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第134話……ケード連合軍再び。

 統一歴569年3月上旬――。


 山々の雪が解け、小川のせせらぎも美しい。

 村々や郷の人々も本格的に耕作に従事する時期となっていた。


「整列!」

「隊列右へ!」


 私はリルバーン公爵家の軍隊の調練に励んでいた。

 リルバーン本家の禄は全盛期より減少しているため、本家の動かせる兵員は4500名といったところだった。

 また、拠点防衛や治安維持なども考えると、機動的に動かせる兵員は凡そ3000名。

 そして、ゲイル地方のライスター家の機動的に動かせる兵員は凡そ500名余りだった。


 さらに、グリフォンのような相手にも戦えるように、弩を改良し大型化した強弩を配備。

 個人では扱えないバリスタや投石機なども製造し、魔物対策にも備えつつあったのだった。


「ご注進! ご注進!」


 こんな折、ケードの当主たる姫様から伝令が来た。

 雪解けに乗じて、レビンの魔物の軍勢がコーデリア山脈を踏破し、ローランド地方北部に現れたとのことだった。


「うむ、急ぎ戻ると伝えよ!」


「はっ!」


 私は一応、今はケード連盟の宰相。

 当然に戻らない訳にはいかなかった。


 さらに、リルバーン公爵家としても軍議で図り、約2000名の援軍の派遣を決定。

 率いる将は、リルバーン家の主流である旧臣派閥のモルトケとした。


「殿下にも援軍を要請せよ!」


「かしこまりました!」


 さらにオーウェン大公国から殿下が直卒で1500名の援軍を派遣。

 私は以前からゲイル地方から参集させていた500名の兵士、アーデルハイトとナタラージャの両将を加えた援軍を編成した。


「全軍進発!」


 各家混合ではあったが4000名の援軍がケードの地へと向かったのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴569年3月中旬――。


 ケード連盟もラムの地にて、ローランド地方への援軍を編成。

 凡そ16000名の精鋭を参集した。


「各隊、進発!」


 五日後――。

 ヘザー盆地にて、リルバーン家を筆頭にした各家4000名の援軍と合流。

 そこから進軍速度を上げ北上しローランド地方南部に入る。

 さらにグレゴリー城、ルロイ城を経て、改修を終えたサイゼリア城に急ぎ入城したのであった。


「ご援軍、まことに痛み入る!」


 フィー姫はケード連盟の当主として、正式に援軍に感謝の意を述べた。


「いえいえ、我が家もケード連盟と長く誼を通じたいと思っておりますれば、さしたる苦労ではございませぬ」


 これに答礼したのは、オーウェン大公国の当主であるリル殿下であった。


「……で、レビンの輩はどこにおりますか?」


 殿下の質問に答えたのはケードの重臣アイアース。


「さすれば、敵は我が方の北東4kmの高台に、おおよそ8000名の魔族を率いて陣を張ってございます」


「ふむう、我が方の二分の一か?」

「ならば、迎え撃って、二度とローランドの地を踏ませぬよう叩いてやるがよかろう!」


「左様、左様!」

「グリフォンのヤツには我が弩隊の盛況ぶりをみせてやらん!」


 寒い冬が明け、ケードの諸将の戦意は旺盛であった。

 そのような声にこたえるかのように、フィー姫は城外での迎撃を決意。

 城には守備兵1000名を残しての全力出撃を決定したのであった。


「参るぞ!」


「「応!」」


 ケード連合軍はレビンの軍勢を迎え撃つべく城の北東の平原へ布陣。

 今度は、兵力の余裕もあることから、重厚な防御力を誇る魚鱗の陣を選択したのであった。


 援軍諸家の部隊は主に右翼を担当。

 私の率いる部隊も右翼後方に布陣したのであった。




◇◇◇◇◇


「備え、魚鱗に改め!」


 ケード連盟軍の布陣を見て、レビンの魔軍も高台を降りてきて、ケード連合軍に迎え撃つように布陣したのであった。

 レビンの魔軍は数に劣るために陣形は、横に薄く広がる鶴翼を選択。

 こちら側に左右から回り込まれるのを恐れているようであった。


「掛かれ! 一兵も逃がすな!」


「「応!」」


 意外なことに、にらみ合いの時間は少なく、兵力優位と見たケード側の左翼が仕掛けた。


 突撃を合図する青銅製の巨大な銅鑼を大男が連打。

 数ある陣太鼓も同時に押し鳴らされる。


「弓隊、放て!」


 まずは、弓をもつ兵士が、歩兵部隊の進軍を支援。

 敵を怯ませ、備えを崩すべく猛烈な射撃を開始したのであった。


 これには魔軍側も応射。

 特に怪力自慢のオークたちが強弓を引き絞った。


「大盾兵、前へ」


 これには人間側の弓兵が力負けし、盾兵や魔法術師などの支援を必要としたのだった。


「ええい! 怯むな! 長槍兵突撃!」


「「応!」」


 敵の弓射撃の間隙をついて、人間側の槍兵が一斉に突撃。

 左翼の各指揮官たちは、数の有利を生かそうとしたのだった。


「……ギギギ」

「ガウガガ! マケルナ!」


 これに応じたのは、ゴブリンなどの低級魔族の徒歩部隊。

 数はそこそこいたのだが、装備はかなり貧弱だった。


 装備の差もあり長槍部隊の突撃は、敵の戦列の崩れをいくつか作り出した。

 それを見逃さなかったのは、左翼後備えの騎兵部隊を率いていたヴェロヴェマであった。


「味方の左から敵陣に突撃せよ!」


「「応」」


 彼の率いる騎馬隊は、魔軍の右翼を大きく突き崩し、敵を混乱せしめた。



「好機だ! 右翼も攻勢に出ろ!」


 これを見た総軍代理のアルヴィン子爵が攻撃の合図を送る。

 伝令が四方に飛び、ケード側の中央部隊も攻勢に出たのであった。


 こうして、戦い序盤は人間側が数の利を生かし、優勢に戦っていったのであった。

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