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頭皮舐め

頭皮舐め①

市目鯖しめさば高校 2年C組教室

元担任教師・怠岡だるおかの退職により、しばらくの間C組は手の空いている教師が随時担任の代わりになっていた。しかしこの日から正式な担任が決定。他校から赴任してきたばかりの女性教師・皮崎かわさき リエ。49歳。担当科目・現代文。軽くパーマがかかった黒髪のロングヘアで、ベージュのジャケットとパンツを着用している。


チャイムが鳴ったと同時に生徒たちへ授業の終了を告げる皮崎。そして視線を真下に下げる。教卓の目の前の席で教科書類をバッグにしまっているシゲミを見つめ、話しかけた。



皮崎「アナタ、お名前は?」


シゲミ「シゲミです」



ピューマのように鋭い眼光で皮崎を見上げるシゲミ。皮崎はお構いなしに笑顔で話し続ける。



皮崎「シゲミさん、アナタの頭皮、すごくキレイね。市目鯖高校に来てから何クラスかで授業したけど、シゲミさんの頭皮のキレイさは暫定1位よ。青白くてうっすらと毛細血管が見える。毛穴に詰まりがなく、1つの穴から平均3本しっかりと髪が生えている……理想的ねぇ」


シゲミ「……はぁ、そうですか」


皮崎「頭皮、舐めさせてもらえるかしら?」


シゲミ「ええっ!?」



皮崎は口を開け、舌を出す。舌の長さは常人の3倍ほどあり、まるでカメレオンのようだ。シゲミの表情が引きつる。



シゲミ「いやダメですよ!」


皮崎「分け目に沿って舌を這わせるだけでいいの。3秒で終わるから、ね?いいでしょ?」


シゲミ「ダメです!」



シゲミは椅子から立ち上がり、廊下へと逃げ出した。



−−−−−−−−−−



昼休み 図書室

本棚と本棚に挟まれた通路を歩き、本を探すシゲミ。シゲミの視線とほぼ同じ高さの棚に、目当ての本を見つけた。シゲミが本を抜き取ると、生まれたスペースからピンク色のうねうねとした触手のようなものが飛び出す。「ひぃっ!」と声を上げて後ろに下がり、触手から距離をとるシゲミ。触手は本棚の奥に引っ込んでいった。


シゲミは恐る恐る本棚の向こう側を覗く。そこには皮崎が笑顔で立っていた。



シゲミ「皮崎先生……まさかさっきの触手……先生の舌?」


皮崎「ねぇシゲミさん、1回だけでいいの。頭皮、舐めさせて。私、アナタの頭皮を舐めずにはいられなくて。減るもんじゃないし、いいでしょ?」


シゲミ「だからダメですってば!」



シゲミは本を両手で胸に抱えながら逃げ出した。



−−−−−−−−−−



体育館での授業中

体操服を着た女子生徒たちが列になり、跳び箱8段の上を前転し、床に敷いた体操マットの上に着地していく。シゲミの番が回ってきた。前に並んでた生徒たちと同じように助走をつけて跳び箱の上で前転し、前屈みになってマットに着地する。


直後、背後から気配を感じたシゲミは、マットの上で2回前転し、跳び箱から離れた。跳び箱の最上段と2段目の隙間から、先ほど図書館で見かけたピンク色の触手が伸びている。触手はウネウネと左右に動き、跳び箱の中へ消えていった。



シゲミ「まさか皮崎先生……いるんですか?跳び箱の中に?」



跳び箱の中から皮崎の声が響く。



皮崎「よく気づいたわねぇ。シゲミさん、すごいのは頭皮だけじゃないようね。そう、着地で前屈みになったときが頭皮を舐めるチャンスだと思って跳び箱の中に隠れてたの。ここからだといろんな子の頭皮を観察できる……でもシゲミさん、やっぱりアナタがナンバーワンよ!さぁ、早く舐めさせてちょうだい!」



シゲミは授業中だが走って体育館から逃げ出した。



−−−−−−−−−−



放課後 化学実験室

実験用の黒いテーブルを囲んで座るカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキ。シゲミは3人に新任教師・皮崎について相談するべく、これまで自身に起きたことを全て話した。



トシキ「皮崎先生の気持ち、理解できなくもないなぁ。シゲミちゃん、髪も肌もキレイだから頭皮がキレイなことも容易に想像がつく。僕は舐めたいとまでは思わないけど、マイクロスコープで細かく観察したいとは思うね」


カズヒロ「トシキみたいな変態じゃなきゃ到底理解できねーよ!何だよ皮崎先生、まるで妖怪じゃねーか!」


シゲミ「私もあの先生は妖怪の類いじゃないかと思って、今日図書館で妖怪図鑑を借りたの。百鬼夜行の100番目あたりに皮崎先生がいるんじゃないかと。妖怪世界の山田勝己やまだかつみみたいな存在なんじゃないかと。でもいなかった」


サエ「図鑑に載っているかどうかは置いといて、皮崎先生は行動が変なだけで妖怪じゃなくて普通の人間なんでしょ〜?」


シゲミ「ええ。この世ならざる者が放つ邪気を先生からは感じない。正真正銘の人間。でも妖怪の中には『実はただの人間だった』というケースもあると思うの」


サエ「どういうこと〜?」


シゲミ「例えば小豆洗あずきあらいっていう妖怪、いるでしょ?今でこそ妖怪と呼ばれてるけど、あれってただ川で小豆を洗ってたおじさんだったんじゃないかしら?」


トシキ「たしかに、小豆洗いは悪さをする妖怪ってイメージじゃないしなぁ。ちょっと見た目が怪しいだけで」


シゲミ「奇人のウワサ話に尾ひれがついて妖怪になってしまったというケースは確実にあるはず。皮崎先生も今は人間だと認識されているけれど、やがて『頭皮舐め』として語り継がれる妖怪になると思うのよね……そうなる前に駆除しておくべきじゃない?」



シゲミは足下に置いていたスクールバッグの中から手榴弾を1つ取り出す。



カズヒロ「いや待て!今はまだ人間なんだから法律が適用されちまう!殺すのはマズイってー!」


シゲミ「でも私、本当にイヤなの。人の舌というか、唾液が気持ち悪くて苦手で。歩道に吐き捨てられたたんとか絶対に踏まないよう避けるし、犬に顔を舐められるのも無理なの」


サエ「気持ちはわかるけどさ〜、殺す前に他の先生に相談してみたら?」


カズヒロ「でも信じてくれっかなー?皮崎先生が頭皮を舐めようと画策してるなんて話。しかも赴任してきたばかりだから、他の先生も皮崎先生がどんな人かよくわかってないだろうしよー」


サエ「まぁね〜。しかも心霊同好会のシゲミが言うとなおさら信用されないかも。ほら、アタシらってたぶん先生たちからも『オカルト好きの変人』って思われてそうじゃん?『先生が妖怪だ!』なんて、いかにもアタシらが言い出しそうなことだし」



右手でアゴを触り考え込んでいたトシキが「そうだ!」と何かをひらめく。



トシキ「1つ方法があるよ。生徒会のオールバック会長に頼んで、皮崎先生に注意してもらうのはどう?彼の母親、PTAの会長をやってるから先生たちも頭が上がらないらしい」


カズヒロ「アイツに頼むのかー?」


トシキ「生徒会で除霊をやるって言ってたくらいだから奇妙な話でも信じるだろうし。何よりシゲミちゃんをライバル視してる彼なら、貸しを作ろうと話に乗ってくるんじゃないかな?」


シゲミ「……たしかに。ありがとうトシキくん。私、生徒会室に行ってくるわ。頭皮を守るために」

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