペットの強さに依存して攻略者になろうとしてるのが……気に入りません」


 そのまま不躾ですが、具体的な理由まで告げていく。


「攻略者とはあらゆる事態に対応出来る総合力が求められるのです。だから私は、強力な戦闘ペットでクラスメイトを脅かす真似をするようなあなたを認めません!」


 熱っぽく私は私の中の正義を叩きつける。


「ふっ、この小娘愚かすぎて滑稽だな。なあ主様よ」


 私の話を聞いて乃本氏の戦闘ペットが口を開く。


「そんなに気に入らんなら、戦いの中で白黒つけろ」


 やや声を低めて、凄むように私に言う。

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