ふむ、良い暇つぶしになった。
人らの幼体を見れたり、人らの文化を知れたのは良かった。
別に人らと共に生きていくつもりもないが、主様と共に生きる上では知っていた方が良いだろう。
まあ命の短い人らの文化なんてものは、時代ごとにすぐ変わるからな。覚えたところで気づいたら終わっていたりする。
さっきの価値の数値化交換取り引きも、石の下に焼いて骨にした死体を埋めるのも、なんか『こうりゃくしゃ』とやらが迷宮を潰すのも。
そのうち廃れてまた似たようなもんが出てくるだろうが。
まあ今は今でしかない、人らの暮らしを知ることも主様との幸せな日々を作るのには必要になってくるだろう。
なんて、私は程よい満足感の中で歩みを進めていると。
「迷宮災害の被害者……虚しいですね。理不尽な死に、置いていかれた子供……こんな不幸は無くさなくてはなりません」
なんてことを、なんか神妙な顔つきで鎧娘が抜かしてきた。
「……? あ? なにがだ。そりゃあ人らはどうあれ死ぬだろ、弱けりゃあ死ぬ。生きるのには強くなくてはならんのは当然の話だ」
私は鎧娘の言葉が理解できずに、道理を返す。
何を言っているんだ……? 一個もわからんぞ。
「人がそう簡単に弱いだけで死ぬなんて、間違っています!」
鎧娘はやや興奮気味に私に返すが……。
「すまんが本気で理解できない。あの幼体の『おかーさん』とやらは戦って死んだのだろう。力量を誤って死んだのは理不尽でもなんでもない『おかーさん』が弱かっただけの話でしかない」
私は淡々と語るまでもない道理を語る。
「戦った者の死を理不尽なんて言い方で片付ける方が間違っている。それに『おかーさん』とやらは弱くて死んだが、負けたわけじゃあないしな」
さらに続けて『おかーさん』の戦いについて語り。
「幼体を生かすために戦い、幼体は実際今も生きている。なら『おかーさん』は勝ちだ」
結果に重きを置いて、勝敗と死を切り分けて述べた。
勝敗とは目的を達成出来たかどうかの話でしかない。
どれだけ苦戦しようと余裕があろうと死のうと生きようと、目的達成出来た者だけが勝者だ。
生存を目的としていたのなら『おかーさん』は敗者だ。弱くて死んで負けた者だ。
しかしあれは幼体を生かすために戦って、その結果として幼体を生き残らせた。
目的は達成している。
哀れむようなことは何もない、それは勝者に対する侮辱だ。
その時戦ってすらなかった外部の者があーだこーだ口出しするのは間違っている。
「…………でも、生きていた方が絶対に良かった」
道理を受け止めきれず、鎧娘は自身の思いを吐き出す。
ふむ。
この言葉には思いと想いの重さが乗っている。本気で言っているのだろう。
しかして、これはまだ言葉だ。ただの言葉では何も変わらない。
「死んだ命をどうこうすることは出来ん。しかし納得も出来ぬのならば、おまえが全ての迷宮を潰すしかない。それがおまえの勝ちだ」
私は淡々と道理を語り続け。
「強ければ死なずとも勝つことができる。世界が変わることを願うな、自分が強く変わり世界を捻じ伏せろ」
私の中にある、私を私たらしめる答えを教えてやった。
自分は自分でしかない。
世界の方に変化を願う暇があったら、自分が強くなれば良い。
だから私の現実改変は自己の形態変化へと伸びて、他の七竜は世界に対する変化へと伸びた。
容易く世界を変えられない私は、私が変わりたくなるような相手を求めた。
だから私は主様と共にいるわけだ。
「………………」
私の答えを聞いて、深く考えながら鎧娘は歩き続けた。
まあ正直、鎧娘がどう悩もうが何を困ろうがどうでも良いし興味もない。
これも帰路での暇つぶしでしかない。
まあしかし、これも含めて良い暇つぶしにはなった。
戻って主様に話す事が増えた。
風呂にでも入りながら、主様に聞いてもらおう。
そして、翌日。
何やら準備とやらが完了したようで。
私は主様にくっついて、赤の迷宮を消し飛ばしに向かったのだった。