――夕食後のひととき。
私が艦長室でくつろいでいると、クリームヒルトさんが入ってきた。
「おじゃましますわ!」
「どうぞ」
「はい、提督」
「何?」
彼女はラッピングされた大きな包みを渡してくれた。
「今日は2月14日ですわ」
「チョコレートです、どうぞ!」
「わぁ、ありがとう!」
2月14日、それは私のような人間にとっては、悪夢の一日である。
というか、毎年その存在を忘れていた……。
……が、この世界では違ったようだ。
副官のクリームヒルトさんがチョコレートをくれた。
しかも大きい、見たことのない大きさだ。
感激して涙が出そうだ。
「早速、食べていい?」
「どうぞ、はい、あ~ん」
なんと『あ~ん』してもらった。
……嬉しい、めっちゃ嬉しいぞ。
「提督、美味しくなかったですか?」
「なんで?」
「いえ、目から涙が出てますよ」
……ああ、恥ずかしい。
彼女の頭を撫でてごまかす。
「いやありがたくて、こんな大きなの貰ったことなくて、本当にありがとう!」
その後も、私が嬉しそうに食べると、彼女も喜んでくれた。
「じゃあ、もう遅いから失礼させて頂きますね」
名残惜しい時間が過ぎる。
良い時間は速く流れるものらしい……。
「おやすみなさい」
「い……、いつか、私も貰ってくださいね」
彼女はそれだけ言うと、部屋から逃げるように出ていった。
「ぇ!?」
……今日も銀河は綺麗だった。
☆★☆★☆
――俺の名はトロスト。
今、制圧した星系の捕虜たちの見分をしている。
……この一時はたまらない。
ああ、優越感が俺の心を満たしてくれる。
最高だ!!
「お前美人だな!」
一人の若い女の手を引く。
「え!? 何をなさいます?」
「いやなに、機嫌をとりたい上官にお前を献上するだけだ!」
「や、やめてくださいませ、私は来月結婚の予定の身の上なんです!」
「知らんな、ただ俺の上官は美人が好きだということは知っている。 まあ俺の出世のための足がかりになるんだ。光栄に思ってくれよ、ははは……」
……これだから勝利ってのはやめられん。
艦隊戦で勝つだけでは、俺からすれば勝利とは言えない。
地上戦も合わせて勝って、捕まえた捕虜を自由にする、この一時が最高だ。
これこそ勝利と言える。
……めぼしい女たちを見繕った後。
俺は次に 、占領星系の領主もどきの政治家達と会った。
グングニル共和国とはいっても、このような辺境星系においては、実質的に有力者の独裁体制だ。
まぁ、地球でもそうだしな。
どこも同じってことだ。
「トロスト様、これを納めになってください」
俺は有力政治家たちから差し出された小切手を見つめ、ため息をつく。
「0の数が間違ってんじゃねえかよ! バカ!」
「はい、申し訳ありません直ちに書き直させていただきます!」
俺が投げつけた小切手を、奴等を這いつくばってひろう。
……あはは、いい気味だ。
「この額面でよろしいでしょうか?」
奴らは0を書き足してきやがった。
「……よかろう、これからもこの星系の実力者は、お前達であるように上官に差配しておく」
「ありがとうございます」
持ちつ持たれつってのは、こういうことだ。
助け合いの精神ってヤツだよな。
和をもって、貴しとなすってか?
「あと、毎月賄賂を忘れんじゃねーぞ!!」
「はい、それはもう間違いなく!」
奴等に、毎月得られる税収からのピンハネを要求しておくのも忘れない。
どうせ彼らの支配地の民衆から、増税すればすむ話だしな。
しかし、弱者って本当にかなしいね。
……ああヤダヤダ。
俺はその後、賄賂をもってこなかった有力者連中の資産を残らず没収した。
その日の食料とて残らず奪い取っておく。
こういうのはケジメが大切だよな。
さらには、そいつらに、綺麗な子女でもいれば、闇の奴隷市場で売り払った。
勝者こそ全て、俺こそ勝者。
……俺はその3日後。
グングニル共和国との戦いの功績により、大将に昇進した。
地球もな、そのうち全て、俺のものにしてやる。
N国の防衛省の連中も、せいぜい頑張ってくれ。
貴様らが無能だってことは、すぐに証明されるからな……。
「あはは……」
……しかし、俺が闇の奴隷市場で民衆を売り払ったのに限って、全て買いとっていく金持ちがいるらしい。
その後、俺はその買付人の情報を集めた。
取り寄せた情報によると、買付人の名は……、
「ポコリーヌ? タヌキだと? ははは……」
……気をまわしすぎたか、変なタヌキもいるもんだな。
用途は鉱山開発か?
ふむ、鉱山もいいな。
今回手にした賄賂で、クレーメンス帝国所有の国有鉱山を多数抑える。
次に捕まえた民衆には、俺様の鉱山で働かせよう。
「……人件費が安くつくな、うはは!」
☆★☆★☆
「はっくしゅんポコ!」
「風邪ひいたの?」
最近、砲術長殿のくしゃみが酷い。
「……きっと、花粉症ポコね」
宇宙戦艦の中で花粉症になるタヌキ……。
……まぁ、なんでもありか。
「あ、艦長! 新しい人が二万人来るから、お家の手配よろしくポコ!」
「了解!」
……てか、二万人分の住居と、物資ですとぉ!?
足りない買収費用は、蛮王様やアメーリア女王から借り入れている。
人道的融資ということで、利息は少なめにしてもらってるが、借入金の額がヤバいことになってきた。
「また、冴えない貧乏提督にもどってきたニャ♪」
お金に目がないマルガレーテ嬢に馬鹿にされる。
……でも、なんだか温かいまなざしな気もするけど。
その結果、私の領地である惑星ベルは人口が増加し、繁栄の色合いを濃くしていったのだった。