PM 2:31
怪異研究機関「
黒い革張りのソファに座る支部長・
歯砂間「来てくれてありがとう。シゲミさんの妹さんだと聞いているよ。えっと名前は……」
ロングヘアの少女・サシミが口を開く。
サシミ「私が妹のサシミです。髪が短いほうが姉のキリミ」
ショートボブの少女・キリミが右手を挙げ、「よろしく〜」と気怠げにあいさつをする。
歯砂間「2人は小学生?」
サシミ「はい。
歯砂間「それでいて、怪異専門の殺し屋?」
サシミ「そうです」
歯砂間「いやはや、キミたち一家には驚かされる」
左手を唇に添えて考え込む歯砂間。シゲミの妹であり、怪異専門の殺し屋と自称する目の前の少女たち。本来ならシゲミに依頼をしようと考えていた案件を、まだ幼い彼女たちが遂行できるのか疑問を感じている。
黙る歯砂間をキリミが言葉で牽制する。
キリミ「シゲミ
歯砂間「いやそんなことはないけど」
キリミ「アタシらを甘く見るなよ。なんなら実力見せようか?今この場でアンタを殺すのに1秒もかからない」
サシミ「お姉ちゃん!失礼なこと言わないで!」
歯砂間「……たしかにキミたちの実力は知りたい。というのも今回の依頼はかなり難易度の高い仕事になりそうでね。命の危険もある。キミたちがシゲミさんに匹敵する戦闘能力を持っていないと達成は不可能だと考えているんだ」
キリミ「近接戦闘なら、シゲミ姉よりアタシらのほうが上だぜ?」
歯砂間「なるほど。ではテストをさせてくれるかな?その結果でキミたちに依頼をするかどうか決めたい」
キリミとサシミは顔を見合わせた後、歯砂間に向かってうなずく。
歯砂間「ここは支部で設備が不十分だから、場所を移そう。『魎』の本部に案内するよ」
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市目鯖支部のビルの外に出た歯砂間、キリミ、サシミ。ビルの隣の駐車場に停めてあった赤い乗用車に乗り込む。運転席に歯砂間が、後部座席にキリミとサシミが座る。
歯砂間は助手席に置いていたアイマスクとヘッドホンを1つずつ、キリミとサシミに渡した。
歯砂間「本部の場所は『魎』の職員以外に明かせないの。だから到着するまでそれをつけていてもらえるかな?私がキミたちの体に触れるまで絶対に外さないでね。外したら今回の話が全部白紙になっちゃうから」
キリミとサシミは、指示通りアイマスクとヘッドフォンを装着する。歯砂間が車を発進させた。
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30分後
とあるビルの地下駐車場に車を停める歯砂間。後部座席のキリミとサシミの膝に触れる。キリミとサシミは、アイマスクとヘッドフォンを外した。
車から降り、歯砂間の案内で駐車場の一角にあるエレベーターに乗る。歯砂間は「B9」のボタンを押した。エレベーターが下の階に向かって動き出す。
サシミ「B9ってことは地下9階ですよね?」
歯砂間「そう。本部は地上に25階層、地下に10階層あってね。市目鯖支部のおんぼろビルとは比べものにならないくらい大きいし、設備も人材も充実しているの。といっても、まだまだ発展途上だけどね」
キリミ「最初に支部のビルを見たときはショボい団体なんだと思ったけど、舐めてた。こんなデカい建物を持ってるとは。相当な金持ちがアンタらのバックについてるんだろ?」
歯砂間「それは秘密」
エレベーターが地下9階に到着。降りた3人は細い廊下を歩く。
歯砂間「ここは『魎』が保有する私設特殊部隊の射撃訓練場。この廊下の先で部隊員たちが訓練の真っ最中。まだ見ぬ怪異と戦うためにね」
サシミ「射撃訓練場……ということは、私たちがやるテストって実弾射撃ですか?」
歯砂間「いいえ。ここに来たのはテストの相手に声をかけるため。キミたちには『魎』の特殊部隊員と模擬戦闘をやってもらう。キミたちが勝ったら今回の件を正式に依頼するよ」