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6・お水のおねえさん、油は売れず

01水屋

 私、くらヒカリは一応攻略隊所属の攻略者ではある。


 一応、まあそんなに攻略へは前のめりではないから一応って感じだ。


 私の仕事はダンジョンに潜る攻略者についていって攻略中に使うを提供すること。

 ざっくりと攻略支援職に分類されるけど、私もダンジョンに潜るから攻略者として活動している。


 まあ私としては別に食べて行ければ仕事は何だって良かった。


 本当にたまたま、森の中で川に向かって頑張って跳ねてる手の平くらいの大きさの魚がいて捕まえたら共鳴した。


 それがマー坊。

 マー坊は常に体の周りに水を生み出してボウリングの玉くらいの大きさの球状に纏っていて、水を自由自在に操ることが出来る。


 生み出された水は様々な精密検査を行い安全性が認められているので、私はマー坊が生み出した水を攻略者に提供している。


 攻略は下層までを見据えた作戦の場合、長期間ダンジョン内での生活を余儀なくされる。長い時は一ヶ月とか最長で半年とかも聞いたことがある。

 飲料水、衛生面の為、機器の冷却など水に需要は尽きない。


 そんな感じに生きていたら『水屋』なんて言われるようになった。


 たまたま売れるものを生み出すことが出来ただけ、ダンジョン攻略に需要があるからダンジョン潜るだけ。

 だから特に攻略に意欲はない。


 生まれた時から世界はこうだった、だからこの世界の中で精一杯面白おかしく生きて死ねれば十分だと思っている。

 そんな感じで色々な居住区を渡り歩いて、札幌へとたどり着いた。


 まあ私はそんな感じ、適当に生きている。


 そんな日々の中。

 札幌北部で迷宮災害が起こった。


 第一波は、招集された攻略者たちによって退けられたが大元を叩かない限り迷宮災害はまだ続く。

 大元を叩くために中規模ダンジョン攻略作戦が開始され、私も同行することになった。


 まあ今回も適当に水を売りつつ油も売って適当に……。


 そんなことを考えて、私はマー坊の入ったタンクを背負って攻略隊と共に中規模ダンジョンへと潜った。


 だらだらと攻略隊について歩いていると。


 


「あの……乃本君、これは良いのですか?」


 後部座席に座る、おっぱいの大きい子が訝しむように尋ねる。


「ああ、確認した限り戦闘ペットを用いた移動は問題ない。このダンジョンは中間層まで探索が終わってるらしいからな、体力は温存できた方が良い。向水に縞島を推薦したのが通って良かった」


 助手席に座る男が、そう答える。


 男……? こんなところに? しかも若い……、何度か男は見たことあるけど、一番若くても三十代だった。


 そっか、あれが噂の男性攻略者……こんなに若かったのか。


「話しかけないで……っ、運転めっちゃ怖いんですから……っ! マニュアル車なんですから!」


 運転をする小動物みたいな子がハンドルを強く握りしめながらそう返す。


 お、おもしろい……。

 服装から見る感じ三人とも攻略者学校の生徒だ。


 確かにダンジョン内に自動車やらを持ち込むのは基本的に良しとされていない。


 単純に自動車は貴重なのでモンスターに壊されたりしたら回収するのも大変だし、電気自動車の充電の関係で深く潜れないし、道も悪いし狭かったりするからあんまり機能しない。


 でも車型の戦闘ペットなら、戻すも出すも自由自在だ。実際、戦闘ペットの背に乗る攻略者は存在するし。


 へー、おもしろい。

 ただこれはあの中の誰かの戦闘ペットが特別なだけだから、再現性はないし普及はされないけど。


「……ん? 主様よ、あの無愛想な娘も載せてやれ。多分早く帰れるぞ」


 私がぼーっと車を眺めていると、男に前抱っこされてた小さな竜が私を見てそう言う。


 え? 喋るの? かなり珍しい……人語を解するモンスターはいるにはいるけど、数えられるくらいしか見たことがない。


 そして無愛想って……、まあ私は表情は変わらないし口数も少ない。

 別に感情の起伏がないわけじゃないけど、共感とか同調とかが好きじゃないだけだ。


「あんたも乗るか?」


 驚く私に、若い男はそう尋ねて。


「………………乗りたい」


 私は少し考えながらも、流石に面白そう過ぎるので同乗することにした。


 車に乗り込んで互いに簡単な自己紹介を行う。


「なるほど、攻略支援……非戦闘員ってことか。しかし安全な水を生み出すって凄まじいな」


 私の自己紹介を聞いて、乃本氏は呟く。


 男の名は乃本百一、戦闘ペットの黒い竜はヴィオラ。

 Eランクでありながら、Aランクのミライちゃんから要請を受けて今回の攻略に参加することになったらしい。


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