「馬鹿言え、作戦行動における役割やペース配分は絶対だ。つーか前のやつらがはしゃぎ過ぎてペースを上げすぎている。どうせこの先の実戦講習の為に一回停止する。すぐに追いつくから無駄に体力を使うのは論外だ」
淡々と乃本さんはお手本のような攻略者的な回答をする。
すごい理解度だな……一年生だよね?
「ほほう、ならばこの小さき者も役割とペースとやらを守っているのか。やるではないか、小さき者よ」
乃本さんの話を聞いて謎の弩級美女は私に向けてそう言うが。
「いや……その……着いていけてないだけなんですけど……」
私は申し訳なさを乗せて、そう返した。
わりと徒歩の中では最高速度で歩いている。流石に走ったりしたら到着する頃にはヘロヘロなことくらいは私にもわかる。
なんか適正ペースらしいからそのまま二人に合わせて歩き。
やがて開けた場所へと到着し、そこには再びモンスターが湧いていた。
引率の攻略隊の方々が小災級のモンスターを捕獲し、分断。
その後、順次放ち受講者に実戦を経験させる運びとなった。
一年生たちが順番に様々な戦闘ペットでモンスターを討伐していく。
みんなすごいな……、ちゃんとしてる。
今年の一年生の戦闘ペットはかなり優秀なものが多いみたい、能動的にモンスターを討伐している。
「じゃあ次は、縞島成子さん」
モンスターが討伐されたところで向水さんが私の名前を呼ぶ。
私の番だ。
相手はゴブリン一体、かなり弱い部類のモンスターだ。
頑張れ私、私にも出来るはずだ。
「スタンドバイミー! ダビンチ!」
私はそう言って、戦闘ペットであるダビンチを召喚する。
私の戦闘ペットはミスリルゴーレムのダビンチ。
二メーター越えで大きく長い両腕が特徴的で人型のフォルムをしている。
元々のランクは滅災級、上から二番目で人類が討伐した記録も数少ない実質的に最高ランクのモンスターとされている。
奇跡的にたまたま私と共鳴した。
子供の頃にモンスターに攫われて中規模ダンジョンに連れてかれ、私を攫ったモンスターがダンジョン内のトラップを踏んでトラップ部屋へと跳ばされた。
そこに居たミスリルゴーレムと、なぜか共鳴しダビンチは私の戦闘ペットとなった。
ちなみにその後すぐに攻略者によって救助され、翌月にはそのダンジョンは消失させられていた。
これが私の原点、だから私は攻略者学校へと入学した。
さて、集中しよう。
「ダビンチ! パンチ!」
私はダビンチに指示を出して、ゴブリンへと攻撃を行う。
ダビンチは大きく振りかぶり、拳を振り下ろすが。
危機を察知したゴブリンは横っ飛びでダビンチの拳を躱して、ダビンチの拳は大きな音を立てて地面を叩く。
そのままゴブリンは私を狙って走り出すも。
ダビンチはさらに振りかぶって、また地面を叩こうとする。
「あ、ちが……っ、戻って!」
私は慌ててダビンチを呼び戻そうとするが。
「……っ!」
ゴブリンは私のことを思いっきり突き飛ばして転ばされる。
転んだ私にゴブリンは粗悪な棍棒を振り下ろそうとしたところで。
超高速でミノタウロスがゴブリンを掴んで壁に投げ飛ばした。
「はい! そこまでー! 大丈夫?」
「は、はい……」
ミノタウロスを引っ込めながら向水さんは平然と私に手を伸ばして言い、私はその手を取ってうわずりながらかろうじて返事をする。
「じゃあフィードバックね。最初のうちはもっと戦闘ペットへの指示と動きにラグが出ないように先んじて端的で具体的な指示を出してもっと心を通わせることが出来れば少ない言葉で意図を汲んでくれるようになる。反復練習あるのみ!」
「…………はい」
つらつらと流暢な向水さんからのフィードバックを聞いて、私は小さく返事をする。
的確だと思う、なぜならこれは過去十一回の講習でも言われていることだからだ。
反復練習あるのみ……なんか毎回まるでしてないかのように言われるけど、当然している。
なんなら私は戦闘ペットを得たのがみんなより早かったからかなりの時間ダビンチとの意思疎通をしてきている。
まあ、出来てないからそう思われても仕方ないけど。
流石に落ち込む。
「おお、小さき者か。見てたぞ無様だったな」
「言葉を選べ。それにさっき名前呼ばれてたろ縞島成子だ」
壁際に座り込んで落ち込む私に謎の弩級美女と乃本さんが、声をかけてくれる。