目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

未練の終着駅

未練の終着駅①

心霊同好会のカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキは、授業が終わってすぐ最寄りの市目鯖しめさば駅で電車に乗った。目的地は本来存在しないはずの駅「くろばみ駅」。とある手順で電車を乗り継いでいくとたどり着けるとネットでウワサになっている。その真相を確かめに行くのが、この日の彼らの活動目的だ。


電車の座席に横並びで座る4人。



カズヒロ「トシキー、くろばみ駅の行き方、もう1回教えてくんね?よく覚えられなくってよー」


トシキ「まず市目鯖駅から軍艦ぐんかん駅まで行く。軍艦駅で地下鉄いわし線に乗り換えて13駅先の終点・漬間黒づけまぐろ駅に着いたら一度改札を出る。その後いわし線にまた乗って軍艦駅に戻り改札を出る。これを3往復。この手順を踏んで軍艦駅からいわし線に乗ると、漬間黒づけまぐろ駅の先にある幻の終点・くろばみ駅にたどり着ける……覚えた?」


カズヒロ「んー、やっぱ無理。俺はお前に着いていくよ。道案内よろしくー」


サエ「私も軍艦駅に行くところまででギブ。トシキに任せた〜」


シゲミ「同じく」


トシキ「そんなに複雑じゃないと思うけど……キミたちそのざまでよく東京で生活できてるね」



軍艦駅で降車した4人。地下鉄いわし線に乗り換え、漬間黒づけまぐろ駅へ。およそ2時間半かけて軍艦駅から漬間黒づけまぐろ駅の間を3往復した。


4人はいわし線の車内、乗降口付近に立ち、「くろばみ駅」を目指す。



トシキ「このまま乗っているとまた漬間黒づけまぐろ駅に到着するけど、アナウンスが変わるんだって。本来なら『終点、漬間黒づけまぐろ駅』ってアナウンスが、ただ『漬間黒づけまぐろ駅』って言うだけになるそうなんだ」


サエ「じゃあアナウンスを聞いてれば、くろばみ駅への手順が上手く踏めたかどうかもわかるってことね〜」


トシキ「もし変化がなければ失敗したか、そもそもくろばみ駅はなくてガセネタだったってことになるかな」


カズヒロ「2時間半もかけたんだから何か収穫はほしいけど、あまり期待しないでおくかー」



漬間黒づけまぐろ駅の手前で、車内に男性運転士の声でアナウンスが流れる。



“次は、漬間黒づけまぐろ駅、漬間黒づけまぐろ駅。お出口は右側です”



サエ「……言ってなかったよね?『終点』って」


シゲミ「言ってないわね」


カズヒロ「じゃあ成功かー?」


トシキ「まだわからない。このまま乗り続けよう」



電車が漬間黒づけまぐろ駅のホームに到着し、シゲミたち以外の乗客は全員降車した。電車の扉が閉まり、発車する。



トシキ「進んだ……折り返すはずなのに進んでる!」


サエ「マジ〜?本当に行けるの〜?」



車内にアナウンスが流れる。



“次は、終点・くろばみ駅、くろばみ駅。お出口は右側です”



シゲミ「確定したわね」


カズヒロ「すげー!ウワサは本当だったのかー!……でもトシキ、帰りはどうするんだ?」


トシキ「くろばみ駅には10分に1本くらいの頻度で電車がやって来るらしい。それに乗れば普通に戻れるそうだよ」


カズヒロ「……意外とあっけないんだなー」


トシキ「くろばみ駅に行こうって言い出したのは僕だよ?腰抜けな僕がリスキーな場所を選ぶわけないじゃない」



シゲミたちを乗せた電車が駅に到着した。車窓から見える看板には「くろばみ駅」と記載されている。



扉が開き、4人は電車から降りる。シゲミたち以外に電車から出てくる人は誰もいない。一見するとどこにでもある地下鉄の駅だが、利用客も駅員もおらず静まり返っている。上階の改札に続いているであろうエスカレーターは停止し、自動販売機の飲み物は全て売り切れのマークが表示されている。



サエ「ここがくろばみ駅〜?ちょっと気味悪いけど思ってたよりフツーかも」


カズヒロ「とにかく見事にたどり着けたんだ!写真撮ろうぜ写真ー!」


シゲミ「帰宅ラッシュの時間帯なのに誰もいない。すごく静か……私は知らないけど、終電の駅ってこんな感じなのかしら?」


トシキ「くろばみ駅に限らず、終電はどこの駅もこんな雰囲気なんじゃないかな?大人になって働き始めたら、毎日こんな不気味な駅を使わないといけなくなるのかも……そんな将来こそ怖い」



くろばみ駅構内の写真をスマートフォンで撮影する4人。その最中、電車の扉が閉まり漬間黒づけまぐろ駅方面へと折り返していった。



トシキ「電車が折り返すってウワサも本当みたいだね」


サエ「次の電車は10分後くらいに来るんでしょ〜?」


トシキ「そのはず。次が来たらそれに乗って戻ろうか」


カズヒロ「じゃあタイムリミットは10分!その間にバンバン撮ろうぜー!」



撮影を続ける4人。およそ10分後、何のアナウンスもなく次の電車がホームにやって来た。シゲミたちが乗っていた電車に他の乗客はいなかったが、新しくやって来た電車はスーツ姿の男女ですし詰め状態だった。


電車が止まり、乗客たちが車両から降りてきた。その数は数百人。彼らは改札に向かわず、ホームでシゲミたちを円形に囲み、凝視した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?