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第128話……通商破壊と共和国元老議会

――人類は歴史的に見て、敵地に容赦がない。


破壊活動しかり、略奪行為しかり、焦土戦術しかりである。


この世界の人類もまた、古代の熱核兵器での大戦争時に、敵の継戦能力を奪うために、汚染兵器を大量に使用した

 この汚染兵器とは、その惑星で将来食物が育たないように有害な電磁波をばらまく、地雷のような兵器を、敵地に天文学的な数量埋設したのだ。


 この兵器をばら撒かれた惑星は、半永久的に植物が育たない、死の惑星と化した。

 それは人工的な食料プラントにおいても同じである。

 この地の人類は死の惑星を多数作り出し、その許容できる人口を恐ろしく減らしたのだった。


 よって、食料の育つ未開の辺境惑星から、食料が育たない人口が多い惑星へと、宇宙船で食料を輸送せねばならなかったのだ。


 ……これが、今日の激しい食糧不足の元凶事情であった。




☆★☆★☆


(……グングニル共和国輸送艦隊、旗艦艦橋)



「超巨大質量がワープアウトしてきます! その数2!」

「……こ、甲殻型の宇宙海獣です!」


 情報担当士官が悲鳴を上げる。



「全艦シールド全開、全力退避!」


 艦橋で、輸送艦隊の司令官が即座に退却を指示した。



「了解!」


 しかし、宇宙海獣はその巨体に似合わぬ俊敏さも持ち合わせていた。


――触手からエネルギー波が放たれる。


「護衛艦大破! なおも敵至近!」




 グングニル共和国艦隊は、クレーメンス帝国が組織的に行う、宇宙怪獣と特殊潜航艇による通商破壊行為に頭を悩ませていた 。


 彼らは神出鬼没で、共和国主力艦隊が来た頃には、すでに姿をくらましていたのだ。


 ……しかも、宇宙海獣にはこれといった有効な対抗手段は未だなく、グングニル共和国の経済はずたずたに破壊され、もはや休戦もやむなしという、情勢に追い込まれていた。




☆★☆★☆


(……グングニル共和国元老議会)


 ここには、共和国議会300名から選ばれた、各党派の代表9名が出席していた 。


 共和国は古の熱核兵器戦争の反省により、独裁体制を避け集団指導体制を敷いていた 。

 各地方の星系から議員を選出し、さらにその議員たちが元老と呼ばれる、上級議員を選出していた 。

 ……主にグングニル共和国の政治は、この元老たちが重要な指針を示すことで、成立していたのだった。



「もはやクレーメンス帝国と、不平等であれども休戦協定を申し込むしかないと思われます!」


「……そうか」


 元老院の議長は、軍部の高級官僚の報告に対し、落胆した顔色を見せていた 。



「現在、共和国の星系間輸送能力は39%にまで低下、今四半期のGDPは6割減が予想されます」


 議長に、通商担当の行政官が悲痛な顔で報告する。



「しかし奴らは、我が国の民衆を多数奴隷として売却しております!」

「このような連中に屈しては、栄光ある我らの次期選挙での再選はありえません!」


 新進気鋭の若手女性の元老議員が、議長に鋭く意見した。



「……では、如何様にするのだ?」


 議長が女性議員に聞き返した。



「敵を追い払うにも、我が軍の艦艇では数が足りません」


 軍部の担当者が、額の汗をぬぐいながら意見した。

 共和国の艦艇は、多くが宇宙海獣によって、撃ち減らされていた事情があったのだ。



「……さよう、では、有志を募っては、いかがかな?」


 中年の元老議員が提案した。



「義勇軍の募集ですか?」


「そうだ。幸い我が国は、未だ豊富に資金力がある。この資金が尽きぬうちに、対抗策を打ち出すのだ!」


 元老議員はめいめいに発言した。



「……よかろう、では、民間から義勇兵を募ろうと思う」


 議長が義勇軍の提案を取りまとめ、各元老議員は頷いた。



「これを本議会に正式に提案し、賛同を得た上で、星間ギルドに要請することにする」


「「「御意」」」



 ……各元老議員は議長の意見に同意し、またグングニル共和国本議会は、この提案を即日賛成多数で可決したのだった。



 グングニル共和国は正式に星間ギルドを通じて、義勇兵もしくは有志の船舶によるクレーメンス帝国艦隊の通商破壊戦略に対して対抗することが決定した 。


 仲介した星間ギルドが提示した賞金額はすこぶる高く、宇宙に名だたる冒険者たちは先を争って応募した 。


 ……しかしそれは、資金力が豊富な有力星系を中心に、義勇兵が編成されたので、一部の貧困過疎星系には、防衛戦力が全く投入されないという、格差が生じた。



 そこで、貧困星系の1つであるアルファ星系は、僅かなつてを頼り、独自に義勇兵を応募したのだった 。


 ……だがやはり、提示できる賞金はごくわずかで、多くの宇宙船保有者に、冷ややかな目で見られていたのだった。




☆★☆★☆


「お薬クマよ~♪」

「早く元気になってポコ♪」


 私達とハンニバルは、危険宙域で巨大アメーバの治療に赴いていた。

 正体不明のウイルスに、アメーバたちがやられていたのだった。



「……ア・アリガトウゴザイマス!」


 巨大アメーバの部族長に、カタコトで感謝される私達。

 通訳は、アンドロイドの副官殿であった。



「どうして、アメーバと話せるの?」


 私は素朴な疑問を、副官殿に浴びせる。



「愛があるからですわ! ほら、私は提督とだって話せるでしょ?」


 なんだか嬉しいけど、少し巨大アメーバに嫉妬するぞ!



 ……そんな楽しい会話をしていると、



「クリームヒルト大佐、外線二番へ連絡です!」


 ……それは、バイオロイドの部族長からの超高速通信だった。



 この通信は結果的に、更なる宙域へとハンニバルを誘うことになったのであった。


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