モンスターは武器持ちゴブリン型に大きいネズミ型やホブゴブリン型……武器持ちが多い。札幌近郊とはダンジョンの毛色が違うみたい。
「目測二十三か……、ヴィオラ」
「え? いやいやあんな木っ端共に興味はないぞ」
目測で数えて乃本氏がヴィオラちゃんを呼ぶも、ヴィオラちゃんはやる気なさそうに返す。
本当に面白い、戦闘ペットは個性があるとはいえ共鳴したパートナーにはかなり従順になる。
ここまではっきりと自分の意思を優先するのは珍しい。
「だろうな。多少通してもミライが地上でどうにかする、ここは適当に蹴散らして抜けるぞ」
当然のようにヴィオラちゃんを尊重して、手袋をぎゅっと直して乃本氏は私たちへとそう言って。
「了解」
「かしこまりました」
私たちはそう返して、戦闘へと突入した。
水圧ジェットで高く跳び、私にヘイトが向いたところだけ水圧カッターで仕留める。
滞空中に俯瞰から二人の動きを確認。
乃本氏はゴブリンから剣を奪って、真っ直ぐ進む際に間合いに入ったモンスターを刈り取ってホブゴブリン型を狙って仕留める。
里々ちゃんもリビングアーマーの浮遊を用いた高機動ホバリングで高速移動しながら、正面にかち合ったモンスターだけを流れるように斬り伏せていく。
へえ、里々ちゃんの動きが良い。
前に見た時よりも、腰が強くなっているように見えるし流れるようにとめどなく動きが繋がっている。
先日から乱丸と受け身やら立ち回りの稽古をしているのが早速、効果が出てきているのかもしれない。
それと里々ちゃんは六花を纏った状態の方が、動きが良い。
無意識下の話かもしれないから指摘はしないけど、多分鎧に守られているという安心感が里々ちゃんの精神的な不安を消している。
恐らく六花も、里々ちゃんの思いを汲み取ってかならり敏感に動きを同調している。
戦闘ペットは思っている以上に、共鳴した人間の思いを感じ取っている。
乃本氏とヴィオラちゃんのように、わかりやすい意思の疎通が出来なくても戦闘ペットはなんらかの形で共鳴した人間の思いに応えようとする。
なんならヴィオラちゃんは人の姿になって、乃本氏と踊ったりもしていたし。
なんかみんな気付いてないけど、その方が面白そうだから黙っとくことにした。完全な人型に成るモンスターなんていたら大騒ぎになるしね、それは面倒だし面白くない。
リビングアーマーの六花や、ミスリルゴーレムのダビンチなんかは能動的にも動かないし無機質で表情などもないので感情の発露が見えないけど。
なんかしらの形で、
マー坊も会話は出来ないし、表情はないけれど感情はある。長く付き合ってるとだいぶわかるようになる。
マー坊がどれだけ穏やかに暮らしたいかとか、どれだけ優しいとか、どれだけ危険な存在だとか、通じてわかってしまう。
多分、自身が思っている以上に里々ちゃんも六花を信頼しているし六花も里々ちゃんに応えようと努めている。
攻略者の中には、戦闘ペットを対モンスター兵器や輸送用の道具にしか考えていない人も多い。名前すら与えない人も存在する。
結果として兵器や道具の役割に納まるのはある種仕方ない、出来ることをやり続けていれば少なからず誰だってそうなる。
でも戦闘ペットは少なからず意思と意志を持つ生物だ。
まあこの考え方はあんまり煮詰めるとモンスターとの共存とか権利とかそんなことに繋がってくるから、そことは切り分けていかなきゃならないけど。
少なくとも戦闘ペットにおいては、私たちの味方である。その事実とダンジョンという災害は切り離して受け入れなくちゃダメだ。
でなきゃ戦闘ペットは私たちに応えない。
この迷宮攻略分隊には、戦闘ペットとの疎通が出来ている人しかいない。
色々な居住区を渡り歩いてきて、札幌の攻略隊を含めて色々な攻略者を見てきたけどこの分隊は戦闘ペットとの信頼関係を築けている。
閑話休題。
二十三体のうち十五体を討伐し、そのまま進行し最下層へ。
さらに道中で計五十体以上を討伐。
まあほとんど乃本氏と里々ちゃんが蹴散らしていた。
里々ちゃんが凄まじい。
札幌中規模の時より確実に動きが良くなっている。
毎日色々とトレーニングしているのが顕著に現れている。
真面目で勤勉、基本的に面倒事が嫌いでやる気がないくて少しでも多くサボりたい私とは大違いだ。