「ルカちゃん、
「わかったっス」
腰を低く落とし、正拳突きの構えを取るルカ。
たった今放ったレックス・カラミティの影響なのだろうか、髪の毛がいつもの亜麻色から白に近い透明な黄色になっていた。
長い髪がキラキラと太陽に反射してめちゃくちゃ綺麗だ。
と、
でも……子供殴る訳に行かないし、どうしようか。と思っていたら、心を見透かしたように女神さんが語りかけて来た。
〔八白亜紀、対策はあるのですか?〕
「いや、ない。ある訳ない……。予測なら嘘の情報で騙すことができるかもだけど、予知なんてどうにもならんやろ」
だからと言ってなにもしない訳にはいかないし……とりあえずは色々やってみないとだ。なんでもいい、予知が追い付かないくらい手数を増やして……
「いや、予知の裏をかく行動をするんや。意外性で勝負するんや!」
〔例えばどんなことですか?〕
「……」
〔……〕
「お、お嬢ちゃん……ジュース飲む?」
〔アホですかあなたは!〕
いつになくツッコミ早えぇ~。
でも、絞りだしたこの一言は当たりだったかもしれない。魔王軍とは言えやはり子供、“ジュース”に興味を示していように見えた。
ウチは鞄にゴソゴソと手を突っ込み“ベルノ
「ほら、桃ジュースだぞ~。お嬢ちゃんどうぞ!」
……いろんな意味で絞りたてだぞっ、と。
〔大丈夫ですか? これも読まれていていきなり攻撃をされたりとか……〕
女神さんの心配をよそに、黙って受け取る黒ローブの猫耳幼女。左手に持つカップをまじまじと見つめる。
「ああ、毒なんて入ってないから安心して……」
ウチの言葉が終わるよりも前に、猫耳幼女はスッと右手を差しだしてきた。なにかを要求している感じだ。
「え、なんぞ……?」
フードのせいで表情はわからないけど、口元だけは見える。なにか言っているみたいだが、まったく声が聞こえてこない。桃ジュース、カップ、他に必要なのは……
「もしかして……」
〔どうしました?〕
「女神さん“ストロー”だしてくれ」
〔仕方ありませんわね、特別ですよ。環境に配慮して紙ストローをカバンからだせるようにします〕
……ストローを特別と言われてもな。
ウチは『はい、どうぞ』と、できうる限り最上級の笑顔でストローを手渡した。猫耳幼女は右手で受け取ると、左手のカップと交互に見て……
……捨てた。
よほど気に入らなかったのだろう。“紙”ストローは、サクッと音を立てて砂浜に刺さっていた。
マジか、いきなり捨てるとか情操教育はどうなっとんじゃ。
「おい女神、駄目じゃねぇか。なにが紙ストローだよ。なにが環境にイイだよ。ったく、SDGsなんてクソ喰らえや」
〔でも、あのままにしておいても自然に還ります。環境にやさしいのですよ?〕
「それはそうだろうけどさ……『世紀の大発見です! 白亜紀の地層からプラスチックストローの化石がでてきました!』とか面白そうじゃん」
〔『面白そう』で地球を汚さないでくださいな〕
……ごめんやで。
猫耳幼女は懲りずに手を出している。
う~ん、これはいったいなにを求めているのだろうか。ジュースを飲むためのなにかが必要ってところまではわかるんだけど。
「あ、そうか。わかったかもしれん」
多分これだ。またもや女神さんから“特別”にだしてもらったカップの蓋を猫耳幼女に手渡してみた。
コーヒーショップやコンビニにある、蓋と飲み口が一体化したアレだ。
そして、どうやらこれが正解らしい。おぼつかない手でカップにはめ込もうとしているが上手くいかない。
「ちょっと貸してごらん」
蓋をはめ込み猫耳幼女にカップを戻してあげると、嬉しそうに……“多分”嬉しそうにジュースを飲み始めた。
ゴクゴクと一心不乱に飲む姿を見ていたら、なんだかベルノを思いだしてしまった。
正直言うと、最初は飲み始めたところでもう一回足払いを試してみるつもりだった。
——だけどだめだ、この子はウチと同じ元現代人に違いない。
なにかの理由があって魔王軍にいるけど、こんな小さい子を戦いの場に引っ張りだしてくるなんて……グレムリンの野郎、マジで最悪だ。
「作戦切り替えるよ。この子は保護する!」