さすがに幼女と戦うのは気が引ける。当たり前の話以前に、それをやったら人として終わってないか?
——なんとかこの子を“かわして”から、グレムリンへの直接攻撃に切り替えなければ。
「お嬢ちゃん、やめな……てくれるとお姉ちゃん嬉しいな」
我ながら気のきかない、説得力もなにもないひと言だ。
〔お姉ちゃん……?〕
「こらそこ、こんな時に疑問
子供を見るのは好きだけど、まともに接した事なんてなかった。だから扱いがわからない、なんて声をかければよいかすらも頭を悩ませてしまう。
……幼女相手にドギマギするって、我ながらなさけない。
「亜紀……殿」
「
ウチは、グレムリンと猫耳幼女を視界に捉えたまま、耳だけを傾けた。
なんとか話はできるみたいだけど、声をだすだけでも辛そうだ。魔法なのか薬なのかはわからないけど、身体の自由が奪われているのだろう。
戦列に加わってくれればと期待してたけど、これは無理そうだな。
「その、子供に注意を……う、動きを読まれる」
「——動きを読まれるだって?」
漫画で読んだ記憶がある。視線や筋肉の動きから、次の攻撃を予測して対応するって話だ。
……こんな猫耳幼女が“それ”をやるのか?
いや、疑問に思う必要はない。実際に捉えられたドライアドがそう言っているんだ、嘘も誇張もない言葉だと信用できる。
「さっさと終わらせるっペよ~」
いつの間にかグレムリンは、暇そうに肘をついて横になっていた。まったくの無警戒だ。今なら苦労なく倒せそうにも見えるけど……
「仕掛けるのはむしろ危険だよな」
〔そうですね。まだなにか罠があるのか、もしくはそこの幼女に絶対の信頼を置いているのか〕
「ウチは後者だと思う」
〔あら、今回は気が合いますね。私もです〕
「なら、やる事は一つだな」
気が進まないとか言っている場合じゃない。さっさと無力化してルカを救いださねば。
「あー!!」
意を決したウチは、猫耳幼女の頭上を指さして叫んだ!
「ああ~! 空飛ぶプニキュアが!!」
「……」
……あれ、反応がない。
〔アホですかあなたは?〕
「プニキュアって、古かったか? いや、しかし
♢
アンジーと
『ええ?
『はあ? なんだよそれ。産まれてないっての』
『八白さん、さすがに古すぎるわ。おジャ魔女ドミソでしょ?』
『ちっ、どうしようもねぇな、古いヤツらは。脳みそカビ生えてんだろ』
『ああ? もっぺん言ってみろよ、クソガキ』
……容赦なく殺気を放出するドラゲロアンジー。
『こらこらアンジー、殺気はしまえって』
『今はプニキュアだろ、お・ば・さ・ん』
『てめ、表にでろ!』
『君らホンマにもう……って、こらこら武器しまえってば……』
♢
……なんてことがあった。だからとりあえずプニキュアと言っておけばいいかと思ったんだけど。
「すでに時代は次のステージに行ったのか。
〔それ以前の問題だと思います……。はぁ……〕
だが、猫耳幼女は反応した。
たまたまなのかもしれないけど、プニキュアを知っていたらしい。ウチの指さす方をゆっくりと見上げた。
――今だ!
上を向けば足元が見えなくなるのは道理、ウチはそこを狙い足払いを仕掛けた。我ながら卑怯で姑息な手だ。
だがな、今は勝てばよかろうなのだ!!
このまま転ばせてから一気にグレムリンに攻撃を仕掛ける。……はずだった。
「え……なんで」
猫耳幼女は空を見上げたまま、縄跳びでも飛ぶように軽くジャンプして足払いをかわした。
相手を見ないで動きを読めるものなのか?
ウチは間髪入れずに、空振りした蹴り足をそのまま折り返してもう一度足払いを仕掛けた。
今度も
——しかし。
「フン、アホじゃな。無駄だっペよ」
グレムリンの悪態じみた呟きが聞こえてくる。悔しいが実際はその通りで、猫耳幼女は二度目の足払いも難なくかわしていた。
「この子、いったいなにをやったんだ?」
〔完全に読まれていましたね〕
「いや、これは“読まれた”とかのレベルじゃないぞ。もっとこう、なんというか……」
言葉がでてこないウチを見ての事なのだろうか。グレムリンは、毛むくじゃらの下にあるドヤ顔でウチらを見渡しながら、自慢げに口を開いた。
「それが、覚醒の力だっペな」
……また訳のわからん話がでて来やがったな。