俺の名は、金山豪(かなやまつよし)。
ゲームの中での名前はトロストという。
……今、居間で防衛省の役人と会ってやっている。
「金山さん ぜひ地球を救ってやってください!」
「まぁ、俺に任せろ!」
「だがな! ヴェロヴェマって奴に邪魔させんじゃねぇぞ !」
「それはもう、わかっております。さっそく本人へ厳重注意の方をさせていただきましたので!」
「おう、わかってんじゃねぇか!」
「はい、ではよろしくお願いします!」
頭をペコペコして 役人風情が出てきやがったよ。
……やだねぇ、宮使いなんて。
俺も週に3日、コンビニにバイトに行ってるがな。
金はあるけど、周りにニートとか呼ばれたくないしな。
……てか、ヴェロヴェマって奴は、なんで接続できているんだろうなあ。
日本で発売されているヘッドギアタイプのゲーム機は、もうあのゲームに接続できなくなっているはずなのにな……。
……ちっ、まあいいか。
でも、今度あったらただじゃおかねーぞ。
俺は部屋に戻り、お袋が買ってきたデパートのステーキ弁当を食った後、カプセルに入って向こうの世界へログインした 。
☆★☆★☆
「次は頼むよ、トロスト君!」
「はっ!」
今や唯一の上司とも言えるリーゼンフェルトの旦那に、近日中の報告をする。
ヴェロヴェマの奴には少し負けたが、パウルス提督を捕虜にする手柄を挙げた。
……まあこれでチャラってとこだ。
何しろ、クレーメンスの親父も、リーゼンフェルトの旦那も、そろばんが全くわかっちゃいねぇ。
俺は以前より、帝国の国営企業の株の過半数を秘密裏に買い占めていた。
つまるところ 、実はクレーメンス帝国の真の実力者は俺様ってことだ。
……簡単だな、つまるところ、地球もこっちもコネと金次第ってことだ 。
しかし ヴェロヴェマってやつのおかげで、クレーメンス帝国の戦力はボロボロだ。
まあしかし、戦いに負けても、勝負に勝つってのが、俺様の流儀だ。
俺はその晩、トール技術少将の元を訪れてやった 。
「例の物はできてるかい?」
「えぇ、なんとか 」
薄気味の悪い水槽の中に 、アンモナイトのようなものが培養されている。
「こんな大きさじゃ実用にならんが?」
「いえいえ、すでにアルバトロス星系の外縁に、戦闘用の500m級を50体ほど駐機させております。
「気が利くじゃねえか!」
俺はトール少将の肩を叩く。
「ははは、これが私の仕事ですから」
トール技術少将は、病弱そうな細身の男だった。
しかし、頼もしいマッドサイエンティストだ。
……今日からこの薄気味悪い宇宙怪獣である、甲殻宇宙海獣デスイーターが俺様の艦隊だ。
ちなみに、奴らは核融合炉や核分裂炉が大好きだ。
つまるところ、宇宙船のエンジンに食らいつくってことだ。
500m級の宇宙怪獣に食いつかれたら、宇宙戦艦だってたまったもんじゃねえ。
それが、今やいくらでも培養できるってんだからな……。
「トロスト中将閣下!」
「なんだ?」
「くれぐれも宇宙怪獣をお使いになるときは、電磁波遮断型の特殊な艦艇で指揮をとってください」
「……でないと、トロスト中将閣下自体も、食い殺されかねません!」
「分かった」
……そう、何も宇宙怪獣を培養することが凄いわけではない。
最も大切なことは自分を攻撃させないことだ。
それをこのマッドサイエンティストは実現させやがった。
宇宙海獣に感知されない俺の船も作ってくれたって訳だ。
……まあ、後はリーゼンフェルトの旦那に、俺の作戦計画を承認させるだけだな。
「……くくく、また楽しみな奴隷狩りが出来るぞ」
……まずはそうだな。
鬱陶しいグングニル共和国から潰してしまおうか。
「……さぁ、宇宙怪獣様のお手並み拝見と行きますか」
俺はその晩、笑いが止まらなかった。
☆★☆★☆
私はのんびりと煙草をふかしていた。
何しろ、防衛省から脅しを受けて、とてもビビっていた。
……脅されても派手に動けるほど、私は強い人間じゃない。
「ハンニバルの修理が終わったクマ!」
「ありがとうさん!」
前回のトロスト中将との戦いは、全ての運の要素と、全エネルギーを出し切った戦いだった。
もう二度とやれと言われてもできない。
よって、次は運に頼らず、堅実に勝ちたいものだ。
「新型主砲塔も準備ばっちりポコ!」
「頼んだよ」
ハンニバルの主砲は、より強いエネルギー収縮装置を採用した。
この改良は技術だけじゃなく、これまでの戦いのレポートの集積の成果だった。
システムの向上もまた、実戦が最強の経験であり、試練だったのだ。
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(……それから2ヶ月)
ハードの面のみならず、艦隊もよく訓練し、ソフトの面でも強化に努めた。
宇宙船を製造するドックは、毎日フル稼働し、生産した船は星間ギルドに収めて、多額の資金を稼いだ。
……日々、富国強兵であり、戦闘艦艇も整備された。
それと同時に、支配惑星の街並みも広がっていった。
住居はビルになり、道路も鉄道も網の目のように整備されていった。
……それは、まちづくりのゲームを見ているようで、とても充実感があり、楽しかった。
☆★☆★☆
「提督!緊急通信ですわ」
「どうしたの?」
副官殿がびっくりした顔で、報告書を渡してくれる。
どうやらクレーメンス帝国が、グングニル共和国に攻め込んだらしい。
「え!? これってどういうこと!?」
「わかりませんわ!」
副官殿の困惑した顔の理由が、よくわかった。
なんと、グングニル共和国が大敗したらしい。
報告書には、艦艇約50隻を喪失。
さらには、有人星系が三つ陥落したらしいと書かれていた。
……彼我の戦力差を考えれば、ありえない結果だった。
例えば、惑星破壊砲だって、そんな万能じゃない。
あの兵器は発射までに時間がかかり、機動性に優れる宇宙艦艇相手には、さほど有効ではないはずだったのだ。
……一体何があったのだろう。
私は一抹の不安を覚えずにはいられなかった。