私、暗木ヒカリは迷宮攻略分隊として大規模ダンジョン攻略を目的に現在は仙台近郊の太白山ダンジョンを目指して進行中だ。
札幌を出発して早三日、青函トンネルを抜けて青森と突っ切り女川居住区へ立ち寄ろうとしていたが。
道中、モンスターの数が多く進行が難航した。
どうにも近くのダンジョンで迷宮災害が始まりつつあるらしい。
迷宮災害が起こると進行どころじゃあない。故に、私たちは一旦ダンジョンを攻略して迷宮災害を食い止めることになった。
小規模ダンジョンに分類されるが、やや複雑。
そして比較的新しいダンジョンな為、攻略隊のデータベースにも情報がなかった。
本来なら事前調査を行ない、攻略計画を組み立てるのだが迷宮災害が近いためそんな時間はない。
つまり初見攻略。
まあ、正直余裕だろう。
Aランクが二名は小規模ダンジョン攻略には過剰なくらいだ。
乃本氏とミライちゃんが居たら私が何かやることもない。
長期で潜ることもないし、水もそれほど必要ない。
なんなら外で待ってようかな……。
「ダンジョン内の構造がわからんので、今回は縞島の高機動車は使えないものとする。内部調査を兼ねた先陣として俺と暗木と里里でダンジョン内部へ潜入。ミライと喜怒は縞島を護衛しつつダンジョン入り口で待機とダンジョンから溢れ出てきたモンスターの討伐を行ってくれ」
ダンジョンの入り口にて、乃本氏が淡々と全体に指示を出す。
あれえ……なんか頭数に入れられている……。
えー、めんどくさいんだけど……でも私がそこそこ戦えることバレてるし仕方ないか。
だったら楽しもう、乃本氏と里々ちゃんか。これはこれで面白そうだ。
私は乃本氏と里々ちゃんと共に、小規模ダンジョンへと足を踏み入れた。
乃本氏を先頭に里々ちゃんと私が続く。
内部は石レンガ造り、人工物型。
路面としては車でも走りやすそうだけど、道は狭いから難しいかも。
それにこのタイプはトラップが多い。
トラップを回避したり解除したりしながら進むとなると進みが遅くなるし、迷宮災害が近い今はモンスターもどんどん沸いてくる。
思ったより面倒くさそうだな……。
「乃本君、試してみたいことがあるのですが」
進行し始めてわりとすぐに、里々ちゃんが切り出す。
「お、良いな。何でも試せ、どうにでもしてやる」
乃本氏は穏やかに受け入れる。
具体的な話も聞いてないのに即答。
凄まじい信頼と、乃本氏の「何をどうやってもどうにでも出来る」という自信が伺える。
「六花! 着装合体、リリリビング・アーマード!」
里々ちゃんは決まりの台詞で六花を呼び出し、着装する。
おー、これ面白くて好きなのよね。
私のように戦闘ペットを武器のように装備する攻略者はわりといるけど、全身に纏うってのはなかなかに珍しい。
戦闘ペットは道具ではなく意思を持った別の生き物だ。だから普通は纏っても上手く動けない。
かなり同調出来てないとやれない芸当、これは面白い。
「私が先頭を進み、片っ端からトラップを踏んでいきます。六花の防御力なら大抵のトラップは効きません」
鎧を纏った里々ちゃんは、堂々とかなりマッチョな解決策を述べる。
「おお! 面白いな! 良い見世物だ! 主様! 鎧娘が死ぬぞ!」
里々ちゃんの提案に、乃本氏の背中からヴィオラちゃんが嬉々として反応する。
「死なせるわけないだろ……小規模ダンジョンのトラップは即死に至るものはあるのか?」
背中に貼り付くヴィオラちゃんを窘めながら、乃本氏は私に問う。
「落とし穴や落下物などの即死のものは存在するけど、鎧を纏っていたら防げるものも多いと思う」
私は端的に答える。
確かにかなり過激な解決策に聞こえるけど、冷静に考えたら里々ちゃんの防御性能なら大抵は問題ない。
弱点というか防ぎきれない火攻めや水攻めはマー坊でどうにでもなるし、閉じ込められたり壁や天井を動かしての圧殺トラップは乃本氏とヴィオラちゃんがどうにかできる。
逆に矢が飛んできたり針が生えてきたりくらいのものなら、里々ちゃんが一番ちゃんと対処できると思う。
「うん……まあ俺が同じことするよりバックアップしやすいか。よし、それで行こう」
乃本氏は少し考えて、里々ちゃんの案を採用した。
そこから里々ちゃんを先頭に進み、トラップを踏み抜いていく。
突き出た針を里々ちゃんが鎧で砕き。
落ちてきた瓦礫を乃本氏が弾き。
閉じ込められて流し込まれた水はマー坊で操作し止めた。
トラップは問題なく攻略し順調に進み、二十階層の開けた場所へ。
そこで、ぞろぞろとモンスターが地上へ向けて行進中なのを視認した。