「ちょっと待ってて持ってくるから!」
頭髪を二つに結った小娘がそう言って駆け出し。
「髪もセットしなきゃ! ロングなら踊る時邪魔じゃないように上げた方がいいよ! ちょっと編んでいい?」
帽子頭の小娘がそう言いながら私を長椅子に座らせて。
「メイクも……いや美人すぎて必要性が……っ、グロスだけでも乗せとく?」
一つ結びの小娘が鞄を開きながらそう言って。
「チークも入れていいんじゃない? けっこうイエベだよね」
金色頭の小娘がそう続く。
何だかわからんが、どうにかしてくれるようだ。
とりあえず任せておくか、特に危害を加えてくる様子もないし戦いにもならん。こいつらは今まで見た小娘共の中でもかなり脆弱だ。下手に撫でたら肉団子にしてしまう。
「――なるほどな、おおよそ把握した。大義だったぞ小娘共よ」
好き勝手弄らせ『どれす』とやらも見せてもらい私は感謝を述べる。
「こっちも楽しかったから全然いいよ」
「じゃあお姉さんまたパーティーでね〜」
「やっば、私料理係の時間だった」
「えー! 佐々崎先生時間に厳しいよ! ほら駆け足!」
最後までかしましく小娘共はそう言いながら去っていった。
さて、そろそろ私も戻るか。良い暇つぶしになった。
ぺたぺたと歩いて戻り、第二形態になって主様の背中へと飛びつく。
どうにも第五形態でくっついていると、周りの小娘共がうるさいのだ。
第二形態なら騒がれんし、重くもないので主様にも負担がない。ずっとくっついていられる。
「よし、一段落ついた。ヴィオラ、行くぞ」
飛びついた私に主様はそう言って、立ち上がる。
「うむ」
私は首元に顔を埋めながら、返事をする。
そこからこつこつと、主様は階段を上り。
いつもとは違う部屋を覗いて。
「縞島ぁ、いるか?」
そう言った。
「はいはい。え、乃本さん?」
返事をしたのは、デク人形の主である小さき者だった。
「おまえを誘いに来たんだが――」
「なっ⁉ えっ‼ わたっ、え……? 私ぃ……?」
主様が言い終わる前に小さき者は慌て出す。
「ああ、ダメか?」
主様は慌てる小さき者に尋ねると。
「いや……っ! …………おっけーです……はい」
耳まで顔を赤らめながら、小さき者は小さく答えた。
「そうか、助かった。少々時間が迫ってるからまた後でな」
主様はそう言って、足早に次の目的地へと歩き出した。
…………? なんだ? なんの誘いなんだこれは。
なんて考える私をよそに、主様は階段を下りていつもの小娘共がいる部屋へ。
「里里、話がある」
主様は机でなんか書いてた鎧娘に声をかける。
「……! いえ、みなまで言わずともわかっています。お誘いに来られたのでしょう?」
一瞬目を丸くしてから、努めて冷静に鎧娘は返す。
「話が早くてたすかる、返事をくれ」
淡々と主様は話を進める。
「お受けいたします。選んでくださり感謝いたしますわ」
心拍を跳ね上げながら、鎧娘はそう返した。
「喜怒、少しいいか?」
鎧娘と別れた後また移動して、外でなんか話してた半端女に声をかける。
「なんだ乃本、僕はまあまあ忙しいんだが」
迷惑そうに半端女は返す。
「じゃあ手短にいくが、誘いに来た」
主様は端的に言うと。
「ぶ……っ! なっ! きさ……っ ふ……いいだろう……この僕を選ぶとは――――」
「よしじゃあな」
慌てて答える半端女に主様はさらりと返して、すぐに踵を返す。
「早くないか! 待て! おーい!」
半端女が忙しいわりになんか言っているのを無視して、主様は歩みを進める。
「暗木、話いいか?」
大きな容器に水を入れていた、悪樓の主に声をかける。
「……なに?」
悪樓の主は端的に返すと。
「おまえを誘いに来た」
これまた主様は端的に言う。
「………………面白いじゃない」
少し笑みを浮かべ、悪樓の主はそう言った。
さらに歩いて、祭りが行われる大部屋付近まで移動し。
「ミライ、暇か?」
昨日やりやった小娘に声をかける。
「私が暇なわけないでしょ、つーかあんた怪我は大丈夫なわけ?」
煩わしそうに小娘は返す。
「ああ治した。暇じゃないか……じゃあ誘うのやめとくか。邪魔したな」
主様はさっさとそう伝えて、踵を返そうとしたところ。
「⁉ 待っ、なになになになになにっ、待ちなさい! 誘……マジに言ってんの? あんたが? 私を?」
大慌てで言いながら小娘が先回りして主様を止める。
「あ? そうだが……忙しいんなら別に――」
「もっと食い下がんなさいよ馬鹿! ま、まあ? あんたがどうしてもっていうなら……」
淡白な主様に小娘はなんかわちゃわちゃしながら言うと。
「おおそうか、助かった。じゃあまた後でな」
主様はそう言って、その場を離れた。