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呪いの仮面②

仮面を被った男子生徒は女子生徒を人質に取り、何かをわめいている。男性教師5人が刺股さすまたを構えて男子生徒を囲んで説得を試みているが、状況は何も変わらない。教師たちにとってただでさえ不慣れな状況で、人質まで取られているのではうかつには近寄れない。


美術室の窓を開け、グラウンドで行われている男子生徒と教師の会話に耳を澄ませる心霊同好会の4人。男子生徒の声は言葉になっておらず、興奮した犬の鳴き声のようだった。



カズヒロ「完全にトチ狂ってんじゃんかよアイツー!」


トシキ「シゲミちゃん、何とかならない!?」


シゲミ「私の専門外だけど、手榴弾で吹き飛ばして終わりね」


サエ「でも人質になってる子がいるよ〜!」


シゲミ「なら母から持たされた閃光手榴弾を使う。光であの男子生徒の視界を奪えば、その隙に人質を救い出せる」



ふとレンヤが呟く。



レンヤ「いや、それはできないあれ……あの仮面は僕が作った……デスマスクだ……目の部分に穴は空いていない……」


カズヒロ「デスマスク……やっぱり本物だったのか?」


レンヤ「……ええ。先月死んだ叔父の遺体の顔をかたどって作りました。こんなチャンスめったにないと思って」


サエ「倫理観どうなってんのよ〜」


レンヤ「あの包丁を持ってる生徒……たぶん3年B組のサトルって人だと思います。なぜか僕が作った仮面をデスマスクだって確信してて、譲ってほしいと何度も言ってきました……呪物を集めているそうで」


トシキ「呪物!?」


シゲミ「……ここからだと遠いけど、あの仮面をつけた人からイヤな気配を感じる。人間では放てない、悪霊だけが放てる気配……邪気」


レンヤ「叔父は生前、兄姉とケンカが絶えなくて……みんな優秀な大学に進学して大手企業に就職した中、その叔父だけは中卒で無職。学歴も収入も下だと馬鹿にされていたらしいんです。家族内の格差に、叔父はずっと不満を言っていました。彼は自殺したのですが、遺書にも家族への恨みしか書いてなくて……」


シゲミ「その叔父さんの遺体を使って仮面を作ったから、叔父さんの意思が仮面に宿ってしまった。そしてあの仮面をつけたサトルさんは、一種の憑依状態に陥っている。叔父さんに意識を乗っ取られてしまっていると考えられるわね」


トシキ「仮面の目の部分に穴が空いてないのにサトルって人が動けているのも、操られているからか」


カズヒロ「つーか、前も美術部の子が幽霊を具現化しちまう絵を描いてたよなー?なんでウチの美術部員はいわくつきのものばっか作ってんだよー?」


シゲミ「美術品は作者が心血を注いで作る分、意識がこもりやすくて呪物にもなりやすいの。そもそも呪いに使うために作られる美術品も多いし」


レンヤ「こんなことになるなんて思わなかった……僕はなんと愚かなことをしてしまったんだ……」



グラウンドにはパトカーと救急車も多数駆けつけた。救急隊員が担架を抱えて校舎の中へ入る。そして十数人の警察官がサトルへ拳銃を向け、投降するよう呼びかけた。追い込まれたサトルだが、相変わらず叫び続け女子生徒を解放しようとしない。



サエ「まさか、射殺しないよね……?」


カズヒロ「人質がいるから撃てねぇだろうけど、警察次第だなー」


サエ「もしかしたら人質の子を切り捨てて撃ち殺しちゃう可能性もある……?」


カズヒロ「……」



シゲミが空いた窓の淵に右足をかける。



カズヒロ「ど、どうする気だよシゲミー?」


シゲミ「仮面を破壊すればサトルさんは元に戻ると思う。確証はないけど。レンヤさん、あの仮面ぶっ壊すけど、いいわよね?」


レンヤ「……も、もちろん。でもできるんですか?」


シゲミ「ひらけたグラウンドで大勢に囲まれたサトルさんの警戒心はかなり高まっているはず。あの状態で近寄るのはほぼ不可能。仮に近寄れたとしても、刃物を持った相手を素手で制圧するのも厳しい。私、接近戦苦手だし」


