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おくりもの②

PM 11:54

リビングで椅子に座り、本を読むシゲミ。山之辺やまのべはドアモニターを起動する。外に誰もいないことを確認するとモニターを停止し、シゲミの前の席に座った。いつ男が来るのかわからず、そわそわしている様子。そんな山之辺を気遣うように、シゲミが口を開く。



シゲミ「小包運こづつみはこび男は、いつも0時ちょうどに来るんですか?」


山之辺「いいえ、多少前後するみたいです。昨日はたしか……0時10分ごろだったような」


シゲミ「ならモニターは10分おきくらいに確認すれば良いですよ。ゆっくり待ちましょう」



AM 0:05

山之辺が再びドアモニターを起動する。画面にメガネをかけ、黒いニット帽を被った細身の男の顔が映った。男は黙ったままカメラを見つめている。



山之辺「来た!シゲミさん!」



シゲミは椅子から立ち上がり、ジャッカルのようなスピードで玄関へと走る。そして素早く解錠し、扉を開けた。


誰もいない。足音も聞こえない。山之辺の言うとおり、男は煙のように消えていた。足下に小さい段ボール箱だけを残して。


シゲミは段ボール箱を拾い上げると、玄関の扉を閉めて鍵をかけ、リビングに戻る。



山之辺「いなかったでしょう?やっぱり幽霊なんですよ」


シゲミ「モニターにはどう映ってましたか?男が消えるときの様子は?」


山之辺「一瞬でいなくなりました。まばたきをしたら、もうどこにも……」


シゲミ「だとしたら幽霊の可能性が高いか……しかし接触しようにも、扉を開けるとすぐに消えてしまう……」


山之辺「どうしましょう?」


シゲミ「……考えがあります」



−−−−−−−−−−



翌日 AM 0:11

男は山之辺の玄関扉の前に、小包を持って現れた。扉のすぐ目の前、足下に30cmほどのテディベアが置かれているのに気づく。テディベアの腹部には、文章が書かれた紙が貼られていた。男はしゃがんで、文章を読む。



“いつもありがとうございます。お礼です。私だと思って受け取ってください”



男はテディベアを右手で持って立ち上がる。その瞬間、ピンッという小さな金属音が響き、男の手の中でテディベアが爆発した。


爆発音を聞きつけたシゲミと山之辺が玄関を開けて部屋の中から出てくる。



シゲミ「掛かったわね。ぬいぐるみに手榴弾を仕込んだブービートラップ。こうでもしないと、アナタは駆除できないでしょ?」


山之辺「やった……」



体から煙をを上げ、廊下に倒れる男。右腕と頭の右半分が消失している。シゲミの経験上、これほど大きな傷を負った幽霊は体が霧散し始め数秒以内に成仏する。だが、男の体はいつまで待っても消えることなく、その場に留まり続けた。


異様に感じ、男の傍らにしゃがみ込むシゲミ。そして倒れた男の体に触れた。実体がある。幽霊ではない。


山之辺がゆっくりとシゲミに近づき、背後に立った。



シゲミ「先生、この人、幽霊じゃありませんよ。生きた人間です。いやと言うべきですが」


山之辺「……ええ、そうですよね」


シゲミ「昨日モニターで男を見たとき、一瞬にして消えたって言ってましたよね?だから幽霊だと確信したと」


山之辺「ウソです。廊下からマンションの外に飛び降りて行くのが見えました。ここ2階ですから、飛び降りれなくもありません」


シゲミ「なぜウソを吐いたんです?」


山之辺「シゲミさんに幽霊の仕業だと思い込んでもらうためです。どうしてもコイツを殺したかった。確実に」


シゲミ「……この人と面識は?」


山之辺「あります。元カレです。別れてからずっとストーキングされてました。指輪を持って来たのはプロポーズのつもりだったんでしょうね。私は結婚する気なんて、付き合ってたときから微塵もなかったのに」


シゲミ「……悪事を働いていたとしても、人間なら殺したくなかった」


山之辺「シゲミさんが罪悪感にさいなまれる必要はありません。コイツは人間ではなく幽霊ですから。私の世界にはもう存在していない、そのくせ人に執念深く付きまとう幽霊。シゲミさんはいつも通りに仕事をした。それだけです」



<おくりもの-完->

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