しかし島民がいないのだとしたら聞き込み調査ができないため、失踪の原因究明につながる痕跡を自力で見つけるしかない。サツキは船酔いで絶不調の体に
歩きながら、持参した一眼レフカメラで町内を撮影するサツキ。どの民家にも、商店にも人はいない。町だけを残して全員でどこかに引っ越してしまったかのようだ。一方で家具や商品などは残っている。島民は「移動した」のではなく「消えた」という表現のほうがしっくりくる。
4時間ほどかけて町を一回りし、港に戻って来たサツキ。呆然と海を眺める。島民失踪の原因ははっきりとしなかった。残るは町の外、木々が生える森の中を調査することだが、そろそろ日が暮れる。小さな島の森とはいえ夜に入れば遭難し、自分も失踪しかねない。森の調査は明日に回し、寝泊まりできる場所を探すことにした。
港から町へ戻ろうと振り向くと、3mほど前に少年が立っていた。黒い甚平を着て、生きたままのカツオを右手に持ち、かじりついている。
ポコポコ「なんや、まだ人おったんか」
サツキ「あの、島の方でしょうか!?」
ポコポコ「島の方……まぁそうやな。ここはオレの島や」
サツキ「私、オカルト雑誌でライターをやっていまして、喉具呂島の島民失踪事件について調査しに来たんです!ぜひお話を伺えませんか?」
ポコポコ「ええけど、その前にオレから質問してええか?」
サツキ「……はい、構いませ」
サツキは心臓を握りしめられるような感覚に襲われた。呼吸が速くなり、めまいがし、立っていられなくなる。その場にしゃがみ込むサツキ。船酔いとは違う、何らかの異常が体に起きていた。
ポコポコ「ここの島民、みんなオレのこと殺そうとしてきてな。アンタもオレのこと殺す気で来たん?」
サツキ「……い、いいえ……私はただ……取材に……」
ポコポコ「じゃあ今のところオレの敵ではないっちゅーことでええな?」
サツキ「……はい……取材が終われば……おとなしく……帰ります……」
サツキの体が軽くなる。胸の苦しみもめまいも突然消えた。ヨロヨロと立ち上がり、少年と向き合う。
ポコポコ「すまんね。ちょいとオレの邪気を放ったわ。アンタが敵やと言うなら、動きを止めて喰おうと思うてな」
サツキ「喰う……?島民は、得たいの知れない何かに喰われたというウワサがあるのですが、まさかアナタが……?」
ポコポコが左手の平をサツキに向けて、言葉を遮る。
ポコポコ「これってインタビューやろ?なら、回答するメリットがオレにないと答える気にならん。これから夜ご飯の準備せなアカンから、時間を無駄にしたくないねん」
サツキ「そ、そうですよね!失礼しました!謝礼はお支払いします」
ポコポコ「具体的には?」
サツキ「インタビュー30分につき5000円でいかがでしょう?」
手に持ったカツオを丸呑みにし、頬張りながら腕を組んで考え込むポコポコ。
ポコポコ「う〜ん金もええねんけど、それよりオレ友達が欲しいねんな。一緒に朝まで酒飲んでパーティする友達。でも島民とは馬が合わへんかった。アンタはどうやろ?オレと友達になる気、あらへん?」
想定外の質問をされ、サツキは目を丸くする。
ポコポコ「メシはオレが獲ってくるから困らへん。これからどんどん友達の輪を広げていくつもりや。もっともっと楽しくなるでぇ。どうやろ?オレの最初の友達としてこの島に住まんか?」
サツキ「友達……ですか。アナタの友達の定義に当てはまるかわかりませんが、しばらく行動を一緒にさせてもらってもいいですか?アナタからは島民失踪について有力な情報を聞き出せそうですし、もし失踪の原因がアナタなら、私がこの島に来た目的を達成できますから」
ポコポコ「なるほど。ええやん。島民どもよりよっぽど賢い選択したでぇ。友達のお試し期間っちゅうやつやな」
サツキ「ええ。期間限定で。私は取材が終わったら本州に帰りますが」
ポコポコ「わかった。でもどうやって帰るん?この島、オレ以外には動物しかおらへんし、オレ船の操縦なんてでけへんで」
サツキ「……ああっ!見落としてたぁ〜、帰る手段がないぃぃ〜!」
大声で笑うポコポコ。
ポコポコ「オモロい姉ちゃんやな〜!後先考えず行動する精神、嫌いやないでぇ。これから長い付き合いになりそうやな。よろしゅう」
サツキ「……お世話になります……」
ポコポコ「名前はなんて言うん?」
サツキ「
ポコポコ「いや本名を出してくれてええで。オレ、ポコポコいいますねん。ほんじゃ、メシでも食いながらインタビュー始めよかー」