…………これは非常に厄介だ。
このまま迷宮災害と女体化症候群によって日本が疲弊し続けた場合、その災害の元凶そのものが対話可能だとした場合…………疲弊した日本政府は対話を受け入れざる得なくなる。
その結果……、日本は隷属を選択することも考えられる……のか? これは非常に不味い……最悪だ。
そして俺にはわかるが……公平な対話は不可能だろう。
ヴィオラ……黒竜王とも俺は対話を試みたが会話は成立しなかった。初手からぐしゃぐしゃに弾き飛ばされた。ほぼ不死身になっていなければ初手で死んでいた。
異なる世界からやってきた異なる生命体だ。
倫理も道徳も常識も価値観も、全てが噛み合わない。
二十年戦い続けてやっと互いに『殺したい』という一点において重なり、奇跡的にヴィオラと共鳴したにすぎない。
これに再現性はない、まずほぼ不死身の日ノ本特殊防衛人造超人が必要になる。
…………これは迅速な解決が求められる。
災害が災害とされてるうちに抹消させなくてはならない。
下手な対話は悪手になりかねない。
未知の災害のうちに、消し去る。
日本は俺が守る、そのために俺は造られた。
そのためにまず赤竜王は確実に討伐する。
「姿かたちは獅子と人を混ぜたような、小娘の牛畜生に近い。手足と尾に竜のままで、大きさは私の第一形態より小さいが第三形態よりは大きい」
ヴィオラは俺の動揺を気にも留めず、赤竜王の容姿について語り。
「主な力としては転移というか……
赤竜王の能力について語る。
「まあ上手い説明ができんな、恐らくこの世界に類似する事象がない。見たほうがわかりやすいだろう。それと両の手と口から炎熱を吐く、こないだのヘビよりは高威力ではあるが私の第三形態ほどの威力はない」
その特異性も語ろうとする。
「殺し方は普通に頭か心臓を潰せば死ぬ、特に変わったところはない。竜が残った場所の強度はかなり硬いが、それ以外の場所は攻撃が通る」
さらには弱点というか、死に至る条件まで語って。
「まあその程度だ。別に大したことは知らん」
さもありなんと、そう締めくくった。
「おまえ……いや、よく教えてくれた。助かるぞ」
喉元ギリギリまで出てきた「もっと早く言えよ」を飲み込んで、俺はヴィオラに感謝を伝えて顎下を撫でる。
想像以上に有益な情報だ。
何も知らないのと、この情報量では雲泥の差だ。
さて考える。
有効な戦略、戦術、戦法……
一旦サイズはかなりデカい、十メーター……いや十五メーター以上あると考えていい。
火炎に関しては暗木と縞島でミライをカバー、俺や里里や喜怒はどうにかできる。
ヴィオラほど硬くないのなら、攻撃は通るだろう。
問題は『跳ぶ穴』というもの……、正直これに関してはよくわからない。
多分もっと聞こうとしても具体的にはわからないと思われる……、類似する事象がないということは俺らの理解を超えたものなのだろう。
転移に近いということはワープのような現象……移動に使うというのはイメージしやすいが攻撃となると、対象を自分の射程に強制的にワープさせるということか?
いや、攻撃自体もワープさせるのか? 多角的な火炎攻撃……さらには硬質外皮の手足を用いた物理攻撃か。
身体の大きさから考えて最下層は相当広い、これに関しては千歳ダンジョンと同じくらい広いと考えて良いだろう。
遮蔽になるものもないだろう、雑魚モンスターも沸く……まあその辺はミライがどうにでもする。
様々なケースを想定する、ひたすらに考える。
想定を超えてくるということも含めて、あらゆるケースに対して対策を講じる。
役割と配置と行動を考える。
ヴィオラは自分よりは弱いと言っているが……信じたとしてもヴィオラが強すぎて物差しとして機能していない。
ただ間違いなく弱くない、ヴィオラの評価は「自分よりは強くない」だ。弱いとは一言も言っていない。