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02愛されたくて

 他の七竜やらは無意識で自身の姿を変えていくし、基本的に他者をどうするかという使い方しかしない。まあ気持ちが悪いから仕方ないが。


 第一形態は、ただ誰より強く大きく。

 第二形態は、ただ誰よりも速く小さく。

 第三形態は、ただ煩わしさを消し飛ばしたくて。

 第四形態は、ただ主様に勝ちたくて。


 そして第五形態は、


 時に、拮抗した戦いの中ではお互いの思考が混ざり会うことがある。


 次に何をするのか、何をしたいのか、何をされたいのか、思考が噛み合って一挙手一投足から思いを感じられるようになり。

 それが極まったところで、私は確かに聞いた。

 主様が私の首に組み付いて、強く締め付けていたところで。


 ――――死んでもおまえを離さない。


 私はその思いによって、主様に落ちた。

 前の世ではテイムと呼ばれていたり、この世では共鳴と呼ばれるものは人らの感覚で一番近いものでいうのなら。


 


 相手の思いと想いを通じて、心が溶けて混ざり合う。

 そうやって、身も心も繋がる。

 私はそうやって主様の下僕になった。


 溶けて混ざった心の中から主様が最も好む姿かたちを私は反映させて。

 主様に愛されて一緒に生きられる姿を望んで。

 この第五形態が生まれたのさ。


 ぱっつぱつの『じゃーじ』とやらを纏い。

 主様のことを考えながら適当にぺたぺたと歩いていると。


「今日のダンスって誰と踊んの?」


「えー攻略隊の人とかかな」


「あれは? マジ男子の乃本くんとか」


「いやー乃本くんは向水さんとかと踊るんじゃないの? こないだの攻略配信でも仲良さそうだったし」


 建物横に長椅子を並べた場所で、四人の小娘共がかしましく話していた。


「おい小娘共、何の話だ?」


 私は小娘共に声をかける。


 ノモト……は主様の名だ。ムコウミズも聞いたことがある、多分昨日やりあった牛畜生の主の名だったはず。


 知った名が聞こえたので気になった。


「うわ……っ、美人! びっくりした」


「こんな美人が札幌に……もしかして他の居住区から来た人? でも何故に学校ジャージ……」


「ほら今日のパーティーのダンスですよ。パートナーを誘って、ペアを作って踊るやつ」


「大体自認男性の人とか、憧れてる先輩とかを誘う感じなんですけど」


 かしましく小娘共が私に答える。


 今日のぱーてぃー……、祭りの話か。

 だんす……踊ることか、なんか祭りで踊るのか。


 確かに大昔、人らが祭りをやる時に踊っていた気がする。世界を渡ろうと、いつの世も人らは祭りで踊るようだ。


「ふむ、まあなら相手は決まっている。しかし踊るとはどんな感じのことをするんだ? 焚き火を囲んで、呪文とかアアーエーヒヒー! とでも叫びながら太鼓や地面を叩くのか」


 私は記憶の片隅にあった人らの踊りとの乖離について尋ねると。


「そんな謎の儀式みたいなのじゃなくて、社交ダンスみたいな感じですよ」


 頭髪を上部で一つ結びにしてる果物みたいな小娘が答える。


「? 想像がつかん、見せてみろ」


 要領を得ない回答に、見分を要求する。


「ええー……、まあ別に練習がてらやろっか」


「そだね、やっといて損ないし」


 小娘共はそう言いながら小型の端末から音を出して踊り始める。


 想像とはかなり違った。

 なるほど、二人一組で互いに沿うように音に合わせて足を運ぶのか。


 背筋は伸ばし……、足下は見ない。

 基本の足運びは崩さずに音きっかけでくるりくるりと揃って回る。


 恐らくいかに揃うか崩れぬか、それがこの踊りにおける美か。


「ほう、よし覚えた」


 音が鳴り止んで小娘共が動きを止めたところで、私は言う。


「はやっ! ぜったい嘘!」


「あ、ドレス用意した? 私は今年も借りられたから去年と同じのにする」


「はっはー、私は縫ったよ。こんなこともあろうかと服飾系装備のためにって名目でミシンも借りてね」


「あ、お姉さんはどんなの着るんですか?」


 またかしましく小娘共が話し出す。


「あ? 服か? なら着とるだろ。まだ着るのか?」


 またわからん単語が飛び交うが、私は質問の意図を拾って返す。


「え! ジャージっ⁉ ダメダメ絶対ダメ! せめて制服だけど……お姉さんは絶対ドレスだよ‼」


「っていうかそのジャージもサイズ合ってないし! おっぱいぱっつぱつじゃん!」


「そんな格好じゃパートナーも多分がっかりだよ!」


「論外!」


 捲し立てるように小娘共は私へと返してくる。


「な……っ、その『どれす』とはなんだ。見せてみろ、そんなに違うのか?」


 小娘共の勢いに押されながらも、知らぬ単語の説明を要求する。


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