「いいなぁ……」
「何が?」
僕はちょっと離れて座る、他校の恋人同士と思わしき生徒をアゴだけで「あれ」とさしてみせる。
その二人はちょうど周囲から隠れるようにして、男子生徒が女子生徒の前へと顔を寄せている最中だった。
「あれって……」
「キス……してるんじゃない?」
「だよなぁ……」
大きなため息をついた僕を、ちょっと上目遣いに覗き込んでくる
希は僕が高校2年生になってから初めてクラスメイトになった女子生徒。
偶然にも名字の読みが近い関係で席が近く、おなじ班になってからの仲だ。
今は席替えで離れてしまってはいるが、時折何人かと一緒に帰ったりしている
「したこと無いの?」
「残念ながらな。そういう希はどうなんだよ」
「私? 私もまだ……だけどさ……」
「そういうのはさ、何時したかじゃなくて……『誰と』したかじゃない?」
人差し指を少しだけぷっくりとした唇に添えて、僕に向かいちょっと照れながら微笑む希。
「活樹もそう思わない?」
僕はいつの間にか、見ていたはずの男女の事など忘れ、希から目が離せなくなっていた。
「私なら、好きな人としたいかな。やっぱり」
「……そうだな」
ーー希の言う『好きな人』という人に、僕はなれるのだろうか?
「ん?」
「い、いや。なんでもないよ」
「なーんだ……」
無言になった僕を不思議そうに見つめる希。そして僕からの返事にちょっとだけ残念そうに答える。
ーーこれって、『期待』してもいいのかな?
ファーストキスは『レモン味』と聞くけど、僕は『誰と』体験するのだろう。