その後、主様はなんかサササササみたいな名の小汚いやつに渡された『すーつ』という服に着替えた。
どうにも式典やらには正装を着用するのが決まりらしい。なるほど確かに私が『じゃーじ』だと主様をがっかりさせていたかもしれない。
あの名も無き小娘共には感謝だ、いつか私のように誰かから名を与えられると良いな。
それはそうと。
あの誘いというのは『だんす』に対する誘いなのか……? だがしかし、小さき者と鎧娘と半端女と悪樓の主と小娘に声をかけていたが……主様は誰と踊る気なんだ……?
そもそも私という一番がいるのに……、まあ別に私が一番なのであればそれ以外は単なる副菜のようなもの。学食の海鮮丼のマグロが私なら他の小娘共はイカだ。
私に誘いがないのは、私と主様に言葉などいらんからだ。
主様と私は繋がっている、溶けて混ざりあっている。だからいちいち説明など不要だ、主様が動く時に私も動くし私が動けば主様も動くだけ。
だって私は主様が大好きだから。
そして主様は私のことが大好きだから。
言葉はいらない、死んでも離れない。
「あー攻略者学校教員の佐々崎です。先の中規模攻略で、本校一年の里里里々、同一年乃本百一を正式に攻略隊への参加を認める運びになりました。尚、乃本百一に関しては向水ミライの推薦と試験によりAランク攻略者として活動することに――――」
壇上からさっき主様に『すーつ』を渡した小汚いやつが、なんかボソボソと語る。
あの小汚いやつ……、ここの小娘共よりだいぶ強いな。全然主様ほどではないし、人らの中ではかなり老いているから弱ってはいるが基礎的な鍛錬量が違う。
誰も聞いちゃあいない話をする小汚いやつを見ながら、ぼんやりと考えていたところで。
主様が壇上へと上がる。
「攻略者学校一年、乃本百一。Aランクへと昇格した! 今後は分隊を編成し、日本各地の大規模ダンジョン攻略を行っていく所存だ! 俺の目的は日本奪還、七大都市復興! 俺の命は最後の一秒まで日本のために使い切る所存――」
威風堂々と主様が語る。
ふむ、やはり格好良いな。
あの『すーつ』とやらと頭髪を後ろに流しているいつもと違う姿は見ていて新鮮だ。
迷宮でやり合っていた頃のボロボロで血みどろだった時の方が印象に残っている。
見蕩れてしまって何を言っていたかわからんが主様は語りを終え。
「はい、そんな感じで後はパーティーを楽しんでくれ。終わる時はさくっと終われよー」
小汚いやつがそう言って、祭りが始まった。
大部屋には様々な食い物が並んでいて、小娘共が飲み食いしながらなんか話していたりした。
「まあまあ美味いぞ、何の肉だ? 人か?」
「人を食うか馬鹿、鹿肉だろ。なんかジビエ感強いな」
私は謎の焼かれた肉を食いながら、主様も食いながら返す。
うむ、こういう時に第二形態は便利だな。
私は飢えぬので関心はなかったが、人らの食い物は良い。
「――このあとダンスが開始いたします。参加する方は、パートナーと共にホール左側で待機をしてください――……」
大部屋全体に大きな声の案内が流れる。
「おい主様、なんか始まるみたい――」
案内を聞いて、主様に促そうとしたところで。
「百一!」
「乃本君」
「乃本さん」
「乃本!」
「……」
五人の小娘共が現れて、ほぼ同時に主様を呼ぶ。
おお、全員いつもと装いが違う。小綺麗だ。
気合を入れてきている。
「おお、なんだおまえら来てたのか」
気に留めることなく、主様は器に入った暖かい海藻の汁を飲む。
「あんたがダンスに誘ったから来たんでしょ!」
あっけらかんとした態度の主様に、小娘が怒りながらばっちり塗った爪の指で指しながら言う。
「えっ?」
小さき者が紅をさした口を小さく開いて反応し。
「待ってください向水先輩、誘われたのは私です」
煌びやかな『どれす』を翻しながら鎧娘が続く。
「いやいや待て! 乃本が誘ったのは僕だぞ!」
『すーつ』姿の半端女が乗っかり。
「……なるほどね」
それらの様子を見ながら、肩を出した悪樓の主が小さく微笑んで呟く。
いやまあこうなるだろう。全員を誘ったらこうなる。なんだ? 主様はいっぱい踊りたいのか?
私も疑問に思ったところで。
「あ?
小娘共を見て、主様は眉をしかめてそう言ってのける。