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ラノベ


 友達同士で学校帰りに遊びに行く――なんて、考えられない僕はラノベを愛するがゆえに、『そういうシーン』は幻の世界の中にだけ存在していると思っている。


 今日も足繁く通う書店に立ち寄り、新たな『世界』を見つけるため、ずらりと並ぶ本棚をゆっくりと眺めながら歩いていた。


「あれ? 正木じゃん」

「え? あ……坂下さん……」

 掛けられた声に驚き振り向くと、クラスの中でも『陽キャ』なグループの一人で、短めの茶髪にクリっとした大きな瞳が僕を見つめていた。


「え? なになに? 正木もこういう本読むの?」

「あ……」

 本棚を興味深そうに見ながら、僕に質問してくる。

 こういう時の返事は気を付けないと、今後の『僕の位置』が決まってしまう。


「あ、いや、その……」

 どのように答えようか迷って、曖昧な返事になってしまった。


 すると坂下さんはスッと山積みされた中から一冊の本を手に取った。


「はいこれ」

「え?」

 坂下さんがその手に持つ僕に本を向ける。


「私のお勧めだよ」

「え? さ、坂下さん……の?」

「そうよ? わるい?」

「え、いや、そういうわけじゃ……」

「いいでしょ? 似合わないのは分かってるけど……好きなんだもん」


 そう言ってフイッと顔を背ける坂下さんの顔は少しだけ頬を膨らませ赤く染まっていた。


――か、かわいい……。


 幻の中の世界。そう思っていたのに今、その世界のなかで起きるような事が、僕にも起きようとしている。


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