八月の蒸し暑い夜、地元の夏祭りで賑わう商店街。色とりどりの提灯が夜空を彩り、太鼓の音が響いていた。
「いらっしゃい!たこ焼きいかがですか?」
屋台の向こうから声をかけてきたのは、
「あの...たこ焼き8個お願いします」
「はい!熱々ですよ。気をつけてくださいね」
大輝が差し出した容器を受け取ろうとした時、美月の手が滑ってしまった。
「あっ!」
とっさに大輝が手を伸ばし、美月の手を支えた。一瞬、二人の目が合った。
「大丈夫でしたか?」
「は、はい...ありがとうございます」
美月の頬が赤くなった。それは浴衣の赤い帯のせいだけではなかった。
翌週、美月は実習先の病院で慌ただしく過ごしていた。急患の搬送があり、救急車のサイレンが響いている。
「火災現場から搬送された患者さんです!」
担架を運んできた救急隊員の中に、見覚えのある顔があった。
「あ...」
「あの時の...」
大輝と美月は同時に声を出した。しかし、患者の処置が最優先。二人はプロとして黙々と仕事に取り組んだ。
処置が終わった後、大輝が美月に声をかけた。
「先日はありがとうございました。えっと...」
「高橋美月です。看護学生です」
「佐藤大輝です。消防士をしています。あの...お疲れ様でした」
「こちらこそ。お疲れ様でした」
短い会話だったが、二人ともなぜか心に温かいものを感じていた。
それから数日後、美月が病院近くのカフェで一人で座っていると、大輝が入ってきた。
「あれ、美月さん?」
「大輝さん!偶然ですね」
「隣、座ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
二人は自然と会話を始めた。
「消防士の仕事って大変でしょうね」
「そうですね。でも、人の役に立てることにやりがいを感じています。美月さんも看護師を目指していらっしゃるから、同じ気持ちかもしれませんね」
「はい。人を助ける仕事がしたくて」
共通の価値観を持つ二人は、話が弾んだ。
「また、お時間があるときにお話しできればと思うんですが...」
大輝が少し照れながら言った。
「私も、そう思います」
美月も微笑んで答えた。
秋の夕方、二人は海岸を歩いていた。オレンジ色の夕日が海面に反射している。
「綺麗ですね」
「そうですね。でも、美月さんの笑顔の方が綺麗です」
「もう、そんなこと言って...」
美月は恥ずかしそうに俯いた。
「美月さん、僕は...」
大輝が何か言おうとした時、美月の携帯が鳴った。
「すみません。実習先からです」
電話を切った美月の表情が曇った。
「急患で、すぐに病院に戻らなければいけません」
「わかりました。送ります」
美月の国家試験が近づいてきた。勉強に追われる日々で、大輝との時間も限られていた。
「ごめんなさい、最近忙しくて...」
疲れた表情の美月に、大輝は優しく言った。
「大丈夫です。美月さんの夢を応援しています。何か手伝えることがあったら、何でも言ってください」
大輝は美月の勉強の合間に、温かいコーヒーを差し入れしたり、励ましのメッセージを送ったりした。
「大輝さんがいてくれるから、頑張れます」
美月の言葉に、大輝の心は温かくなった。
国家試験に合格した美月。お祝いに二人は夜景の見える展望台に来ていた。
「美月さん、合格おめでとうございます」
「ありがとうございます。大輝さんに支えてもらったおかげです」
街の灯りがキラキラと輝く中、大輝が美月の手を取った。
「美月さん、僕は...僕はあなたを愛しています」
美月の心臓が高鳴った。
「僕と付き合ってください。二人で支え合って、人を助ける仕事を続けていきましょう」
美月の目に涙が浮かんだ。
「はい。私も大輝さんを愛しています」
二人は静かに抱き合った。
それから二年後、美月は正看護師として、大輝は消防士として、それぞれの職場で活躍していた。
クリスマスイブの夜、大輝は美月を最初に出会った夏祭りの会場に誘った。今は静かな商店街だが、二人には特別な場所だった。
「美月、僕と結婚してください」
大輝がリングを差し出した。
「人を救う仕事をしている僕たちだからこそ、お互いを支え合える。君となら、どんな困難も乗り越えられる」
美月は涙を流しながら答えた。
「はい。大輝さんと一緒なら、どんな未来も怖くありません」
結婚式は、二人が働く病院と消防署の同僚たちに祝福されて行われた。
「誓います。健やかなる時も、病める時も、お互いを愛し続けることを」
二人の誓いの言葉は、人を救う職業への誓いでもあった。
新婚旅行から帰った二人は、それぞれの職場に戻った。時には大変な日もあったが、お互いがいることで乗り越えられた。
「お疲れ様」
「今日もお疲れ様」
家に帰れば、いつもお互いを労わり合う二人。
夏祭りの夜に始まった恋は、永遠の愛となって二人の心を結んでいる。人を救う仕事に就く二人だからこそ、お互いの大切さを誰よりも理解していた。
そして今も、二人は手を取り合って、愛に満ちた日々を歩み続けている。