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肉弾戦②

PM 7:15

空手部員たちが襲われたという住宅街にやって来たシゲミとキョウイチ。人通りはなく静まり帰っている。崩れたブロック塀や折れ曲がった電柱、クレーターができた道路が、この場所で激しい戦闘があったことを物語っていた。


キョウイチは空手道着に裸足で、すでに戦う準備万端といった状態だ。



シゲミ「よく生きてたわね、部員たち。コンクリートが砕けるほどの攻撃を食らったというのに」


キョウイチ「ヤツらは空手の技術こそまだまだだが、タフさだけは並外れている。なにせ、毎日自分と組み手をしてるのだから」


シゲミ「たしかに人を10mも吹き飛ばすキョウイチくんのパンチを毎日食らってたら頑強にもなるか」



シゲミは戦闘の跡をまじまじと観察する。



シゲミ「キョウイチくん、部員たちは怪異に襲われたのよね?襲ったのではなく」


キョウイチ「そう聞いている。何か引っかかることが?」


シゲミ「5人全員が異様にタフということを抜きにても、怪異が襲った人間を殺していないのが気になるの。怪異は自分の姿を人間に見られることを嫌う。存在がウワサとなって広まり、別の人間に狙われるリスクが高まるから。そのため目撃した者を口封じのために殺すことが多い」


キョウイチ「ではこの怪異はシゲミさんの認識と異なる動きをしていると?」


シゲミ「もちろん例外はあって、全ての怪異が姿を隠したがるわけじゃない。むしろ人間に対し積極的に自分の力を見せつけて、畏怖の念を抱かせようとする怪異もいる」


キョウイチ「……人間にも同じことが言えるな。何か悪いことをする場合、人にバレないよう隠れて行うのが基本だが、あえて悪事をひけらかして武勇伝のように語り『オレすげーっしょ?』という態度をとる者もいる」


シゲミ「そんな感じね。この怪異、もしかしたらキョウイチくんと同じかも」


キョウイチ「というと?」


シゲミ「強そうな人間をボコボコにして、生かしたまま逃がす。そのウワサを聞きつけたさらに強い人間と戦う……この繰り返しで、自分の実力を測っているのかもしれない」


キョウイチ「……だとしたら、自分と怪異は遠からず出会う運命だったということ。強者と強者は引かれ合う。今宵が決戦のときだ」



付近の道路を歩き、怪異を探すシゲミとキョウイチ。30分ほど歩き続けたとき、異形の存在と鉢合わせた。痩せた男性のような体つきで肌は真っ白。一つ目で口が大きく裂け、地面に着きそうなほど長い腕が体の左右から2本ずつ、合計4本生えている。空手部員たちの情報と特徴が合致する怪異。


シゲミとキョウイチ、怪異は15mほど離れ向かい合う。



シゲミ「あれね」


キョウイチ「シゲミさん、協力ありがとう。戦うべき相手が見つかった。後は自分に任せて下がっていてくれ」



後方に5歩下がるシゲミ。



シゲミ「約束、わかってるわよね?」


キョウイチ「もちろん。ヤツを必ず倒す」


シゲミ「いや、もしキョウイチくんがピンチになったら私が加勢するって約束」


キョウイチ「加勢は不要。自分が負ける姿などイメージできない」


シゲミ「……なんなのよ、あの脳筋」



キョウイチは怪異のほうへと歩く。怪異ものしのしと歩みを進めた。双方の間合いが2mほどに縮まる。キョウイチの身長は180cm後半だが、怪異はキョウイチよりさらに頭1つ分は背が高い。


怪異は裂けた口を釣り上げる。



怪異「キミ……強そうだな……僕と戦おう」


キョウイチ「言葉がわかるのか?」


怪異「少しだけね……でも強者は拳で語り合うもの……」


キョウイチ「同感だ」



キョウイチは右の拳で怪異の腹部を殴った。体勢を崩し数歩下がる怪異だが、倒れない。


怪異は左腕の1本を横になぎ払うように動かし、キョウイチの左頬に平手打ちを入れた。大きく弾き飛ばされたキョウイチの体が、ブロック塀にめり込む。口から血を流しながら立ち上がるキョウイチ。



キョウイチ「強烈……」


怪異「キミのパンチ……軽いよ……もっと本気出して……」



キョウイチは飛び上がり、体を回転させながら右足で怪異の頭部を蹴る。怪異を吹き飛ばし、ゴミ集積所のポリバケツに突っ込ませた。



キョウイチ「足の筋肉は腕の数倍。すなわち蹴りのほうが拳より威力が上」



怪異は八つ当たりするかのようにポリバケツを握り潰す。立ち上がろうとする寸前、キョウイチが接近し、後頭部にかかと落としを見舞った。怪異の頭は地面に勢いよく衝突しひび割れを入れる。



キョウイチ「まだだ!」



キョウイチは右足を振り上げ、怪異の頭を目がけて再びかかと落としをする。しかし怪異が体を横に回転させながら移動したため、キョウイチの蹴りは空を切った。


渾身の力を込めた蹴りが不発になり、反動で大きな隙を生んでしまったキョウイチ。怪異はその隙を見逃さず、即座に立ち上がって左右の2本の腕でキョウイチの両腕を掴む。そして残り2本の腕でキョウイチの胴体を何度も殴打した。


身動きが取れない状態で、一発一発がショットガンのような威力のラッシュを食らい続けるキョウイチ。



怪異「どうだ……?どうだ……?どうだ……?」



キョウイチのあばら骨が数本折れ、口から大量に吐血した。



シゲミ「ここまでね」



戦いを背後で見守っていたシゲミが、スクールバッグから手榴弾を取り出す。

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