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第125話……金山豪という男

 俺の名は、金山豪(かなやまつよし)。

 ゲームの中での名前はトロストという。


 ……今、居間で防衛省の役人と会ってやっている。



「金山さん ぜひ地球を救ってやってください!」


「まぁ、俺に任せろ!」

「だがな! ヴェロヴェマって奴に邪魔させんじゃねぇぞ !」


「それはもう、わかっております。さっそく本人へ厳重注意の方をさせていただきましたので!」


「おう、わかってんじゃねぇか!」


「はい、ではよろしくお願いします!」


 頭をペコペコして 役人風情が出てきやがったよ。

 ……やだねぇ、宮使いなんて。


 俺も週に3日、コンビニにバイトに行ってるがな。

 金はあるけど、周りにニートとか呼ばれたくないしな。



 ……てか、ヴェロヴェマって奴は、なんで接続できているんだろうなあ。


 日本で発売されているヘッドギアタイプのゲーム機は、もうあのゲームに接続できなくなっているはずなのにな……。


 ……ちっ、まあいいか。

 でも、今度あったらただじゃおかねーぞ。



 俺は部屋に戻り、お袋が買ってきたデパートのステーキ弁当を食った後、カプセルに入って向こうの世界へログインした 。




☆★☆★☆


「次は頼むよ、トロスト君!」


「はっ!」


 今や唯一の上司とも言えるリーゼンフェルトの旦那に、近日中の報告をする。

 ヴェロヴェマの奴には少し負けたが、パウルス提督を捕虜にする手柄を挙げた。

 ……まあこれでチャラってとこだ。


 何しろ、クレーメンスの親父も、リーゼンフェルトの旦那も、そろばんが全くわかっちゃいねぇ。

 俺は以前より、帝国の国営企業の株の過半数を秘密裏に買い占めていた。


 つまるところ 、実はクレーメンス帝国の真の実力者は俺様ってことだ。

 ……簡単だな、つまるところ、地球もこっちもコネと金次第ってことだ 。


 しかし ヴェロヴェマってやつのおかげで、クレーメンス帝国の戦力はボロボロだ。

 まあしかし、戦いに負けても、勝負に勝つってのが、俺様の流儀だ。




 俺はその晩、トール技術少将の元を訪れてやった 。


「例の物はできてるかい?」

「えぇ、なんとか 」


 薄気味の悪い水槽の中に 、アンモナイトのようなものが培養されている。


「こんな大きさじゃ実用にならんが?」


「いえいえ、すでにアルバトロス星系の外縁に、戦闘用の500m級を50体ほど駐機させております。


「気が利くじゃねえか!」


 俺はトール少将の肩を叩く。



「ははは、これが私の仕事ですから」


 トール技術少将は、病弱そうな細身の男だった。

 しかし、頼もしいマッドサイエンティストだ。


 ……今日からこの薄気味悪い宇宙怪獣である、甲殻宇宙海獣デスイーターが俺様の艦隊だ。


 ちなみに、奴らは核融合炉や核分裂炉が大好きだ。

 つまるところ、宇宙船のエンジンに食らいつくってことだ。


 500m級の宇宙怪獣に食いつかれたら、宇宙戦艦だってたまったもんじゃねえ。

 それが、今やいくらでも培養できるってんだからな……。



「トロスト中将閣下!」

「なんだ?」


「くれぐれも宇宙怪獣をお使いになるときは、電磁波遮断型の特殊な艦艇で指揮をとってください」

「……でないと、トロスト中将閣下自体も、食い殺されかねません!」


「分かった」



 ……そう、何も宇宙怪獣を培養することが凄いわけではない。


 最も大切なことは自分を攻撃させないことだ。

 それをこのマッドサイエンティストは実現させやがった。

 宇宙海獣に感知されない俺の船も作ってくれたって訳だ。



 ……まあ、後はリーゼンフェルトの旦那に、俺の作戦計画を承認させるだけだな。



「……くくく、また楽しみな奴隷狩りが出来るぞ」


 ……まずはそうだな。

 鬱陶しいグングニル共和国から潰してしまおうか。



「……さぁ、宇宙怪獣様のお手並み拝見と行きますか」


 俺はその晩、笑いが止まらなかった。




☆★☆★☆


 私はのんびりと煙草をふかしていた。

 何しろ、防衛省から脅しを受けて、とてもビビっていた。


 ……脅されても派手に動けるほど、私は強い人間じゃない。



「ハンニバルの修理が終わったクマ!」

「ありがとうさん!」


 前回のトロスト中将との戦いは、全ての運の要素と、全エネルギーを出し切った戦いだった。

 もう二度とやれと言われてもできない。

 よって、次は運に頼らず、堅実に勝ちたいものだ。



「新型主砲塔も準備ばっちりポコ!」

「頼んだよ」


 ハンニバルの主砲は、より強いエネルギー収縮装置を採用した。

 この改良は技術だけじゃなく、これまでの戦いのレポートの集積の成果だった。

 システムの向上もまた、実戦が最強の経験であり、試練だったのだ。




☆★☆★☆


(……それから2ヶ月)


 ハードの面のみならず、艦隊もよく訓練し、ソフトの面でも強化に努めた。


 宇宙船を製造するドックは、毎日フル稼働し、生産した船は星間ギルドに収めて、多額の資金を稼いだ。



 ……日々、富国強兵であり、戦闘艦艇も整備された。


 それと同時に、支配惑星の街並みも広がっていった。

 住居はビルになり、道路も鉄道も網の目のように整備されていった。


 ……それは、まちづくりのゲームを見ているようで、とても充実感があり、楽しかった。




☆★☆★☆


「提督!緊急通信ですわ」

「どうしたの?」


 副官殿がびっくりした顔で、報告書を渡してくれる。

 どうやらクレーメンス帝国が、グングニル共和国に攻め込んだらしい。


「え!? これってどういうこと!?」


「わかりませんわ!」



 副官殿の困惑した顔の理由が、よくわかった。


 なんと、グングニル共和国が大敗したらしい。

 報告書には、艦艇約50隻を喪失。

 さらには、有人星系が三つ陥落したらしいと書かれていた。



 ……彼我の戦力差を考えれば、ありえない結果だった。


 例えば、惑星破壊砲だって、そんな万能じゃない。

 あの兵器は発射までに時間がかかり、機動性に優れる宇宙艦艇相手には、さほど有効ではないはずだったのだ。


 ……一体何があったのだろう。

 私は一抹の不安を覚えずにはいられなかった。


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