うーん、面倒だな。
本当に似たような建物が多すぎて全然道が覚えられん。
仕方ない、人らに案内させるか……ん?
「おお、鎧娘か! 丁度良かった、案内せよ」
私はたまたま見つけた知ってる顔に、声を掛ける。
いやはやこれは幸いだ。
鎧娘に着いてけば主様の宿に帰れる、あー良かった。
「な……っ! なんで貴女が女川に……⁉」
鎧娘は私を見て、驚愕して声を上げる。
「あ? 何でもなにも……待て、おまえ私がわからんのか?」
その様子を見て、私は問う。
「乃本君の知人で、とてもお強いということは存じていますが……それ以外は何も知りません」
鎧娘は私を訝しみながら答える。
あーそうなのか、第五形態の姿を私だと気づけておらぬのか……。脆弱な人らでは見たままの形でしか個体を識別出来ぬか。
「それだけ知っていれば十分だ。ほら帰るぞ、先を歩け」
私は特に説明はせずに返す。
まあ別に鎧娘の認識でも間違いはないし、訂正するのも面倒だ。もう飽きたしさっさと帰りたい。
「いえ、まだ私は買い出しが残っているのでまだ戻れません。今から糧食や調味料の買い足しをしなくてはならないので」
鎧娘は私の案内を断る。
この私の申し出を断るだと……? 脆弱な虫けらの分際で…………いや今は私も同じ人らだと思っているのか……。
「仕方ない、同行してやろう。ほら行くぞ」
「え、ええ……? はい……」
鎧娘を捻り潰さず納得し、私が合わせると鎧娘はそう返して歩き出した。
まあ暇なのは事実、時間は幾らでもあるから気にしても仕方がない。
私は悠久を時の中で常に最強であり続ける黒竜王だ。
このくらいの余裕は見せてやらねばならない。
「おいおいおい、これ全部食えるのか! 多彩だな! はー、おいおいこれも食べれるのか! 顎強いな!」
私は『すーぱー』とやらに並ぶ様々な物品を見て、鎧娘に問いかける。
思ったより広かったし、色々あった。
似たような建物だらけだと思っていたが、中はかなり多彩だったようだ。ちょっと楽しい。
「それはハサミです。食べれません……、ふざけるのなら置いていきますよ!」
嬉々とする私を見て鎧娘はそう返しながら棚の間を進んでいく。
「なんだ全部が食えるわけじゃあないのか」
私は他に面白そうなものがないか見渡しながらそう返して、鎧娘へと着いていった。
鎧娘はなんか色々と物色して籠の中に放り込んでいく。
何が必要なのかはわからんが、これらをさらに煮たり焼いたりして味をつけていくのだろう。
私は飢えぬから食は嗜好程度の感覚でしかないが、最近はわりと楽しみではある。
人らの作るものは大体美味い。
「……? おい、何している。欲しいものは取ったんだろ、何を待っているんだ」
あらかた欲しいであろう物を籠に入れた鎧娘が、今度は何やら人らの列に並んで待ち始めたので問う。
「……お会計が済んでいません。しっかり並んでいてください」
鎧娘は小さい声で私に答えながら、台に籠を置く。
台に置かれた籠から、台の前に立つ人らが物を取り出して逐一物の数値を述べ。
人らが数値の合計値を読み上げたところで、鎧娘は端末を台の上に乗った機械に向けて物品を受け取る。
ふむ……この数値は物品の価値を表しており、数値に対する対価を渡すことで物品と交換しているのか。
この価値の数値は恐らく何かしらの役割からの報酬で得ているのだな。鎧娘やら主様でいうなら迷宮から沸いた者を殺したりだとかしたらその行動に価値をつけて数値を得ているのだろう。
その数値を物品に価値の数値をつけて並べるものと、交換して数値を循環させている……。
万物全てに価値の数値をつけているのだろうか……その数値は誰が決めているんだろうか。人らの王が基準を決めているのだろうか。
そもそも価値観の相違などはどうするのだろうか……それも王の価値観を基準にするのか?
まあ良いか。
「はー、なるほどな。理解した……が、面倒だな。私には向かんやり方だ」
私は一連の流れから理解して、そんな結論を述べる。