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双子と猛獣②

金属製の重い扉を開け、射撃訓練場に入る歯砂間はざま、キリミ、サシミ。20mほど離れた的に向かって自動小銃を構える、黒い戦闘服に身を包んだ男性隊員が数十人。隊員たちの背後で、同じく黒い戦闘服を着てヘルメットを被った中年男性がげき」を飛ばしている。


キリミとサシミを連れた歯砂間は、中年男性に声をかけた。男性は隊員たちに「撃ち方やめぇ!」と大声で指示を出し、歯砂間に敬礼する。



男性「これは歯砂間支部長殿!訓練場にいらっしゃるなんて珍しいですなぁ!」


歯砂間「号田ごうださんにお願いがあって来ました。彼女たちと模擬戦闘をしてもらいたいんです」



号田と呼ばれた男性は、歯砂間の後ろにいる瓜二つの少女に目をやる。



号田「はっはっはっはっ!ご冗談を!幼女の相手は我々の任務外ですなぁ!まぁ、この子らが座敷童ざしきわらしなら話は別ですが!」


歯砂間「冗談ではありませんよ。彼女たちは爆弾魔・シゲミの妹で、プロの殺し屋です」



号田の顔から笑顔が消える。



号田「ほう、あのシゲミの……お嬢さんたち、名前を伺っても?」


サシミ「サシミです」


キリミ「キリミ。アタシら名乗ったんだから、おっさんも名乗れよな」


号田「特殊部隊『百鬼ひゃっき』総隊長兼第1小隊長、号田という」


キリミ「あー……小学生にも分かるように自己紹介してくれるかな?」


歯砂間「『りょう』は大きく3つの部門に分かれていてね。現地で怪異を調査する部門。怪異を捕獲・駆除する部門。捕獲した怪異を研究する部門。『百鬼』は特殊部隊の名称で、怪異を捕獲・駆除する部門にあたる」


キリミ「ふーん」


歯砂間「『百鬼』は第1から第14小隊、計84人の隊員で構成されていて、号田さんは『百鬼』全体の指揮官と第1小隊のリーダーを務めている」


サシミ「特殊部隊の偉い人ってことですね」


歯砂間「そんな認識でオッケー。キリミさんとサシミさんには、こちらの号田さん率いる第1小隊と模擬戦闘を行ってもらいたい」


キリミ「いいぜー」


サシミ「了解しました」


号田「本当に良いのですか?」


歯砂間「ええ。2人の了承は得ましたし、あくまで模擬戦闘。号田さんたちには実弾ではなくペイント弾を使ってもらいますから」


号田「……承知ました。しかしやるからには全力で臨ませてもらいますよ!」


キリミ「ガキ相手だからって容赦すんなよな。手を抜くとそっちが死ぬぜ」


号田「威勢が良い!やり甲斐がある!」


歯砂間「キリミさんとサシミさんは自由に武器を使って良いよ」


キリミ「いや、素手でやる」


歯砂間「えっ?」


サシミ「私たちの武器は対怪異用に作った刃物です。刃の部分は、この世ならざる者をはらうう清めの塩を圧縮して作られています。ですが硬度は本物の刃物と変わらないので、怪異だけでなく人間に対しても高い殺傷能力を発揮してしまうんです」


歯砂間「そう……お互いに死者がでないなら何でも構わない。各自準備をして、20分後に地下10階の演習場に来てください」



−−−−−−−−−−



「魎」本部地下10階 演習場

広い空間に遮蔽物となる太い柱がいくつも並ぶ。室内は薄暗く、怪異が現れやすい夜間や暗所での戦闘を想定した作りになっている。


自動小銃を構え縦一列にならびながら、号田を先頭に柱の間を進む第1小隊の6人。全員ヘルメットに防弾チョッキを装着し、ハンドガンなどのサブウェポンも身に付けた実践と変わらない完全武装。


号田が背後の隊員たちにハンドサインを送る。サインを見た後列の隊員3人が歩く方向を変え、二手に分かれた。


キリミとサシミはどこかで息を潜めている。慎重に1歩ずつ歩みを進める号田。直後、遠くから男性の悲鳴がこだました。二手に分かれた別働隊のもの。キリミかサシミにやられた可能性が高い。一層警戒心を強める。


号田の後ろに続いていた隊員2人が「うっ」という声を上げて倒れた。号田は振り向きざまに自動小銃を連射する。しかし倒れた隊員以外に誰もいない。


号田の右肩がトントンと叩かれた。振り返ると、そこにはキリミが立っていた。キリミは号田に銃を構える隙を与えず、みぞおちに拳を打ち込む。



キリミ「アンタで最後だ、おっさん」



号田は白目を剥いて倒れ、気を失った。演習場の照明が点灯し、室内全体が明るくなる。キリミのところに、号田たちから分かれた別働隊を片付けたサシミがやって来た。天井の四隅に設置されたスピーカーから歯砂間の声が響く。



歯砂間「模擬戦闘終了で〜す。勝者はキリミさん&サシミさん。『百鬼』で最強の第1小隊をものの数分で制圧しちゃうとは、恐れ入ったよ。2人に正式に依頼をしたい」

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