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第52話……大魔法使いエビクロティア現る。

 私はアーデルハイトとともに、ラゲタの宝物庫を漁っていた。

 きっかけは、自分達の欲という訳でもなく、王宮から使者が来たからだ。

 ここラゲタは古都ということもあり、大きな宝物庫に貴重な文化財が多く収められていたのだった。


「リルバーン伯爵殿、ご同道の上、宝物庫の見分がしたい!」


「どうぞ、こちらになります」


 ラゲタ城を王国軍として占領したとはいえ、鹵獲物は勝利貴族家の権利。

 王宮の使者とはいえ、私に無断で宝物庫に入るわけにはいかなかったのだ。

 そういう訳で、ご使者と一緒に宝物庫に入っているのだ。


「……こ、これは。伯爵殿、これらを王宮に持ち帰ってもいいだろうか?」


 ご使者殿が、古そうな壺を指さして言う。

 きっと価値があるのだろうけど、私にはその価値がわからない。


「ええ、構いませんよ」


「おお! 流石は陛下にご忠勤な伯爵殿じゃ。王宮吏員と致しましても感謝したしますぞ!」


 王宮からの使者はどんどん宝物庫の奥へと入っていく。

 私は文化財にあまり興味がなく、彼等に好きにさせるようにしていたのだ。

 彼等とはぐれ、アーデルハイトとぶらぶらしていると、


「将軍! ……こ、これは?」


 アーデルハイトが見慣れない黒い金属塊を指さす。

 金属片につけられていた木片を読むと、『オリハルコン鉱石』と書かれていた。


「おお!?」


 オリハルコン、それはいわば伝説の金属であり、もし本当ならば、凄い発見であった。

 私とアーデルハイトは、コッソリその黒い鉱石を、使者の目の届かないであろう場所に隠した。



「あのように持たせても構わないのですか?」


 王宮から来た使者の馬車には、宝物庫から漁った文化財が満載。

 それを見て、流石にスタロンが惜しそうにそう言ったのだ。


「まぁ、自分のモノでもないしねぇ?」


 馬車は王都シャンプールを目指して出立。

 それを見送るラゲタの民の目線が、憎悪に満ちたものであったのは言うまでもなかった。




◇◇◇◇◇


 小雨が降りしきる中――。

 私はスタロンを連れて、再び鍛冶師のウドゥンのもとを訪ねていた。


「あんたも物好きだな?」


「あはは」


「流石にお貴族様に三度も来られたんじゃあな。……でもな、俺は生まれついたこの街を離れる気はないぜ」


「じゃあ、この加工をお願いできますか?」


 私はオリハルコンと疑われる金属塊を差し出した。


「こ、これは?」


「この街の宝物庫で見つけたんです。本物ならオリハルコンらしいのですが……」


「へぇ~、それはすげぇな! で、何を作って欲しいんだ? 初めてなんで加工できるかどうかも分からんが……」


 そう言われ私は悩んだ。

 なにを作ってもらおうか?

 出来れば長剣が欲しいが、どうやら分量が足りそうになかったのだ。


「では籠手を作ってください」


「わかったよ。じゃあまたな」


 男は注文を聞くと、また不愛想な風にもどった。

 きっと、仕事は真面目にしてくれるのだろう。

 私は彼を信じて政庁へと戻ったのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴565年6月――。

 オーウェン連合王国軍は、クロック率いる部隊一万五千名と、オルコック率いる部隊一万二千名が合流。

 要塞都市サラマンダーを包囲していた。

 ただ二人の将はお互いをライバル視。

 そのため、東西に作戦担当地区を分け、どちらが早く城門を破壊できるか競っていたのであった。


「付け城を築け! ネズミ一匹通さぬようにな」


「はっ」


 二名の将は競って陣地を構築。

 要塞都市を十重二重にくまなく包囲したのであった。


 要塞都市サラマンダーはその名の通り堅城で、深い空堀と石造りの高い城壁を備えた城郭を誇っており、簡単に落ちるとは思えない造りとなっていた。

 ただ、未だに商国の主力は北方に在陣し、ここを陥落させるには絶好の好機となっていたのだ。


「弓隊、前へ」

「放て!」


 両軍はお互いに飛び道具で応戦。

 空が真っ黒になるほどの矢が飛び交った。


「攻城塔を前にだせ! 投石器も準備せよ!」


「はっ」


 王国側が攻城兵器を前へ押し出そうとしている時。

 城壁の上に、一人の老人が現れた。


「雷雲よ湧け! 稲妻よ我が敵を打ち滅ぼせ!」


 老人がそう言うと、あたりはいつの間にか暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いた。

 そして、王国軍の攻城兵器へめがけ、次々と落雷が襲ったのであった。

 雷撃を受けた王国軍の攻城兵器は、次々と焼け落ちていく。


「何事だ!? 火を消せ!」


 前線指揮官は慌てふためき、兵卒たちに消火を命令。


「神がお怒りだ!」

「逃げろ!」


 この世界において、雷は神の怒りとも言われていたのだ。

 兵卒たちは指揮官の制止を振り切り、次々に逃げていく。

 それを見て、城壁に立つ老人は高らかに笑う。


「うははは! 我こそはエビクロティア。古の魔法を操る神の化身なり!」


 攻撃側の王国軍は大いに浮足立ち、陣地に逃げ込み震えあがった。

 このエビクロティアという老人。

 商国に最近から仕えた大魔法使いだった。


 このような強大な力を扱う割に、どこから来たのかもわからず、謎ばかりの存在であり、周辺の勢力に知られたのもこの日が初めてであったのだ。



「……い、如何いたしますか!?」


 居並ぶ部下にそう聞かれるも、天変を操るという事象に、クロック侯爵も親衛隊長オルコックも為す術を知らなかった。


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