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神へのインタビュー

神へのインタビュー①

東京都島嶼とうしょ地域 喉具呂のどぐろ

上半身裸で白い腰布を巻いた少年が、島内唯一の町に足を踏み入れた。絵画から具現化した邪神・ポコポコ。民家が建ち並ぶ細い路地を歩く。



ポコポコ「都会はうるさくてしゃーないわ。こういう離島でスローライフ……最高やん」



民家の庭から顔だけを出し、ポコポコをじっと見つめる島民たち。ポコポコは歓迎されていないことを感じ取った。



ポコポコ「なんや辛気臭いのぉ。田舎特有の閉鎖社会っちゅうやつか?……いや、オレが上半身裸やから変態やと思われとるんか?きっとそうや!早く着るもの見つけんと」



黒い甚平を着て木製の杖をつく老爺が歩いてポコポコへと近寄ってきた。左右に白髪を残して前頭部から後頭部まではげ上がっている。



老爺「初めまして。私はこの港町の町長です。島外から来られた方ですかな?何やら異様な気配を放ってらっしゃる。ただ者ではありますまい」


ポコポコ「せやな。オレは神や。『邪』がつく神やけどな」


老爺「やはりそうでしたか。並々ならぬ存在感。せめてもの礼儀として、町長である私が出張った次第です。しかし島民たちはアナタが放つ気配に対し、酷い嫌悪感を抱いております。どうかお引き取りくださいませ」


ポコポコ「そうはいかん。オレはこの島でスローライフを送るんや。毎日昼過ぎまで寝て、目が覚めたら海の幸をたらふく食い、夜は友達と楽しくアルコールパーティ……どうや?最高やろ?島の陰鬱な雰囲気は後でオレがぶち壊すとして……まずは友達を作らなアカンな。じいさん、オレの友達になってくれるか?」


老爺「お断りいたします。アナタと私とでは相容れませぬ。会話しているだけでわかる。私は蛇ににらまれたかえるいな、獅子に狙われた芋虫。今にも喰われてしまいそうだ……」


ポコポコ「あっそ。自分の置かれてる状況をようわかっとるみたいやし、友達になれへんのなら遠慮なくいただきますわ」



ポコポコの頭が4倍ほどの大きさに膨れ上がり、老爺を頭から丸呑みにした。杖と甚平、履いていたサンダルだけを残して消えた老爺。ポコポコの頭が元の大きさに戻る。そして「ちょうどええやん!」と言い甚平を拾い上げると、腰布を取って身にまとった。「裸足で地べた歩くの痛いんよな」と、サンダルも履く。


目の前で繰り広げられた惨劇に、言葉を失う島民たち。



ポコポコ「服と履物が見つかった。サイズもぴったし。んじゃ、友達探しの続きやな。誰か、友達になってくれるヤツはおらへんか〜?」



島民たちが包丁や鎌、チェーンソーなど武器になりそうなものを持って民家からゾロゾロと出てきた。



ポコポコ「全員、オレとは絶交する気満々やと認識するわ。自分ら、ほんま陰キャやなぁ。ほんなら、オレのおやつになってもらうで」



−−−−−−−−−−



5日後

白い波を立てて海を走る一隻の小さな漁船。その船上、女性がへりから顔を出して、海に向かって嘔吐する。茶髪のポニーテールで白いブラウスとジーンズを着用し、右肩には黒いビジネスバッグをかけている。名前は筆見ふでみ サツキ。27歳独身。オカルト雑誌『パラノーマル・スクープ』の専属ライター。


編集長の指示で喉具呂島の全島民が失踪した事件について調査し、記事にするべく現地に足を運ぼうとしていたサツキ。しかし事件により喉具呂島へ向かう全ての定期船が欠航となっており、近くを通るという漁師を探し出して漁船に乗せてもらった。


本来なら客人を乗せることなどない漁船。波の影響を受けて上下左右に激しく揺れる。サツキは船酔いしてしまった。


ゲロゲロと海に吐き続けるサツキの背後、運転席で漁船を操縦する、白いタオルを頭に巻いた中年の男性漁師が声をかける。



漁師「姉ちゃん、そんな調子で大丈夫かよー?」


サツキ「大丈夫です……島に着いたら、ちゃんと取材しますから……」


漁師「弱ったまま島に入ると、姉ちゃんも喰われちまうぞ?」


サツキ「く、喰われる……?」


漁師「喉具呂島にある唯一の町をバケモノが襲って、住人をみんな喰っちまったんだとよ。まぁ、本当かどうか知らんがね。命からがら別の島に逃げてきたっていう、錯乱状態のヤツの話だからどこまで信じて良いものか」


サツキ「バケモノですか……」


漁師「もしそんなバケモノがまだ島にいたら、姉ちゃんみたいに弱ってるヤツは格好の餌食だろう。せいぜい気をつけなよ」


サツキ「向こうからやって来てくれるならありがたい……私の……取材対象……ですから……オロロロロロロロ」



漁船が喉具呂島の港に到着。サツキだけを降ろし、再び沖へと旅立っていった。

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