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息子の仇②

3日後 東京都内某所

暴力団・鮮魚会せんぎょかい本部

畳張りの広い部屋で、向かい合うよう2列になり正座をするスーツ姿の男が6人。彼らから少し離れ、部屋の最奥で老爺が一人あぐらをかいている。スキンヘッドで和服に身を包み、右手には赤いさかずき。日本酒をたしなんでいる。この老爺は、構成員1万人を誇る鮮魚会の会長。組織のトップに当たる人物。


老爺は盃に入った酒を飲み干し、口を開く。



老爺「息子には毎晩7時までには家に帰るよう言い聞かせてある。もし何の連絡もなく2日以上留守にした場合は誰かに殺されたと見なし、殺したヤツに報復するともな。アイツがこの決まりを破ったことは今まで一度もなかった……だが今回は違うだ。もう3日経ったが何の音沙汰もなし」



正座しているうちの一人、金髪でオールバックの男が老爺のほうへ体を向ける。



男「坊ちゃんの行方について、ウチの組の者に調べさせました。言いづらいのですが……坊ちゃんはほぼ間違いなく殺されています」



他の5人の男たちがざわめく。両目に涙をにじませる者もいた。



老爺「詳しく話せ」


男「はい。坊ちゃんは『ヤクムス』という名前でインターネットに動画投稿をしていたようです。視聴者はかなり少なく、特定するのに時間がかかってしまいました」


老爺「ワシに内緒でそんなことやってたのか。まぁ、子供には自由に生きさせるのがワシのポリシー。文句は言わん」


男「坊ちゃんは死ぬ寸前までリアルタイム配信をやっていたようです。その配信を録画してネットに再投稿しているユーザーがいました。坊ちゃんが死ぬ瞬間は映像に残っていませんでしたが、謎の男に腕を切り落とされたのは確認できました。以降はカメラを地面に落としたのか、画面はずっと暗いままで……死に際の声だけが記録されていました」


老爺「……息子を殺したヤツの顔は映ってたのか?」


男「ええ。はっきりと。場所もわかっています。喉具呂のどぐろ島という離島に住んでいる男が坊ちゃんをったようです」



盃を畳の上に置く老爺。



老爺「動けるヤツ全員で喉具呂島にカチコミをかけろ。ワシの大事な一人息子を殺した男の首を持って来い。インテリアとして玄関に飾ってやるわ」


男「現在、傘下の組に連絡中です。それから会長が許可していただければ、外部の殺し屋も雇おうと何人か目星をつけています」


老爺「構わんが、誰を雇うつもりだ?」


男「どいつも裏社会で名の知れた凄腕です。例えば、元ヘビー級ボクサーで殺し屋の山田やまだ・ザ・ビースト。ヤツの右ストレートは人間の頭をトマトのように潰します」


老爺「ほう。もし接近戦になったらかなり頼れそうなヤツだな……他には?」


男「三つ子の殺し屋・ホウ、レン、ソウ兄弟。3人それぞれが両手にサブマシンガンを持ち、合計6丁の銃による乱れ撃ちで敵を蜂の巣に、いやレンコンにします」


老爺「その兄弟がいれば中・遠距離戦の対策もバッチリだな。悪くない……他は?」


男「悪魔のディープキッス・タカヒロ。唇と舌先に毒を塗って敵と口づけし、毒殺する殺し屋。ターゲットが男でも女でも口づけし、毒を喉の奥までねじ込みます」


老爺「ソイツ役に立つのか?カチコミだぞ?もっとこう……ドンパチできそうなヤツを雇え!」


男「最後にとっておきの候補がいます。爆弾魔・シゲミ」


老爺「……シゲミか。ならば万事解決だな。ワシが不安がる必要はない。だが彼女は人間の殺しはしないと聞く」


男「ダメ元で声をかけてみるつもりです」


老爺「いいだろう。金はいくらでも出す。使える殺し屋はどんどん雇え」



老爺が立ち上がる。



老爺「全力を挙げてワシの息子を殺したヤツのたまを獲れ!ワシの息子を殺したヤツは……って長くて呼びにくいな。相手の名前はわかってるのか?その名前で呼ぼう」


男「はい。坊ちゃんは男のことを動画でポコポコと呼んでいました」



その名前を聞いた老爺の顔が青ざめる。



老爺「ポ……ポコポコ……それは事実か?息子を殺したのはポコポコ様なのか!?」


男「動画を何度も再生して確認しましたが、たしかにポコポコと言っていました」


老爺「……そっか。あーそう。そうだったのか。うん、じゃあカチコミ中止!組員たちに今すぐ通達しろ!殺し屋も雇うな!」


男「えっ!?坊ちゃんの仇は討たないんですか?」


老爺「そうだ!もうワシの息子のことは忘れろ!」


男「できませんよ!坊ちゃんはやがて鮮魚会を背負うはずだった!俺たちの次のボス!そんな坊ちゃんが殺されて泣き寝入りなんて」


老爺「ポコポコ様に逆らえば、恐ろしいことになる……それこそ鮮魚会はしまいだ。全員殺される……」


男「俺たちは死を覚悟してます!会長、坊ちゃんの仇、討たせてください!」


老爺「坊ちゃん!?誰だそれ!?ワシの息子か!?ワシの息子は股間にぶら下がってる竿とボールだけだ!」


男「本当に記憶から削除しようとしてるよこの老いぼれ」


老爺「とにかくカチコミはやっちゃダメ!ポコポコ様には何があっても絶対に手を出すな!わかったな!」


男「……御意ぎょい



<息子の仇-完->

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