3日後 東京都内某所
暴力団・
畳張りの広い部屋で、向かい合うよう2列になり正座をするスーツ姿の男が6人。彼らから少し離れ、部屋の最奥で老爺が一人あぐらをかいている。スキンヘッドで和服に身を包み、右手には赤い
老爺は盃に入った酒を飲み干し、口を開く。
老爺「息子には毎晩7時までには家に帰るよう言い聞かせてある。もし何の連絡もなく2日以上留守にした場合は誰かに殺されたと見なし、殺したヤツに報復するともな。アイツがこの決まりを破ったことは今まで一度もなかった……だが今回は違うだ。もう3日経ったが何の音沙汰もなし」
正座しているうちの一人、金髪でオールバックの男が老爺のほうへ体を向ける。
男「坊ちゃんの行方について、ウチの組の者に調べさせました。言いづらいのですが……坊ちゃんはほぼ間違いなく殺されています」
他の5人の男たちがざわめく。両目に涙をにじませる者もいた。
老爺「詳しく話せ」
男「はい。坊ちゃんは『ヤクムス』という名前でインターネットに動画投稿をしていたようです。視聴者はかなり少なく、特定するのに時間がかかってしまいました」
老爺「ワシに内緒でそんなことやってたのか。まぁ、子供には自由に生きさせるのがワシのポリシー。文句は言わん」
男「坊ちゃんは死ぬ寸前までリアルタイム配信をやっていたようです。その配信を録画してネットに再投稿しているユーザーがいました。坊ちゃんが死ぬ瞬間は映像に残っていませんでしたが、謎の男に腕を切り落とされたのは確認できました。以降はカメラを地面に落としたのか、画面はずっと暗いままで……死に際の声だけが記録されていました」
老爺「……息子を殺したヤツの顔は映ってたのか?」
男「ええ。はっきりと。場所もわかっています。
盃を畳の上に置く老爺。
老爺「動けるヤツ全員で喉具呂島にカチコミをかけろ。ワシの大事な一人息子を殺した男の首を持って来い。インテリアとして玄関に飾ってやるわ」
男「現在、傘下の組に連絡中です。それから会長が許可していただければ、外部の殺し屋も雇おうと何人か目星をつけています」
老爺「構わんが、誰を雇うつもりだ?」
男「どいつも裏社会で名の知れた凄腕です。例えば、元ヘビー級ボクサーで殺し屋の
老爺「ほう。もし接近戦になったらかなり頼れそうなヤツだな……他には?」
男「三つ子の殺し屋・ホウ、レン、ソウ兄弟。3人それぞれが両手にサブマシンガンを持ち、合計6丁の銃による乱れ撃ちで敵を蜂の巣に、いやレンコンにします」
老爺「その兄弟がいれば中・遠距離戦の対策もバッチリだな。悪くない……他は?」
男「悪魔のディープキッス・タカヒロ。唇と舌先に毒を塗って敵と口づけし、毒殺する殺し屋。ターゲットが男でも女でも口づけし、毒を喉の奥までねじ込みます」
老爺「ソイツ役に立つのか?カチコミだぞ?もっとこう……ドンパチできそうなヤツを雇え!」
男「最後にとっておきの候補がいます。爆弾魔・シゲミ」
老爺「……シゲミか。ならば万事解決だな。ワシが不安がる必要はない。だが彼女は人間の殺しはしないと聞く」
男「ダメ元で声をかけてみるつもりです」
老爺「いいだろう。金はいくらでも出す。使える殺し屋はどんどん雇え」
老爺が立ち上がる。
老爺「全力を挙げてワシの息子を殺したヤツの
男「はい。坊ちゃんは男のことを動画でポコポコと呼んでいました」
その名前を聞いた老爺の顔が青ざめる。
老爺「ポ……ポコポコ……それは事実か?息子を殺したのはポコポコ様なのか!?」
男「動画を何度も再生して確認しましたが、たしかにポコポコと言っていました」
老爺「……そっか。あーそう。そうだったのか。うん、じゃあカチコミ中止!組員たちに今すぐ通達しろ!殺し屋も雇うな!」
男「えっ!?坊ちゃんの仇は討たないんですか?」
老爺「そうだ!もうワシの息子のことは忘れろ!」
男「できませんよ!坊ちゃんはやがて鮮魚会を背負うはずだった!俺たちの次のボス!そんな坊ちゃんが殺されて泣き寝入りなんて」
老爺「ポコポコ様に逆らえば、恐ろしいことになる……それこそ鮮魚会は
男「俺たちは死を覚悟してます!会長、坊ちゃんの仇、討たせてください!」
老爺「坊ちゃん!?誰だそれ!?ワシの息子か!?ワシの息子は股間にぶら下がってる竿とボールだけだ!」
男「本当に記憶から削除しようとしてるよこの老いぼれ」
老爺「とにかくカチコミはやっちゃダメ!ポコポコ様には何があっても絶対に手を出すな!わかったな!」
男「……
<息子の仇-完->