「それほど消耗もないな。ボスモンスターの様子を見て、やれそうなら討伐して消滅させちまおう」
乃本氏は最下層のボス部屋扉前で、あっけらかんとこのまま継続しての討伐攻略を提案する。
セオリーでいうならマッピングも出来てるしトラップもあらかた解除出来ているので、ダンジョンが復元され切る前に待機人員を呼んで合流してのボス攻略が基本ではある。
でもまあ、乃本氏がいるんなら正直余裕だろう。
余程相性が悪くて、なにかの対策が必要になる場合でも撤退に関する見極めも乃本氏なら出来るはずだし。
一応、火や水に関してはマー坊で太刀打ち出来る。
水を凍らせるようなのだったり、水に通電させてマー坊が感電してしまうようなことがないならそれなりの対策は可能だ。まあマー坊じゃなくて私には何でも通るけど。
毒や酸に関しても里々ちゃんには効かない、青函トンネルの亀型モンスターでその辺の耐性は確認出来ている。
乃本氏はもうなんか、どうにでも出来る気がする。
このままボス討伐してしまうのが一番手っ取り早いし、上手く行けばここまでに遭遇して外へ向かっていったモンスターも含めて消失させられるかもしれない。
今ならまだギリギリそれも狙える。
そんな考えを巡らせて、乃本氏に同意を示そうとしたところで。
「あの、乃本君。よろしければ私に戦わせていただいてよろしいでしょうか」
里々ちゃんは、そんな提案を述べた。
「私が単独でどれだけのモンスターを相手出来るのか試してみたいのです」
六花の兜面を開いて、顔を見せながら真摯に思いを述べる。
た、単独ボス討伐……? ええ……そんな、みんなでやった方が確実でしょ……流石にそれは――――。
「……わかった。ただし
私が動揺している間に、乃本氏は許可を出す。
ええー、オッケーなの……?
まあでも二分の時間制限付きか。これは外に迷宮災害の影響を出さないため迅速に攻略する必要があるし二分と決まっていればその時点で乃本氏と私が自動的に介入出来る。悪くない。
でも二分……小規模とはいえボスは猛災級、それを単独で挑むって……。
流石に止めるべきか? いやでも分隊長の乃本氏が決めたことだし、Aランクの乃本氏が介入するのなら安全なのか?
里々ちゃんを舐めているわけじゃなくて、私はこれでも十年近く攻略者をやっている。
ダンジョン攻略を舐めてないだけ、攻略者のダンジョン攻略中の死亡率は年々下がってはいる。
それでも毎年、少なからず攻略者の死者は出ている。その多くが新人の無茶だ。
うーん……でもまあ行けるっしょ、私も見てるだけでいいんならそれが一番だ。
「よし、じゃあ行くぞ」
乃本氏はさっさと切り替えて、ボス部屋の扉を開いた。
ボス部屋も石畳、円形の部屋でかなり広い。
ボスモンスターは獣人型、二足歩行の狼みたいなやつで大腿部と左肩部にと胸部にアーマーが付けられている。
全高はかなり猫背だけど三メーター近く、腕も爪も長くてリーチもあるし牙も警戒しなくてはならない。
通常であれば最低でもCランク五名以上での討伐を行うようなモンスターだ。
強力なモンスターではあるが、油断はしないことを前提すれば乃本氏とヴィオラちゃんが出れば瞬殺出来る脅威だ。
飛んだりもしていないし、里々ちゃんの剣での攻撃も通る。目視した感じ、戦える相手だ。
「グアアアアアァァァアア――――――ァァァアアアァァァアアアアアッ‼」
獣人型は私たちへ向けて吠える。
「では、推し斬らせていただきます」
咆哮に応えるように、里々ちゃんはそう言って兜面を閉じて剣を構えながら突っ込んだ。
高速で飛び跳ねるように飛び込んで来た獣人型の攻撃を剣で弾く。
速い、でも反応は出来ている。
そこから獣人型の猛攻。
両の手の爪を振って攻め立てつつ、巧みにヒットアンドアウェイで距離を外して反撃は躱す。
里々ちゃんはなんとか対応する。
爪に関しては剣で捌いたり、鎧の肩や甲手を使って弾いているし節々で挟む前蹴りも嫌がられている。
でも獣人型の動きがかなり速い。
手数も多いし、機動力も運動性も高い。
大きさや生物的な外見で物理攻撃が通りやすいというところで推定猛災級としているけど、動きを含めたらもう少し高いまである。
私もあれを単独で相手にするのはキツいかも、ダンジョンの環境によっては何にも出来ないかも。