「その予知能力ってのにはなにか制限がありそうだね」
「やっぱりアンジーもそう思う?」
拠点“しっぽの家”に戻ってすぐ、アンジーと
今回の件、情報共有と考察が必須だと思ったからだ。
もちろん猫耳幼女の正体は言えるわけがなく……アンジーには申し訳ないが、伏せたままにしておかなければならない。
「でもさ、その”正体不明の黒ローブ”ってのが、まったく見当がつかないんだよね」
――ドキッ。
「私が魔王軍と戦った頃は、予知なんてチート能力を持ったヤツはいなかったよ」
心臓に悪いわ~。目を合わせたらなにか悟られそうな気がして、思わず初代新生の方に視線を移してしまった。
「予知できる時間幅に限界があるのか、それとも範囲かもしくは……。八白さんはどう考える?」
「か、回数とか? 一度に予知できる事象の」
「つーかよ、どっちにしろ戦うんだろ。気にしても意味ねぇじゃん」
話が進まないことを面倒臭く思ったのだろう、初代新生がイライラした声で口を挟んだ。確かにここでの話は予測でしかないし、無駄な事なのかもしれない。
でもリスクをいくつも想定してその対処を考えておくというは、今回に限らずどこかで役に立つ場合も多い。
……なんて、社会人経験のないJKに言ってもピンとこないだろうけど。
「なにも考えないで戦おうとするからお前は成長しないんだよ」
「あ? なんか言ったか、おばさん」
「おい、ちと外でろ。クソガキ!」
「はいはい、君ら止めや~。ったく、顏合わせるとこれだもんな」
アンジーの言ってる事は正しいけど、言葉がちょっと足りないと思う。
「消し炭にしてやるよ。ビビッて逃げんじゃねえぞ!」
「不意打ちしかできねえくせに偉ぶるんじゃねぇよ、おばさん」
エクスカリバーを取りだし、肩に乗せて余裕を見せるアンジー。初代新生は剣鉈を抜き、左下段に構える。
「ねおりん、ケンカはダメだって言ったでしょ~。もおお……」
必死で止めに入るミキの言葉もむなしく、睨み合うアンジーと初代新生。一触即発の状況だ。
だが……
「あ、リコりん、よろしく~!」
「はいなっ!」
黄色のカートリッジを装填と同時に、二人の足元に撃ち放つリコりん。
“目にも止まらぬ”とはまさしくこの事だ。
そしてこれは、魔法耐性のある彼女たちにもかまわず効果を発揮する
あのドラゲロアンジーをも封じるこの力、やはりこの
二人はビリビリと麻痺したまま、口が回らずに唸り合っていた。
「君らは狂犬か……。ま、とりあえず耳は聞こえると思うからそのまま聞いといてくれ」
ウチはポンポンッと二人の頭を軽く叩き、話を続けた。
「共有しなければならないことは三つ。ひとつ目、謎の黒ローブの能力はさっき話した通り。そして二つ目なんだけど、ケルピーってヤツが結構厄介でさ、スピードがメチャクチャ速くて目で追い切れないんだ」
「ホント、あれは半端なかったっスよ。キティと同等かそれ以上っスね」
ルカもあの速さを目の当たりにして、色々と考えるところがあったのだろう。キティを比較対象にだした一言が最も皆に伝わりやすく、そして的をえていた。
「なんか燃えるだすな(キリッ!)」
……そして闘志を燃やすキティ。
他に対策として考えられるのは、ドライアドが解放ってのをすればケルピーに対抗できるという事。そもそもが同等の強さって言われている位だし。
ただ、それを無理強いする事はできない。捕虜になってでも解放しなかったのは……多分魔王軍に戻れないと言いながらも、異世界に帰ること自体は諦めていないのだろうから。
もしかしたら家族がいるのかもしれないし、ハーピーやセイレーンの処遇を考えての選択という場合もある。
「三つ目は魔王軍の人数が合わないってことなんだけど……」
白亜紀に来ている魔王軍は十二人だと、メデュ―サもドライアドも聞かされていたらしい。
威力偵察のミノタウロスにリザードマン、死神。
先遣隊のドライアド、セ―レーン、ハーピー、インプ。
第一陣を率いて来たメデューサとウェアウルフ、グリムロック、グレムリンにバルログ。
そしてケルピーと猫耳幼女。
……どう計算しても十四人だ。ラミアは家出みたいなものだからカウントしてないけど、もし含めるのなら余計に訳わからなくなってくる。
「どうやらグレムリンは、我ら仲間をも騙していたのでござろうな。誰かが捕まって情報が漏れてもよいように……」
「相変わらず
ドライアドもハーピーも呆れていた。
“敵を騙すにはまず味方から”って言葉があるけど、それは信頼関係が成り立っている上での作戦だ。
「グレムリンみたいに味方を利用するだけのヤツが使うと、単にコミュニティの絆を壊すだけやろ」
「姐さん、深いっス!」
キラキラとした目をしながら、両手でサムズアップするルカ。
「そういう会社にいたからねぇ……はあ、真っ黒な社会人経験がこんなところで役に立つとは」
〔
「まったくやで。あそこまで酷いのは滅多に……あれ……」
〔どうかしましたか? 八白亜紀〕
「いや、なんでもない。……と思う」
……なんで女神さん、ウチの職場を知ってんだろ?