正直あの亀みたいなモンスターがどのくらいの脅威なのか私じゃわからないからあれだけど、一年生がCランクになるのは間違いなく偉業だ。
まあ今屋根に乗ってる乃本さんは一年生でAランクだけど、流石にこれは例外中の例外だしこれと比較するのは馬鹿げている。
「向水先輩は……Cランクになった時、恐らく喜ばなかったと思うんです」
真面目な顔で里里さんは語り出す。
「向水先輩は間違いなく天才『うさぎとかめ』でいうなら『うさぎ』、しかも勤勉で油断をしない『うさぎ』です。Cランクは目指していたのではなく、多分ただ走っていたら通り過ぎていただけなんだと思います」
穏やかに、語りは続く。
……なるほど? でも確かに向水さんは天才だ。
多分その通り、向水さんはAランクですら通過点としか思ってないと思う。
「その『かめ』である私は常に全速力を出して目指し続けないと、すぐに置いていかれてしまうから」
やや力強くそう里里さんは語り終えた。
なるほどね……『うさぎとかめ』か。
変な共感とかそんなことあんまりしてもいいことないとは思うけど……。
これに関しては、かなりわかる。
私も完全に『かめ』側の人間だから。
「うーん……まあCランク凄いけどね。私なんてまだEランクだし」
私は里里さんに、私も『かめ』であることを伝える。
「縞島先輩はサポート科の技術職希望ですよね。ならランクは関係ないのでは?」
里里さんは素直に返す。
そっか、里里さんは知らないか。
実は里里さんとも小規模ダンジョンの講習受けてるんだけどね。
「いや私普通に攻略科だよ。三年でEランク、つまり校内一の落ちこぼれ」
今度は私が自己評価を述べる。
「私はモンスター討伐が本当に全然向いてない。フィジカル的にも戦闘ペット的にも、あのままじゃ私は攻略者にはなれなかったと思う」
つらつらと運転しながら私は語る。
「カリキュラムに文句つけるわけじゃないけど……いや文句だね。長所を活かせる場でないと、人は落ちて零れていく」
私は今だからこそ言える恨み節を漏らす。
そう、結局向き不向きは存在する。
そもそも陸上生物で逃げに特化した進化を遂げた哺乳類の兎と、基本的に水棲生物で長く生きるための進化を遂げた爬虫類の亀を陸上で競争させるのは成立してないでしょ。
だったら二回戦は兎を池に落としてスタートするべきだ。水の中なら亀が勝つ、それだけの話でしかない。
テニスプレイヤーがプロ棋士に将棋で勝負を挑むのは馬鹿げているって話。
陸での競争なら、亀どころか海では優雅で最速の遊泳速度を誇る魚だって落ちこぼれになる。
でも……里里さんは、陸でも落ちこぼれなかった『かめ』である。
「里里さんは、ちゃんと長所を活かせるところで活躍できてるよ」
私は笑顔で里里さんへと告げる。
里里さんは『かめ』でありながら『うさぎ』に食らいつく、それどころか追い抜いていく。
そんなとんでもない『かめ』は陸で戦うべきだ。
「私の長所とは――」
と、里里さんが何かを言おうとしたところで外からサイドガラスを叩かれる。
「――共有する、目測五百メーター先にモンスター群を確認。数八、このままだと三十秒で接触。視認距離まで接近したら討伐を行う。今起きてるのは里里だけか、行けるか?」
屋根から逆さに顔を見せながら、乃本さんは淡々と情報を共有する。
び、びっくりしたあ……っ!
リアクション出来ないくらいびっくりした……心臓に悪いから次からはルーフを付けよう……というか選挙カーみたいな感じで上に台も付けよう。
「もちろんです。行けますわ」
驚く私をよそに、里里さんは即答する。
そのまま速度を落として乃本さんが目視した地点より五十メーター手前で停車し、乃本さんと里里さんが降車する。
確かにモンスターが八体……少し大きい猿のようなモンスターだ。
というか五百メーターも前から見えたの? 目もいいんだね、乃本さん……。
「ヴィオラ、戦闘開始」
「了解したが主様……、ありゃ弱すぎる。私は小さき者と見とるよ」
乃本さんがそう言うと、ヴィオラちゃんはやる気なさそうに車内へと入ってダッシュボードの上に座る。
「着装合体! リリリビング・アーマード!」
里里さんはそう言って、リビングアーマーの六花と合体する。