トシキ「じゃあどうするの?」


シゲミ「……トシキくん、協力してくれるかしら?」



−−−−−−−−−−−



教師と警察官に囲まれ、じりじりと後退するサトル。だが攻撃性は失っておらず、声で威嚇し続ける。



サトル「霑大ッ�k縺ェ繧ウ繧、繝�b縺雁燕繧峨b谿コ縺吶◇」



言葉にならない叫びがグラウンド中にこだまする。サトルに襟首を掴まれた女性生徒は「助けて」と涙を流しながらつぶやき続ける。


若い男性警察官が拳銃を腰のホルスターに戻し、両手を挙げながらサトルへ数歩近寄った。



警察官「要求が何かわからないが、その子を離しなさい。僕が代わりに人質になろう。無関係な子を巻き込むんじゃない」


サトル「縺雁燕縺ォ縺ェ縺ゥ莠コ雉ェ縺ョ萓。蛟、縺ッ縺ェ縺��蜩。遲峨@縺乗ョコ縺�」


警察官「いい加減にしろ。これ以上続けるなら僕たちに射殺命令が下ってしまう」



サトルと警察官の口論を遮るように、ドラ●もんのお面を被ったブリーフ一丁の男が現れ、両手をくねらせるダンスのような動きをしながら群衆をかき分けて近づいて来た。



警察官「何だキミは!?」


ドラ●もんの面の男「へっへっへっ〜、仮面をつけたヤツが暴れてると聞いてねぇ〜、仲間かと思って見に来たんだよぉ〜」


サトル「菴輔□縺雁燕縺ッ霑代▼縺上→谿コ縺吶◇」


ドラ●もんの面の男「そう興奮するなってぇ〜、僕は仲間だぁ〜。お前の言いたいことは分かるがよぉ〜、包丁持っていきり立たれちゃビビって話もできやしねぇ」


警察官「言ってることが理解できるのか?……仮面仲間だから?」


ドラ●もんの面の男「お前のデスマスクもなかなか上等なモノだけどよぉ〜、僕の面のほうが高級だぜぇ〜!欲しいかぁ〜?」


サトル「豌励↓縺ェ繧九↑蟆代@隕九○縺ヲ縺上l縺ェ縺�°」


ドラ●もんの面の男「欲しけりゃ、人質の子と交換だぁ〜。僕はお面より、女の子のほうが大好きでねぇ〜」



サトルは女子生徒の襟首から手を離した。その瞬間、女子生徒は警察官のほうへ走る。



ドラ●もんの面の男「今だよ、シゲミちゃん」



教師や警察官たちの肩を飛び移りながらシゲミがサトルへ近づき、空中回し蹴りを頭に見舞う。シゲミの蹴りの衝撃で、デスマスクが縦に真っ二つになった。


警察官が一斉にサトルへ駆け寄る。サトル、ドラ●もんの面の男、シゲミは警察官によって地面に倒され、押さえつけられた。



ドラ●もんの面の男「いや……あの……僕たち」


シゲミ「犯人確保に協力したんだけど」



−−−−−−−−−−



シゲミとドラ●もんの面の男は解放され、サトルだけがパトカーで連行された。



シゲミ「トシキくん、囮になってくれてありがとう」


ドラ●もんの面の男「シゲミちゃんを信頼してるからできたんだよ。でも僕、これから学校で変態って呼ばれないかな?」


シゲミ「大丈夫。お面つけてたから誰だかバレてない」



ドラ●もんの面を外すトシキ。



トシキ「注目されないのもイヤだから、顔出ししちゃおう。命を賭けたのに英雄扱いされないのは不服だ」



シゲミとトシキの背後で、中年の男性警察官が割れたデスマスクを拾い上げる。そして辺りを見回すと、デスマスクを黒いビニール袋に入れ、小脇に抱えて校舎の敷地外へと歩いて出て行った。


市目鯖しめさば高校からおよそ100m離れた路上で、警察官はズボンの右ポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかける。



警察官「歯砂間はざまさん、例のデスマスクを回収。すぐに『りょう』本部へと移送します」


歯砂間「ご苦労」


警察官「破損していますが、問題ないでしょうか?」


歯砂間「元は学生が作ったものだ、復元は容易たやすい」



<呪いの仮面-完->

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