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第167話……海路からの奇襲!

 王国軍総司令官オルコック本営――。


「本営を守れ!」

「槍を掲げ、防御陣を構えよ!」


 急ぎ槍を構えた歩兵が、オルコック将軍やその幕僚を守るように円陣を敷く。

 ルドルフの騎兵隊の突撃に対して、槍衾を形成して迎え撃ったのだ。


「怯むな!」


 槍衾を作ったとして、人馬一体となった騎士の突撃に前に、生身の人間は恐怖を抱く。

 必死の形相で多くの槍兵はその場に踏みとどまろうとするが、幾らか逃げるものも出るのは仕方なかった。


「槍衾は相手にするな!」

「速度を保て! 神速を貴べ!」


 ルドルフはそう叫び、槍兵が構える防御陣地を迂回。

 攻城兵器が居並ぶ丘へと駆けて行った。


「火を放て!」


 いきなりの騎士たちの突撃に、攻城兵器を展開している部隊は大混乱。

 油の入った壺の投擲や火魔法の展開により、輜重や攻城兵器群は炎に包まれた。


「しまった、狙いはそっちであったか!」


 本営の周りに兵を集めたために、物資の集積所や攻城兵器を守る兵が手薄になっていたのだ。

 それにより、商国軍の攻城兵器などへの攻撃は易々と成功。

 王国軍の攻勢を援護する攻城兵器群は、無残な瓦礫となり沈黙したのであった。


 その後、ルドルフ率いる親衛隊は王国軍右翼を背後から急襲。

 混乱する敵中の突破をやすやすと成功させ、ほとんど被害を出さずに自陣に帰還したのであった。




◇◇◇◇◇


 攻城兵器群を壊されたこともあって、王国軍の攻勢は決め手を欠くものになっていく。

 両軍は開戦からほぼ休みなく戦い、そろそろ陽が沈もうとしていた。

 そのような時分、オルコックのもとに急使が訪れた。


「ご注進! 商国軍騎兵に後方のサマーズ砦を占拠されました!」


「なんだと?」


 サマーズ砦は本国からの補給線を確保するために整備していた重要な砦。

 規模は小さくとも、王国軍の重要な物資集積地となっていたのであった。


 この砦を急襲したのは、カン宰相率いる軍勢から騎兵だけを抽出した機動部隊であった。

 さらに歩兵を連れた主力部隊は、さらに三日たたないと到着しない位置であるらしい。


「……ま、まずいな」


 だが、これにより王国軍は袋のネズミと化してしまったのだ。

 急いで前方に活路を求めようにも、今は兵も馬も疲れ切っている。


「もはや、打つ手はないのか?」


 オルコックがそう呟いた時。

 突如、正面に対峙する商国軍の軍勢が騒々しくなっていく。


「将軍! あの旗をご覧ください。あれは我が王国の旗印ですぞ!」


「おおう? 援軍か?」


 オルコックは援軍と思ったが、それなら後方からくるはず。

 だが、援軍らしき部隊は、敵の後方から現れたようであった。


「将軍! 敵部隊が混乱しておりますぞ! 攻撃命令を!」


 幕僚がオルコックに攻撃を進言。

 状況を掴めないでいたが、商国軍は混乱し始めている。

 とにかく攻撃の好機であることには違いなかったのだ。


「全軍に総攻撃を命じよ!」


「はっ!」


 オルコックの命令一下、伝令が四方に散る。

 本営から銅鑼が連打され、王国軍は夕日の中で、最後の力を振り絞るように大攻勢に転じたのであった。




◇◇◇◇◇


 同時刻――。


 私はコメットに跨り愛剣を振りかざし、商国軍を後方から奇襲していた。

 率いる兵は竜騎士50名に、女王近衛騎兵200名。

 いずれも一騎当千の精鋭ではあったが、足を止めるとあっという間に敵に捕捉される可能性があった。


「とまるな! 敵陣をかき乱せ!」


 今、何故私の部隊が、敵の後方から現れたかというと……。

 商国の海を守るユニアック伯爵がこちらに通じるとの話であったので、陛下に急ぎ拝謁。

 陛下の許しを得て、機動力を備えた部隊だけを編成し、足の速い船を借り受け、急ぎ南の海路からガーランド商国の奥深くへと雪崩込んだのだった。


 だが、わずか250名で敵の首都であるグスタフは落ちない。

 機動力を生かし、補給線だけを攻撃するよう企図したのだが、ここでオルコック率いる王国軍の苦戦の知らせを聞いたのだ。


 よって、少数であることがばれぬよう、薄暮に近い時刻を選び、商国軍を後方から奇襲したのであった。

 案の定、敵は後ろには防御施設を持たないために、騎乗のままで突撃できたのであった。



「幕舎に火矢を放て、敵陣を炎で包んでしまうのだ!」


 私の部隊が機動しながら、敵陣で好き勝手していると、敵の騎兵部隊が追いかけてきた。

 敵部隊の旗印は、ガーランド王国の最精鋭である親衛隊のものであり、まずい部隊に捕捉されてしまったのだ。


 ……しかも敵の方が数が多い。

 だが、よく観察してみると敵の馬には疲れの色が見えた。

 きっと馬上の騎士たちも疲労しているに違いなかったのだ。


「好機! 敵騎兵隊に突っ込め!」


 私は部隊を纏めUターン、敵の親衛隊めがけてつっこんだ。



「……くっ、ごほっごほっ」


 肝心なところで、肺に痛みがでる。

 咳込み、口を抑えた手は真っ赤な鮮血で染まっていた。


 王宮薬師に貰った鎮静ハーブの効果が切れたのだ。

 だが、ここで降りるわけにはいかぬ。


「憑依せよ、魔族の力よ!」


 私はコメットを走らせたまま魔法を詠唱し、魔力を全身に巡らせた。

 魔族に教わった強大な魔法の力で一時的に強化する。


 病でやつれた筋肉は若さを取り戻し、隆々としたものへと変わっていく。

 もちろん副作用はあるのだが、この乾坤一擲の勝負に負けるわけにはいかなかったのだ。


 ……ん?

 敵部隊の先頭の騎兵、あれはどこかで見た男だ。


 私は急いで頭を巡らせ思い出す。

 ……そうだ、奴こそは敵の王ルドルフの姿であったのだ。


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