埠頭で、右手に持ったハンドグリップつきのスマートフォンで自撮りしながら画面に向かって意気揚々と語りかける若い男が一人。赤いキャップを後ろに被り、白いパーカーにジーンズ姿。
男「ハロー!
スマートフォンに向かって左手で敬礼をするヤクムス。
ヤクムス「今日、僕が来たのは喉具呂島という島です!なんでもここにポコポコと名乗る邪神が暮らしていて友達を募集してるんだとか!何言ってるかわからないかもしれないっすけど、雑誌にそう書いてあったんで!」
画面に表示される視聴者からのコメントは、「ポコポコ様早くカモン」「ヤクムス&ポコポコ様という最強コラボ」など、ポコポコへの期待が込められたものばかり。
ヤクムス「島への連絡船が全部欠航だったので、オヤジのクルーザーをパクって来ちゃいました!後で怒られんの確実だなー!でも仕方ないっすよね!僕のジャーナリズムがポコポコを撮影しろと叫んでいるのだから!」
視聴者からのコメントが全て「呼び捨てにするな。様をつけろ」で埋まる。
ヤクムス「早速、この島にいるポコポコを探して友達になってみようと思いまーす!」
ヤクムスは埠頭から港町に向かって歩き始める。町のほうから黒い
ヤクムス「おっ!第一町民発見!キミー!ポコポコって知ってるかな?」
ヤクムスはスマートフォンの画面を少年に向ける。
ポコポコ「ポコポコはオレやで」
ヤクムス「えっ!?マジで!?もう見つけちゃった!?僕めっちゃ運良いじゃん!」
ヤクムスはポコポコの左隣に立つと肩を組み、自分とポコポコが映るようにスマートフォンを構える。
ヤクムス「いぇーい!ヤクムスwithポコポコ!俺たちもう友達でーす!」
ポコポコ「友達?お前、友達志願者か?」
ヤクムス「そう!雑誌を見て来たヤクムスでぇす!どうぞよろしく!」
ポコポコ「おお、そやったか。ほんなら歓迎せなアカンな!何か食いたい魚ある?今すぐ獲ってきたるで!超新鮮や!」
ヤクムス「それより僕はお話しがしたいんですよねぇ!ほら、生配信やってて視聴者はポコポコってどんな人か知りたがってるんで!」
スマートフォンを指さすヤクムス。ポコポコは画面を覗く。
ポコポコ「ほう。この薄い板の向こうで誰かがオレのこと見とるんか?」
ヤクムス「そうです!」
ポコポコ「じゃあ良い宣伝になるなぁ。見てる人、喉具呂島に遊びに来てやー」
画面に向かって右手を振るポコポコ。
ヤクムス「じゃあどこか座れるところでお話ししましょうよ!……あっ、敬語じゃなくてタメ口が良いんだよな?友達だから!どっかで話そうぜポコポコ!」
ポコポコは自身の肩に回されていたヤクムスの左腕を払いのける。その威力は凄まじく、ヤクムスの左腕を付け根から切断するほどだった。一瞬の出来事で痛みすら感じなかったヤクムス。肩から大量に出血したことで、ようやく状況を把握する。
ヤクムス「あがぁぁぁあぁぁあ腕、腕、う、腕がぁあぁぁぁああぁっ!!」
ヨロヨロとその場に倒れ込むヤクムス。スマートフォンを地面に落とし、左肩を押さえるが出血が止まらない。ポコポコは落ちたヤクムスの左腕を拾い上げると、丸呑みした。
ポコポコ「友達かどうか認めるのはオレや。お前やない。オレは歓迎するとは言ったが、友達になったとは言ってへんで。友達ちゃうのに呼び捨てにしたり、タメ口使ったりするのは失礼やろ?どういう教育受けてきたんや?」
ポコポコをにらむヤクムス。
ポコポコ「テメェ……俺を誰だか知っててこんなことしたのか……?」
ポコポコ「あー、なんか名前言っとったな。ヤク……ヤク中やっけ?」
ヤクムス「ヤクムスだ!ヤクザの息子、略してヤクムス!しかもただのヤクザの息子じゃねぇ……俺のオヤジは構成員1万人、
ポコポコ「なるほど。じゃあお前を殺したらもっと友達候補が島に来てくれるっちゅうわけやな」
ポコポコはヤクムスの首を右手でつかみ、体ごと持ち上げた。足が地面につかず、バタバタと暴れるヤクムス。
ポコポコ「片腕がちぎれて出血多量。このまま200m先の沖合にぶん投げたらどうなるやろなぁ?失血死が先か、溺死が先か」
ヤクムス「あああ……あやま……あやまるから……やめ……やめてく……れ……」
ポコポコは海に向かってヤクムスを放り投げる。体ごと野球のボールのように真っ直ぐ飛んで行くヤクムス。埠頭からはるか離れた沖に着水し、海の中へ沈んでいった。
沈みゆくヤクムスをちらりとも見ることなく、ポコポコはヤクムスが乗って来た中型のクルーザーに近寄る。
ポコポコ「これがあると、サツキちゃんに島外へ逃げられてまうかもしれへんなぁ。ぶっ壊しとくか」
ポコポコは地面を両足で蹴ると、30mほどの高さまで大きく飛び上がった。そしてクルーザー目がけて急降下。砲弾のごときスピードで船体を貫き、爆破させた。