でも里々ちゃんは対応出来ている。
全ての攻撃を捌けているわけでも躱せているわけでもないけど、下がっていない。
押し負けていない、腰が強いというか地面と一体化してるみたいな。
外装の六花も硬く、里々ちゃんにダメージを通さないように努めている。
スペックでは負けてない、段々攻撃にも慣れてきたみたいだ。
剣で獣人型の爪を弾いて、スキップステップで踏み込んで力強く前蹴りを刺す。
「グエ……ェ……っ」
獣人型は腹部に食い込む蹴り足に、堪らず声を漏らす。
効いている。
そりゃそうだ、里々ちゃんの全備重量は百キログラム近くあって助走をつけた前蹴り。
しかも今の里々ちゃんの身体能力は十倍だという。
痛いじゃあすまない。
獣人型が転がるように吹っ飛ぶのに対して、里々ちゃんは間髪入れずに肩を突き出して高速ホバー移動で接近。
獣人型も立て直して四足で駆け出して。
爪と剣が衝突。
ほぼ同時に、狼が顎を外す勢いで口を開いて里々ちゃんの頭に噛み付いて。
「な――――」
私が思わず声を上げそうになったところで。
飛ばされたのは頭ではなく、
乱れた髪を汗で頬に貼り付けながら、鬼の形相で炎が揺れる目で真っ直ぐ狼を睨みつける里々ちゃんの顔が見えた。
里々ちゃんは引かず、剣で狼の爪を砕きながらさらに踏み込んでショルダータックルで突き上げる。
ゾクッとした。
この子は……真面目とか勤勉とか努力家とか、そんな話じゃあない。
度を超えた、
確かにここは引かない方が強い、一番勝率の高い行動だとも思う。
多分、攻略者学校でも攻略隊の訓練でも「引くな、ビビるな、押せ」って習うだろう。
でも実行はしないし出来ない、頭部外装を弾かれてるなら普通は体勢を立て直す。
ここで間髪入れず前に出れるのは狂気でしかない。
異常な負けん気……、一歩でも前に進むことだけしか考えていないような。前のめりに生きて死ぬだけの生き物。
面白い……、こんな子だったんだ。
おっぱいにばっかり注目してたけど、その大きな胸の中に抱えている熱い心の方が凄まじい。
よくもまあ乃本氏はこんな個性的な面子を集めたもんだ。
着いてきて良かった、この分隊は面白い。
さて閑話休題、里々ちゃんの活躍に集中しよう。
ショルダータックルで突き上げた里々ちゃんはそのまま斬り上げる。
「……っ、グゥアアアアァァ――――ァアッ‼」
雄叫びを上げて獣人型は剣に爪を叩きつけるように、弾く。
先程砕かれた爪の手で、里々ちゃんの腹部を殴打。
「ぐ……っ、らあああああぁああああ――――っ‼」
里々ちゃんは声を漏らしながら踏ん張って耐えて、再び剣を振り上げる。
振り上げた剣に獣人型は噛み付いて、首の力だけで投げ飛ばす。
ほぼ同時に里々ちゃんは左手を射出。
空中で、飛んだ左手が剣を掴む。
さらにほぼ同時に狼は砕かれていない爪で、真っ直ぐ里々ちゃんの喉元を狙う。
そこに、六花の頭部が高速で狼の腕に頭突きして爪がギリギリ逸れる。
伸びた狼の腕を里々ちゃんが掴んで、動きを封じたところで空中から真っ直ぐ、六花の左手に握られた剣が。
獣人型の脳天を貫いた。
「……ハァ……っ、ハァ、ふ――――っ。丁度二分です」
里々ちゃんは汗に煌めく笑顔で、こちらに向けてそう言った。
た、単独討伐……。マジ? かっこよすぎでしょ――――。
汗だくで笑う里々ちゃんに、そんなことを思った瞬間。
「……ギィィィアアアアァア――――――ッ‼」
獣人型が咆哮し、再び動き出して里々ちゃんに襲いかかった。
私も咄嗟にタンクのホースを掴む。
が、同時に獣人型は
「ああ、里里の勝ちだ。良くやった」
縦拳を突き出して、里々ちゃんとは対照的に涼しい顔で乃本氏はそう言った。
超高速で獣人型へと接近した乃本氏が、発勁一撃で破裂させていたのだ。
一撃必殺……流石に別格だ。
「…………ありがとうございます……が、今のは私でも反応出来ましたけどね」
凄まじく嫌な顔をして、ギリギリ里々ちゃんは乃本氏へと返す。
うわー……いやわかる。
今のはなんか、水刺された感あったよね。
「今のは主様が悪いな……あんな横取りは、私なら百年は暴れ散らかすぞ」
ヴィオラちゃんも呆れたように述べる。
「いや横取りじゃあねえだろ、ボス討伐だぞ? そもそも俺も参加してんだ。二分過ぎたから参戦しただけだろ………………申し訳ございませんでした」
乃本氏は淡々と正論を述べたが、私たちの冷ややかな視線を感じて謝罪をしたところで。
ダンジョンが消失。
いやー今日も面白かった。
やっぱり旅は道草食ってこそだね。
ここから私たちは合流して、女川居住区へと到着した。