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肉弾戦

肉弾戦①

AM 7:50

市目鯖しめさば高校 正面昇降口

ローファーを脱いで下駄箱の中の上履きに履き替えるシゲミ。教室へ向かおうとするが、眼前に男が立ち塞がった。黒髪のソフトモヒカンで、空手道着を身につけた体格の良い男。靴は履いておらず裸足のまま。



シゲミ「アナタはたしか……」


キョウイチ「2年H組、空手部主将のキョウイチです。シゲミさんに相談したいことがありせ参じた次第」


シゲミ「そうだ。空手部のキョウイチくん。インターハイ2連覇したのよね?おめでとう」


キョウイチ「どうもありがとう。来年の3連覇に向けてこれからもコツコツ練習を……ってそんなことはどうでもいいんだ。急を要する事態でね。シゲミさんが駆除している怪異というヤツに部員が襲われたかもしれない」


シゲミ「怪異に?」


キョウイチ「今日の朝練を無断で休んだ部員が5人もいてね。連絡したら全員昨夜から入院しているそうなんだ。練習終わりの夜道で、妙な生き物に襲われたらしい。見た目は服を着ていない痩せた男なのだが、目が1つしかなく、口が大きく裂け、腕が4本あったのだとか」


シゲミ「……話が本当なら怪異の可能性が高いわね」


キョウイチ「5人とも同じような特徴を言っていたから、信頼していいと思う」


シゲミ「その怪異の駆除を私に依頼しに来たのね」


キョウイチ「いや、シゲミさんには怪異を見つける手伝いをしてほしい。見つけたら後は自分がやる」


シゲミ「えっ?」


キョウイチ「部員たちを襲った怪異と拳を交えたい。もちろん主将としてかたき討ちしたい気持ちもあるが、それ以上にウチの部員を5人も病院送りにした怪異と武闘家として戦ってみたいんだ。襲われた部員の中にはインターハイ経験者が3人いる。ソイツらでも歯が立たない怪異に自分がどこまで通用するのか試してみたい……」


シゲミ「強者を求めているの?」


キョウイチ「そのとおり。自分が目指すのは『地球最強』。この世に怪異がいるのならば、人間の強者だけを倒していても『地球最強』にはなれまい……強い怪異を倒してこそ真の最強だ!」


シゲミ「やめておいたほうがいいわ。拳を交えるってことは素手で戦うつもりでしょ?怪異は人間が素手で戦って勝てる相手じゃない。私も必ず武器を使う」


キョウイチ「仮に負けたら、自分はその程度の武闘家だったということ。殺されても悔いはない」


シゲミ「……死にに行こうとしてる同じ学校の生徒をみすみす見逃せないわね……」



2人の鼓膜を女子生徒の甲高い悲鳴が揺らした。少し遅れて、低い声で「全員殺してやるぅ」という声が響く。両方ともシゲミとキョウイチからごく近い。


昇降口にいた生徒たちが校舎の中へと逃げていく。生徒たちが逃げる方向と逆に走るシゲミとキョウイチ。その先には目出し帽を被った全身黒ずくめの男がいた。左手にサバイバルナイフを握っている。



男「恵まれたガキどもがぁ!いつまでも楽しい学校生活が送れるなんて思うなよ!社会は地獄だぁ!オレが教えてやるぅ!オレは地獄からの使者だぁ!」


シゲミ「なんであんなヤツが……市目鯖の治安はどうなってるのよ」



シゲミは左肩にかけたスクールバッグに手を入れ、手榴弾を取り出そうとする。その瞬間、シゲミの少し後ろにいたキョウイチがナイフを振り回す男に向かって駆け出した。キョウイチは右足でナイフを持つ男の腕を蹴り上げる。ナイフは男の手を離れ、天井に突き刺さった。無防備になった男の腹に、キョウイチの正拳突きが突き刺さる。その威力は凄まじく、男を10mほど吹き飛ばし、背後の壁にめり込ませた。


気を失いうつ伏せに倒れた男は、騒ぎを聞いて駆けつけた教員たちによって取り押さえられた。


シゲミのほうに振り向くキョウイチ。



キョウイチ「今のは自分の実力の20%程度。自分はもう、人間が相手では満足できない体になってしまったんだ。怪異と戦う機会がほしい」


シゲミ「……わかった。怪異を探すのを手伝ってあげる。駆除はキョウイチくんがやっていい。ただし危険だと判断したら私も加勢するわ」


キョウイチ「押忍おす!かたじけない!」


シゲミ「放課後、空手部員たちが襲われたという辺りを探してみましょう。怪異はテリトリーを持っていて、その範囲内でのみ行動することが多い。もしかしたら今日も同じ場所に現れるかも」

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