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肉弾戦③

キョウイチ「シゲミさぁぁぁん!手を出すなぁぁぁ!」



加勢しようとしたシゲミに向かってキョウイチが吠える。動き出そうとした寸前で足を止めるシゲミ。


キョウイチは怪異の両腕による殴打の隙間を縫って左足を振り上げ、つま先でアゴを蹴った。頭を上に向けて状態を逸らす怪異。キョウイチの反撃を食らい、ラッシュ止める。


体の自由を奪っていた怪異の腕の力が緩んだことに気づいたキョウイチは、その両腕を思い切り握りしめ、握力で骨をへし折る。怪異は痛みでキョウイチから手を離した。4本中2本の腕があらぬ方向を向いている。


地面に向かって血を吐くキョウイチ。あばら骨が何本も折れすでに満身創痍だが、戦意は折れていない。


一方、怪異も体勢を立て直す。そして折れた2本の腕を肩の付け根から引きちぎった。残り2本の腕があれば折れた腕は不要という意思表示。怪異はちぎった腕を大きな口で丸呑みし、咀嚼する。



怪異「キミ強い……面白い……ワクワクする……」


キョウイチ「自分も同じだ。血湧き肉躍る……こんな感情は久しぶりだ。インターハイでも味わえなかった興奮!」



刹那の静寂の後、怪異に向かって走り出すキョウイチ。怪異もキョウイチ目がけて駆け出す。怪異の長い腕はキョウイチのリーチをはるかに上回っており、同時に攻撃をしかければ怪異のほうが有利。キョウイチの左右から拳が襲う。


キョウイチはスピードを緩めることなく怪異の拳を見切り、頭を下げてかわした。そして怪異のみぞおちに右膝蹴りを見舞う。キョウイチの膝は怪異の背中まで貫通した。



怪異「強かった……敵わない……でも楽しかった……」


キョウイチ「押忍おす!こちらこそ!」



怪異の体が渇いた砂のようにボロボロと細かく崩れ、風とともに夜の空へ消えていった。



四つん這いになり吐血するキョウイチに、シゲミが駆け寄る。



シゲミ「すぐに救急車を呼ぶわ」


キョウイチ「すまない……手間をかける」


シゲミ「いいえ。凄まじい一戦を見せてもらったお礼」



シゲミはスマートフォンで119番に連絡した。



−−−−−−−−−−



翌日 AM 7:52

市目鯖しめさば高校 正面昇降口

下駄箱の前でローファーから上履きに履き替えるシゲミ。教室へ向かおうとしたとき、目の前に空手道着姿のキョウイチが立ち塞がった。



キョウイチ「シゲミさん、おはよう。そして昨晩はどうもありがとう」


シゲミ「おはよう……ってキョウイチくん、病院を抜け出してきたの?」


キョウイチ「違う。退院したんだ」


シゲミ「退院って、昨日あんなにボコボコにされてたのに?頬骨とあばら骨が折れてたはずじゃ」


キョウイチ「一晩寝たら完治したよ。お医者さんに驚異的な回復力だと言われたけれど……そんなにすごいことだろうか?これくらいの怪我、いつもすぐに治るからな」


シゲミ「ええ……?」


キョウイチ「怪異に襲われた部員たちも退院させようと思ったのだが、まだ治療が必要らしい。まったく、鍛え方が足りてないな。あの軟弱者どもが」


シゲミ「いやキミがおかしいんだと思うけど」


キョウイチ「ところでシゲミさん、別の怪異の駆除依頼は来ていないかい?もっと強い怪異がいるなら、戦ってみたいんだ」


シゲミ「来てないけど……今まさに恐ろしい怪異と対面している気がするわ」


キョウイチ「もしシゲミさんの手が足りないときはいつでも自分を呼んでくれ。『地球最強』……その称号を手に入れる日まで、何体でも怪異を倒してみせる」



キョウイチは「押忍!」と言い残し、去って行った。呆然とするシゲミの背後から、心霊同好会のトシキが声をかける。



トシキ「おはようシゲミちゃん!どうしたの?ぼーっとしちゃって。何かあった?」


シゲミ「トシキくん……私は恐ろしい怪異を目覚めさせてしまったかもしれない……」


トシキ「えっ!?どういうこと!?恐ろしい怪異って何!?シゲミちゃんでも駆除できないの!?」


シゲミ「敵じゃないんだけど、私の常識を大きく超えた怪異が誕生してしまったの……今度、心霊同好会のみんなで調査しに行きましょう」


トシキ「……僕たちに危険が及ばない怪異なら大賛成だけど、どこにいるの?」


シゲミ「空手部」



<肉弾戦-完->

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